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吃音症の方に選ばれるプロダクト論

この記事は リクルート  プロダクトデザイン室  アドベントカレンダー 2022 20日目です。
 こんにちは、SaaSクライアントサクセスG所属のふまけんこと府馬健太郎です!
リクルートでは飲食店向けのオーダーシステムの『Airレジ オーダー』や、お店の経営アシスタントを担うプロダクト『Airメイト』クライアントサクセスに携わっています。


突然ですが皆様「吃音症」という障がいをご存じでしょうか?

何となく知っている方、聞いたこともない方、当事者です!という方まで、様々いらっしゃるかと思います。

こちら言語障がいの一種なのですが、何を隠そう僕自身が吃音症でして、歴20年以上のベテラン(?)になります!

今回、noteを通じて皆さんに吃音症について知って頂くことを初めとし、ユニバーサルデザインやバリアフリーについて触れながら、吃音症の方に選ばれるプロダクト・UXのご紹介をしていきたいと思います。

日頃表舞台に出てきづらい、イチ障がい者の声に耳を傾けて頂くことを通じて、プロダクトデザインやその他、なにか新たな気づきとして皆様のお役に立てれば幸いです!

1.吃音症について

吃音症とは

 話し言葉が滑らかに出ない言語障がいの一つです。吃音に特徴的な症状は、大きく以下の3つに分類されます。

  • 接頭後のくりかえし(連発)、例:「き、きのう」

  • 引き伸ばし(伸発)、例:「きーーのう」

  • ことばを出すまでに間隔が生まれる(難発、ブロック)、例:「・・・・きのう」

 上記のような、発話の流暢性(滑らかさ・リズミカルな流れ)を乱す話し方を吃音と定義しています ( ICD-10, WHO)(参考「吃音症とは」国立障害リハビリテーションセンター研究所)

 
症状を知ると「周りにこういう人いたかも、、」と心の当たりのある方もいらっしゃるかと思います。

吃音症の要因は大きく

  • 体質的要因(子ども自身が持つ吃音になりやすい体質的な特徴)

  • 発達的要因(身体・認知・言語・情緒が爆発的に発達する時期の影響)

  • 環境要因(周囲の人との関係や生活上の出来事)

の3つに分類され、それぞれが影響しあって症状が現れるという場合も存在します。

この他にも、成長に応じて症状が軽減される人が7割というデータが存在していたり、女性より男性の方がなりやすい等、様々な研究データがあるのですが、これ以上詳しい吃音症の定義、症状、原因等はここでは割愛します。ご興味のある方は以下のサイトをご覧下さい。

日常の困難

 吃音症について少し知って頂けたところで、次は具体的に日常でどのような不自由、困難があるか紹介させてください。

なお吃音の程度等、個人差が大きい障がいですので、あくまでここで触れる具体例はふまけん個人のケースとしてご理解頂ければと思います。

まず、ざっくり僕が苦手なことを大きく3つに分類すると

  1. 喜怒哀楽を伴う会話

  2. 電話

  3. 固有名をを呼ぶ(人の名前等)

1つ目は喜怒哀楽を伴う会話です。例えば嬉しいことがあり、「相手に早く気持ちを共有したい!」と焦ると上手く話せなくなったり、言葉に詰まることが多くあります。

2つ目は電話です。これは1番苦手と言っても過言ではありません。主な原因は相手の顔を見て話すことができないこと。つまり自分の声だけに相手の注意が集中するため、過剰に意識し、緊張してしまうことが原因だと思います。

3つ目は人の名前等、固有名詞を言葉にすることです。
「どういうことだ??」と思われる方も多いかもしれません。

吃音症の人は、「喋りやすい言葉(接頭語)」「吃音が出やすい言葉(接頭語)」を持っています。
例えば僕の場合は「サ行」や「破裂音(ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ等)」から始まる言葉が苦手だったりします。
 
そんな吃音の症状と上手く付き合うために、色々な対処法を編み出してきました。
こうした対処法など吃音との付き合い方も人それぞれなのですが、僕は対処法として「言いづらい言葉を同義語、類義語に置き換える」ことをします。

例えば、「スムーズに話せない」と言いたい時、苦手なサ行を避けて「円滑に話せない」と言い換えます。

自分の頭の中に話づらい言葉とそれに対応する同義語、類義語の辞書を持っているとイメージして頂くと分かりやすいかと思います。
吃音が出そうになったら辞書を開いて瞬時に言い換えを行う、といった感じです。

基本的にこの方法で一見スムーズに会話しているように見せることもできるのですが、3つ目に紹介した固有名詞だけは基本的に代替できる語彙が存在しないため、苦手な接頭語を伴う固有名詞は上手く発せないことが多いです。

2.ユニバーサルデザインについて

 この記事をご覧になる方はプロダクトデザインに携わる方、関心がある方が多いかと思うので、よく聞く言葉だと思います。

こちらも障がいとプロダクトを語る上で密接な関係を持つ概念であるため、改めてユニバーサルデザインについての基礎知識に触れさせてください。

ユニバーサルデザインとは

ユニバーサルデザインとは、身体能力、年齢、性別、国籍に関わらず、全ての人が使いやすいと思うように作られたデザインを指します。

ユニバーサルデザインは、1980年代、アメリカのロナルド・メイスによって提唱されました。
1960年代、アメリカでは障がいを持つ人が急増し、これらの人々が、あらゆる分野で差別を受けないようにするため、また、生活の不便さを取り除くため、車椅子を利用する障がい者であったロナルド・メイスが、バリアフリーなどの概念に代わって提唱したのが「ユニバーサルデザイン」でした。

日本では1995年頃よりユニバーサルデザインという言葉が知られるようになり、現在では様々な企業でその考え方が取り入れられています。

バリアフリーとの違い

 良く聞く似た言葉に「バリアフリー」という言葉も存在しますが、ユニバーサルデザインとどう違うのでしょうか?

総務省が定める障害者基本計画によると、バリアフリーは以下のように定義されています。

「バリアフリーとは、障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語で登場し、段差等の物理的障壁の除去を指すことがが多いが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられる」

総務省 障害者基本計画(平成14年12月閣議決定)

一方、ユニバーサルデザインは

「あらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方」

総務省 障害者基本計画(平成14年12月閣議決定)

と定義されています。

つまり、バリアフリーはユニバーサルデザインに内包されており、特に障がい者、高齢者について語る際はバリアフリーという言葉が使われると考えて良さそうです。

近年多様なニーズに応えるべく、ユニバーサルデザインに力を入れる企業や団体が増加しており、大きなビジネスチャンスも生まれるかと思います。

プロダクトデザインに関わる私たちは、自分とは違う誰かの視点に立ってプロダクトを考えることが出来れば、素晴らしいアイデアを生み出すことに繋がるかも知れませんね!

3.吃音症の方に選ばれるプロダクト・UXとは

 最後に吃音症の私がストレスフリーに使えるプロダクトやUXをご紹介できればと思います。

こちら、ふまけんの独断と偏見でピックアップしていますので、リクルートは勿論、吃音症の方の総意ではないこと、ご承知頂ければと思います。

プロダクト紹介①

突然ですが問題です。

仕事終わりにおでんが食べたいふまけん君はどこのコンビニに立ち寄るでしょうか?

  1. ローソン

  2. セブンイレブン

  3. ファミリマート

勘の良い方はすぐにお気づきですね、、、?

正解は、、2の「セブンイレブン」です!

それではセブンと、他2社の差がどこにあるのでしょうか、、?
おでんの出汁の違いでしょうか?オフィスの近くにセブンが多いからでしょうか?

その違いはズバリ「タッチパネル式のレジ」があるかないかです!!

会計時に支払い方法を画面をタッチして選ぶあのセブンのレジです!
実際に普段から利用されている方も多くいらっしゃるかと思います。

タッチパネル式のレジであることの利点は
「決済プロダクトの固有名詞を発さずに買い物ができる」点です。

詳細を説明すると、
僕は特に「サ行」や「破裂音」を発するのが苦手だと先述しましたが、「Suica」や「PayPay」などの固有名詞はこの例に当てはまります。

そのため決済方法をタッチパネルで選択する際、一言も発さずに決済方法に店員さんに意思表示できるこのタッチパネル式レジは、心理的にストレスフリーで使えるプロダクトだと言えます。

なお、似たシステムとしてセルフレジでもスムーズに買い物ができますが、ファミマ、ローソンだと全店舗に導入している訳ではなかったり、セルフレジでは購入しづらいタイミングもあるので(今回のおでんはセルフレジでは買えない等)、セブンを半無意識に選んでしまうことが多いです。

ほぼ同様の文脈ですが、マクドナルドに設置されている事前注文&決済用のプロダクトも素晴らしいシステムだと思います。
(イメージがわかない方は、紹介記事がありましたのでこちらをご覧ください→マクドナルドに注文タッチパネルが設置され始めた!【コミュ障に嬉しい】

海外のマクドナルドでは多くの店舗で採用されている印象ですが、日本のマクドナルドではまだまだ少数派なので、是非普及して欲しいなと思います。


プロダクト紹介②

 続いては飲食店における注文の場面から、「セルフオーダーシステム」を紹介します。

お客さんが座席から自身のスマホやお店のタブレットから注文できるサービスなのですが、コロナが流行して以降、店側とお客さんの接触を避ける意味合いで一気に数が増加したように思えます。
 
多くの吃音症の人にとって、お店で店員さんと会話してスムーズに注文するのはハードルが高いものです。

僕自身もカフェで注文する際「ホットコーヒー」が飲みたいのに、「ホッ」という言葉が出せなくて、仕方なく「アイスコーヒー」を頼んだりすることもありました。

その点、セルフオーダーができると自分が食べたいものを好きなタイミングで自由に注文できるので、タッチパネル式レジと同様、ストレスフリーな体験が得られます。

リクルートで僕が担当しているプロダクトの『Airレジ オーダー』でもお客さんの端末から注文ができる機能を搭載しているので、こうしたプロダクトが普及し、注文方法の選択肢の一つとして当たり前になるといいなと思っています。

4.終わりに

 今回は吃音症に焦点を当てた話でしたが、私たちの周りには障がいの有無に関わらず、色々な負を抱えた人々がいます。
そういった人々の声は時に少数派であるために目立たない場合もあるかと思います。

 紹介したプロダクトやUXも、吃音症などの言語障がい者を想定して設計された機能ではないかもしれません。
しかし、こうした少数派の声に耳を傾けることで、恩恵を受けるユーザーの日常に大きな変化が起き、プロダクトへ多大な信頼を寄せることとなるでしょう。

 プロダクトの規模が大きくなればなるほど、大多数のユーザーが恩恵を受ける機能の開発に目が行きがちになるものです。
しかし、ここで改めてユニバーサルデザインやバリアフリーの概念を大切にし、誰一人取り残さないプロダクトを生み出すにはどうするべきか、考えてみてはいかがでしょうか。


〈参考〉

うまく言葉が出ない『吃音』〜“知ること”で救われる「たすけあい」(国民共済)

吃音について(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)

障害者基本計画(平成14年12月閣議決定)

無理解で苦悩する吃音(きつおん、どもり)の若者たち。“注文に時間がかかる”カフェが夢を後押しする日本財団ジャーナル)

ユニバーサルデザインの誕生(UD資料館)




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