uxcon vienna ‘24に新卒2年目PdMが行って考えたこと
こんにちは !『リクルートダイレクトスカウト』のプロダクトマネージャー (以下PdM)をしている小菅です。新卒2年目になります。2023年12月にリニューアルしたサービスで、UXリサーチを推進しようと奮闘しています。
今回私は、2024年9月にオーストリアのウィーンで開催されたuxcon vienna ‘24に参加してきました。本記事では、 カンファレンスの様子や、学んだことをシェアしていきたいと思います。
uxcon vienna ‘24とは
uxcon vienna ‘24とは、オーストリア・ウィーンで開催される、UXデザインとUXリサーチをテーマにしたカンファレンスです。ワークショップ、セッションを合計すると50を超えるプログラムがあり、濃厚な2日間でした。
ヨーロッパの企業からの参加が多く、デザイナーやUXリサーチャーといった職種が大半を占めていました。
参加しようと思ったきっかけ
私の所属している組織は、特に定量分析に長けたメンバーが多く、難易度の高い 分析が日々行われています。一方で、半年前に立ち上がったばかりの組織で、正直なところ定性調査については後手に回っていることが課題でした。
UXを考えようと思うと、定量分析だけでは補完できない部分が必ずあります。価値を提供するカスタマーひとりひとりの顔を思い浮かべながら、そしてメンバー全員が同じカスタマーの姿を想起しながら、定量分析を行う。そうすることで、私たちPdMはカスタマーに「WOW」と驚いてもらえるような新しい価値を届けながら、健全に事業を推進することができると思っています。
このような思いから、どうしたら意味のあるUXリサーチができるだろうと、全くの手探りで半年間試行錯誤していました。徐々にプロダクト内でのUXリサーチの取り組みの認知度も上がってきて、リサーチ結果が案件の検討に活かされ始めてきており、嬉しい限りです。
事業内でのUXリサーチの取り組みの認知度も上がり、活用事例も出てきた。さあ下期はどこを目指そう?と思ったときに、一度外に出て、UXデザイン・リサーチに関わる人たちと話して事例を知りたいと思いました。
そこで、リクルートのプロダクトデザイン室にある「手挙げ研修制度 」を使ってみるといいんじゃない?と先輩から教えてもらい、uxcon vienna ‘24に参加することができました!
※手挙げ研修制度:参加したい研修を選び立候補すると、その研修に参加できるチャンスを得ることができるリクルートのプロダクトデザイン室の制度
カンファレンスで印象に残ったプログラム
From God-mode to science with experimentation
参照:From God-mode to science with experimentation (uxcon.io)
私たちは、「The God Complex(神コンプレックス)」に陥っていませんか?
UXデザイナーが自分の能力を過大評価して、自分がユーザーのことをなんでも知っていると思い込む。だからこそ、自分が考える「完璧な体験」を押し付けて本当のユーザー目線には立てていない提案をしてしまったり、そもそも思い込みで課題を創り出してしまったりすることを、「The God Complex」というようです。
事例として、ニュースサイトのUI変更に対するA/Bテストが紹介されました。デザイナーが「絶対にいいだろう」と思っていた変更内容にもかかわらず、結果的に満足度が下がるケースがあったそうです。UXデザイナーによる直感的なアイデアが必ずしも最適解ではない、と強調していました。
歴史的な検証と「King Complex」
古代バビロニアのネブカドネザル王は、肉こそが元気の源だと思っていました。しかし、弟子から野菜を食べたいと言われ数日間試したところ、肉しか食べていない人よりも元気になったそうです。
18世紀には、ジェームズ・リンド医師による壊血病治療が行われました。さまざまな食事メニューを患者に与えて 病状の変化の比較検証を行ったところ、回復にはビタミンCが含まれる食品が有効であることを解き明かしました。医療機関が、自分達の判断だけが正しいとしていたところに、検証結果で反論したのです。
正しい実験の結果は、王の決定や既にあった医療界の常識も覆します。この流れを「King Complex」と呼んでいて、実証的なデータが意思決定に与える重要性について語られました。
個人のキャリアにおける実験とデータの力
プレゼンターの方は、自身が若手の頃にしっかりと検証を積み重ねることによって、上層部や経験豊富なメンバーに意見を聞いてもらえるようになった経験があるそうです。
エビデンスを階層構造にすると、一番下にExpert opinionがあります。その上に、Controlled Study, Randomized controlled experimentがあり、上に行くほどエビデンスの価値が高まります。
Controlled Study = UXリサーチ
Randomized controlled experiment = A/Bテスト
にそれぞれ当たるとして、これらの検証を積み重ねることが重要だとしています。
検証文化の必要性
世界的企業であるMicrosoft社やAirbnb社も、検証の成功率はそれぞれ33%、8%だそうです。成功が保証されていない中でも、何が機能し、何が機能しないかを知るために検証を続けているといいます。
こうした世界的企業でも組織全体に検証文化を根付かせることで、CEOの意見であってもメンバーの意見であっても平等に評価される文化を作り出すことが可能です。検証を通じて、参画する人の全てのアイデアが同じくらい価値を持ち、組織内の創造性と効率の向上が期待できる、とのことです。
感想
The God Complexという言葉は、日本だとまだあまり聞かない概念だったのではないでしょうか。「本当のユーザー目線に立てているか?」と正面からガツンと問われている気分になる話でした。
私は新卒2年目で自信がまだあまりないため、ついつい「先輩の言うこと=圧倒的に正しい」と思うことが多々あります。 かつてマネージャーから「ボトムアップは合意形成とセット」という言葉をもらいました が、自分で検証を積み重ねることで自信をもって決定すること、それが周囲との合意形成に繋がるのだなというのは、当たり前のようですが発見でした。
また、A/Bテストは当社でもよく使う検証方法ですが、この効果検証で「負け」が出ることを恐れている部分があります。しかし、名だたる企業もこれだけ失敗をしているのだと思うと、恐れず検証から学ばなければとも思いました。
Define your UXR process
参照:Define your UXR process (uxcon.io)
ワークショップにも参加してきました!UXリサーチをどう設計するか?周囲の参加者と話し合いながら実際に設計してみようというセッションです。
みんなUXリサーチで同じように悩んでいる
最初に、周囲の参加者たちと「自身の組織でのUXリサーチの悩み」をシェアし合いました。
出てきた悩みとしては、以下のようなものでした。
リサーチに割く時間がない
参加者を集めるのが大変
うまく設計されていないから、目的を見失ったリサーチになる
インタビューがやりっぱなしになってしまう
専門のUXリサーチャーもデザイナーもいましたが、みんなが率直に出す悩みの普遍性に正直驚いてしまいました。私が手探りで頑張っている時と、同じような悩みを持っていたのです。他企業はきっとうまくやっていて、ハイレベルな悩みを持っているのではという悪い意味のバイアスを抜けられた瞬間でした。
プロセスを作るステップ
次に、プロセスを作るために必要なステップについて学びました。
Problem discovery - 課題探索
ユーザーの問題やニーズを広い視点で探索するProblem definition - 課題の定義
対象とする範囲を絞り込んで、特定の問題やニーズを取り上げて深く理解するDesign refinement - (課題を)リファインメントする
方向性が正しいかどうかをチェックするTesting and execution - テストと実行
A/Bテストやユーザビリティテストを行い、ソリューションが正しいか検査するMeasuring and monitoring - 測定とモニタリング
結果をどのように測って、評価するのかを決める
UXリサーチのプロセスを考えるときは、毎度1つ1つのステップに対し以下のことを考えていきます。
このステップのゴール
どんな準備をするか
大体のタイムライン
どんな探索方法をとるか
分析の方法
何がもたらされることを期待するか
ネクストアクション
複雑になったらどうシンプルにするか
自分のキャパシティ
過去のプロセスをただ繰り返すのではなく、見直し、ときには作る
プロダクトや事業のフェーズによって状況は様々です。まして、組織や企業など環境が変わったら尚更。どんな状況においても同じように効果が出るプロセスなどないので、都度考える必要があります。
今のプロセスで物足りないところは?一番の障害になっているところは?リサーチで得たいことと実際得られた結果に大きなギャップ が生まれているところはあるか?が問いかけの例になります。
感想
ここまで周りの人と確認する雑談を挟みながら座学で学び、最後課題の探索に絞って実践してみました。改めてプロセスを設計してみると、いままでの方法は闇雲に手当たり次第やるようなものだったなと思います。正直このプロセスはかなり長大ですが、プロダクトのUX課題の定義をするところから実践してみようと思えました。
最後に、ちょっと変わったセッションを紹介します。
Bridging worlds: The value of diverse skills in technology
参照: Bridging worlds: The value of diverse skills in technology (uxcon.io)
スピーカーの“Whoopi”さんは、マルチメディアデザイナーであり、開発者であり、クリエイティブディレクターです。ミュージックビデオの作成や、Netflix、Snapchat、BeRealなどでインタラクションデザイナーの実績があり、現在はInstagramでプロダクトデザイナーをしている、幅広い キャリアの持ち主です。
幅広いスキルを持つことの価値
ことITの分野では、デザイナー、エンジニア、リサーチャーそれぞれその役割を果たすために、さまざまなスキルが求められます。求人で書かれているスキルや経験が、実際に必要なものとは異なる場合が多いとの指摘です。テクノロジー業界で活躍するには幅広いスキルセットが役立つはずだ、とWhoopiさんは語っていました。
様々なスキルがあることは、組織内で横断的に活用できる「秘密兵器」といえます。例えば、ストーリーテリング、問題解決、行動設計などのスキルはさまざまな分野に転用が可能です。すべてのスキルを完璧に習得する必要はないが、スキルが役立つ場面を意識して学ぶことが重要だと語っていました。
非ITからのスキルの価値
実際、多くの人が非IT業界からIT業界へのような従来のキャリアパスを経ずにテクノロジー分野に参入しています。フォトグラファーやシェフ、ラッパーなど、他領域のバックグラウンドを持つ人々のスキルが、どのようにIT分野で活かせるかを解説していました。
フォトグラファー:ビジュアルストーリーテリング、ソフトウェアの使いこなし、資産管理などのスキルが、ITやデザインに転用可能。
シェフ:問題解決能力、プロセス最適化、顧客重視などが、技術分野でのリーダーシップに活かせる
ラッパー:ストーリーテリング、ブランド構築、データ駆動の意思決定といったスキルが、マーケティングやプロダクトデザインに役立つ
他分野の経験から得たスキルの転用
自身のキャリアを通して、音楽、マーケティング、ライブプロダクションなどさまざまな分野で培ったスキルが、IT分野でとても活かされたそうです。例えば、マーケティング活動で得たデータ駆動のアプローチやライブプロダクションでの観客の行動分析が、Snapchatでのユーザーエクスペリエンス設計やNetflixでの映像制作に活かされたとのこと。
多様なスキルを認識し、活かすために
ITに特化したスキルを強調する風潮に課題を感じ、非IT人材に見えるようなスキルが、テクノロジーに活かせることを示すツールの開発を提案していました。教師や図書館員などの職種が持つスキルを、IT分野に応用するための「スキル変換ツール」はどうか?というアイデアは面白かったです。
感想
uxcon vienna ‘24の オープニングセッションでも語られていましたが、コロナ禍のこの数年はレイオフが多発し、デザイナーやエンジニアにとって試練の多い時代だったそうです。このセッションを聴いて、ITにおける各職種はスキルで細分化されたプロフェッショナルが集まっているように見えるけれど、もっとプリミティブにスキルをみると何にでも応用でき、誰にだってIT分野で活躍することが可能なのだと思いました。
このカンファレンスに、PdMはほとんどいませんでした。デザインやUXリサーチに特化した職種の人たちばかりではじめはちょっと萎縮したりもしました。でも、みんな同じようにユーザーへ良い体験を届けるということに向き合っている人たちで、自分もそれに携わっていることに変わりはありません。あらゆるスキルや手段があったとして、様々ある問題をどうやって解決しようと考えるかが、重要なのだなと強く認識しました。
リクルートが「プロダクトデザイン室」と名付けているように、PdMもある種「デザイナー」なのかもしれません。PdMという名前のイメージを超えた、変化のデザイン、課題の解決に取り組みたいなと思いました。
まとめ
正直、新卒2年目でも海外カンファレンスに行かせてもらえるかな?とドキドキでしたが、しっかり思いが伝わり参加できたことにとてもありがたいなと思っています。
セッション以外にも、他の参加者と話す時間はとても有意義でした。UXリサーチの悩みを話し合ったり、他社で使われているツールや活用方法を教えてもらったり…よかったセッションのあとは直接スピーカーに感想を言いにいきました。そのまま連絡先 を交換したりと!繋がりもできました。
セッションも雑談もあらゆるところに学びがあることは、オフライン参加の旨味だと思います。
今回のカンファレンスで持ち帰ったことを、早速実践に移していこうと思います。これからの業務にさらにワクワクすることができたカンファレンスでした!
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