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デザインシステムだけじゃない!「大規模サービスでも一貫したデザインを実現する」3つの事例[前編]



あらゆるサービスにおいて、一貫した信念や軸を持ってプロダクトをデザインすることはとても重要なポイント。一貫性のあるデザインはブランドイメージの定着につながり、サービスの哲学やユーザーへの想いが反映されたUIはファンの獲得や定着につながるからだ。ただ、サービスの規模が大きくなるほど関連プロダクトの数や関わる人数が増え、「一貫したデザイン」は困難になる。
 
成熟フェーズのサービスが多いリクルートでは、この問題をどのように解決しているのか? 今回は、デザインディレクターとして大規模サービスに携わる3名が、「大規模サービスでも一貫したデザインを実現する」ための取り組みについて語った。
 
※9月28日に開催したオンラインイベント「プロデザ BY RECRUIT VOL.3 デザインシステムだけじゃない! 大規模サービスでも一貫したデザインを実現する3つの事例」から内容の一部を抜粋・編集しています。

後編はコチラ

「一人目の社員デザイナー」として挑んだ改革


 
一人目のスピーカーは、若松輝。『ホットペッパービューティー』などを展開するビューティー領域のデザインリーダーを務めている。
 
じつは、多くのプロダクトのデザインを外部パートナーに委託していた。そんななか、若松は「社員デザイナー」として入社し、デザインディレクターという役割を組織に根付かせていった。
 
若松のプレゼンテーマは「一貫したデザインの実現を夢見て、一人目の社員デザイナーとして取り組んだこと」。入社当初、多くの課題を抱えていたデザインの体制をどのように改善し、一貫したデザインができるチームへと変えていったのか。今回はその前段階のアプローチとして、「デザインの課題を整理し、優先順位をつけて対応すべきことを検討する」ための具体的なプロセスやポイントが語られた。


<PROFILE>若松輝。リクルート プロダクトデザイン室 飲食・ビューティー・旅行デザインマネジメントグループ マネージャー 美容領域のデザインリーダー
 

 
若松「デザインディレクターの役割はいくつかありますが、そのうちの一つが“事業に合ったデザインコンサルティング”です。例えば、すでに成熟フェーズにある大規模サービスにおいては、さまざまな施策やサブプロダクトなどが同時に走っており、関係者も多い。そのため、領域を横断してデザインの価値がいかに事業の価値につながるか、丁寧に翻訳することが重要です。そのうえで全体のデザインを統括し、クオリティを担保、あるいは向上させていく必要があります」
 
若松が所属するビューティー領域でいうと、『HOT PEPPER Beauty』という成熟フェーズのサービスがある。関連プロダクトは『HOT PEPPER Beauty』のWEB版とアプリ版をはじめ、美容クリニックの検索・予約サービス、さらには『SALON BOARD』という美容室やエステサロン、ネイルサロン向けの予約・顧客管理システムなど、多岐にわたる。
 
そのため、プロダクトごとにバラバラにデザイン施策を進めていては「一貫したデザイン」など望むべくもなく、そもそも非効率だ。大規模サービスにおいて重要なのは、サービス全体を俯瞰するコンサルティングを行ったうえで、個別のプロダクトのデザイン改善施策を考えること。これにより、サービス全体のデザインの整合性とクオリティが担保され、デザインの価値を最大限に事業へ反映することにつながる。
 

 
若松「具体的なデザインの改善施策を検討する際のポイントは主に2つあります。1つ目は、“事業効果への影響が大きそうな改善施策”であるかどうか。2つ目が、“各プロダクトの状況に合わせた改善施策”になっているかどうか。
そして、これらのポイントを確実に押さえるためには、リクルート社内のデザインディレクターと外部デザイナーがしっかり連携することはもちろん、デザインのプロセスやリソースを最適化するための体制・環境づくり、デザインの品質を安定的に向上させるための仕組みづくりが欠かせません」
 
まず、体制・環境についてだが、『ホットペッパービューティー』には現在3名のデザインディレクターが常駐し、各プロダクトに複数の外部デザイナーが関わっている。チームのリソースの配分やプロセスの管理、上下工程との連携などは社内のデザインディレクターが担い、実際の制作を担当する外部デザイナーが力を発揮しやすい環境を整えている。
 
また、デザインの品質を安定的に向上させる仕組みについては、プロダクトを横断した「デザイン品質向上のための起案検討」を行ったり、全ての案件でデザインレビューを行ったり、プロダクトごとのUIガイドラインを策定したりと、さまざまな施策を実施している。
 
このように、「体制・環境」と「品質向上」の2つの軸に重点を置き、サービス全体の一貫したデザインを目指しているのが、ビューティー領域におけるデザインコンサルティングだ。
 


デザイン課題を整理するための5ステップ


 
ただし、最初からこうした体制や仕組みができていたわけではなく、むしろ若松が2019年に一人目の社員デザイナーとして入社した当初は、多くの問題を抱えていたという。
 
若松「私が着任した当初は、そもそも“デザインティレクター”という役割自体がありませんでした。デザイン周りのことは、各プロダクトでバラバラに外部パートナーのデザイナーさんにお願いしている状態。しかも『HOT PEPPER Beauty』のWEB版と『SALON BOARD』を一人のデザイナーが兼務していました」



  
それ以外にも、改善すべき点は山積み。なかでも若松が“疑問”に感じたのは以下の点だった。
 
・開発側のディレクター主体でデザインレビューが行われていて、デザインの専門家の目でチェックがなされていなかった。なおかつ、定例や複眼でのチェックもなかった。
 
・WEBとアプリは表裏一体なのに、そのメンバー間のつながりが断絶していて、それぞれがどんな改善施策の検討をしているかが理解できていなかった。
 
・デザイナーがパートナー主体ということもあり、社内の上下工程への連携が不十分だった。
 
・デザインガイドラインが2015年から更新されていなかった。それも形骸化しており、十分に活用されていなかった。
 
若松「こうした諸問題の背景として、そもそも事業におけるデザインの価値が不明瞭で、会社がその重要性を十分に理解していなかったことが大きく影響していたように感じます。とはいえ、当時は社内にデザイナーのリソースが足りず、いきなり状況を大きく変えることは難しい。そこで、まずはデザインの課題をしっかり整理したうえで、優先順位をつけて対応すべきことを検討しようと考えました」
 
デザイン課題の整理にあたり、若松は5つのステップを踏んだ。
 
STEP1:関係者と信頼関係を築く
STEP2:関係者の業務内容や利益を理解する
STEP3:関係者の課題を理解する
STEP4:課題を整理し取り巻く状況を理解する
STEP5:各課題にどのようにデザインが関与しているかを考える
 
若松「はじめに着手したのは、関係者へのヒアリング。『HOT PEPPER Beauty』に携わるさまざまな関係者と、とにかくコミュニケーションをとることからスタートしました。リクルートにはチームや立場を超えて気軽に対話ができる“よもやま”という文化があり、入社間もない僕でも声をかけやすかったです。
 
STEP2では、そうして信頼関係を築いたうえで、実際に各々がどんな業務を行っているか深掘りしていきました。所属組織の役割や各自の業務内容、業務の目的、さらには関心を持っているポイントなどへの理解を深めていきましたね。



  
STEP3では、関係者一人ひとりが抱えている“理想とのギャップ”や“いま、直面している課題”をヒアリングしていきました。デザインに関係することはもちろん、関係ないことも含めて幅広く聞き取ったり、本人がまだ言語化できていない潜在的な課題についても、こちらから質問をしたりするなどして引き出すことを意識しました。
 
STEP4では、それらの課題を整理し、取り巻く状況の理解に努めました。関係者と一口に言っても、プロデューサーやディレクター、現場の開発担当者など、様々な立場の人がいます。そうした職域や領域、立場、さらには事業やプロダクトの状況なども踏まえて課題を整理していきました。


  
ここまでのSTEPをふまえたうえで、最後に“各課題に、どのようにデザインが関与しているのか”を考えました。ヒアリングを通して得られたデザインに関連する課題を整理することはもちろん、デザインに関連しない課題についてもデザインへの接合点を探っていったんです」



一方通行の課題認識ではうまくいかない


 
“一人目の社員デザイナー”として、リクルートの新しいプロダクトデザインの下地をつくってきた若松。その取り組みはもはや、1人のデザイナーの枠を超えている。若松自身も「正直、デザイナーである僕がここまでやる必要があるのかなと感じることもあったし、もっと短期的に、デザインスキルを活かして改善できる部分もあったと思います」と語る。
 
それでも、あえてイチからヒアリングや課題調査などを行い、丁寧なステップを踏んだのは、以下のような理由からだ。
 
若松「デザインの課題を抽出・改善していくにあたり、自分なりに4つのポイントを大切にしていました」
 
(1)相手の立場に立って考える
(2)現場の理解を最優先
(3)課題を正確に捉える
(4)表現手段としてのデザインにこだわらない
 
若松「まず、一つ目の『相手の立場に立って考える』について。これには、私やデザイナーという職種に対する信頼感や価値を感じてもらう意図がありました。私は一人目の社員デザイナーということで、前からいる関係者にとっては、ある意味“未知”の存在でした。そのため当初の反応は、『そもそも、デザイナーって何ができるの?』『外部パートナーのデザイナーさんと何が違うの?』といったもので、事業におけるデザイナーへの期待を想像してもらいにくい状態だったんです。そこで、まずは相手の立場に立ち、対話を通じて潜在的な課題感を把握したうえで、一緒に取り組む姿勢を見せていくことが大事だと考えました」
  


若松「二つ目の『現場の理解を最優先』ですが、例えばデザイナーの視点だけで『このデザインはイケてない。このUIは使いづらい』といった目先の課題だけを見ていると、デザイナー以外の関係者との認識にズレが生じてしまいます。『そこを変えることって、そんなに重要なことなの?』というくらいならまだいいのですが、場合によっては『こちらの状況も理解せず、勝手なことを言っているな……』と反発を招いてしまう可能性もある。そのため、デザイナー側からの一方通行な課題認識ではなく、チーム全体の環境やサービス・プロダクトの文脈、現場の状況と照らし合わせた課題を意識する必要があると考えました」


  
若松「三つ目は、これらをふまえたうえで『課題を正確に捉える』。サービスやプロダクトの“あるべき形”は環境や組織、時代背景によっても異なりますし、変化していくものです。そのため、場当たり的な改善では良い効果は見込めず、また、課題ごとの関係性を理解した上で施策を実施しないと、別の課題を生んでしまいかねません。そこで、『これは、本当に重要な課題なのか?』ということを何度も問い直しながら本質的な課題を正確に捉え、現場に浸透する施策を考えていきました」


  
若松「そして、四つ目の『表現手法としてのデザインにこだわらない』。よく言われることですが、デザインとは単にモノの色や形をつくるのではなく、問題解決のプロセスそのものを設計することを指しています。そのためには、“(課題解決の)阻害要件を捉え、環境を整備すること”が重要と考え、関係者との丁寧なコミュニケーションを意識しながら進めていったんです」
  


実際、こうしたプロセスを経て、改善の施策もスムーズにワークするようになったと若松。最後にまとめとして、若松がこの取り組みを通じて得た「3つの学び」が共有された。
 
・初動の現場理解や関係者との関係性構築が、その後の施策をスムーズに進める上ではポイント
・短期的なUIデザイン施策より、中長期的な組織デザインを意識する
・着任後すぐに短期的な成果が出ないと不安になるが、本質的な検討を心がける
 
組織に「デザインの価値」を根付かせ、サービスやプロダクトに反映させる道のりに近道はない。若松自身、その取り組みはまだまだ道半ばと考え、今も「一貫したデザインの実現」を目指して日々奮闘しているという。
 
後編では、『Airレジ』『スタディサプリ』などのプロダクトにおける取り組みを例に、「大規模サービスでも一貫したデザインを実現する」について、さらに深掘りしていく。

 
大規模サービスでも一貫したデザインを実現する3つの事例[後編]に続く
 


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