ビジネスとプロダクトで、これからのスタンダードをつくる
矢部 雄祐。デザインディレクター。大学では立体デザインを学び、インダストリアル系のデザイン事務所に入社。同社でGUIデザインに携わる。サービスデザイン部署の立ち上げやスタートアップ領域でのプロダクトマネジメント経験を経て、2020年末にリクルートへ転職。プロダクトデザイン室に配属された。「いずれはまたスタートアップにいきたい」と語る彼が、今、リクルートでSaaSを手がける理由とは? 業務内容や、将来の展望について聞いてみました。
少しずつデザインの領域を広げていった15年間
──矢部さんのキャリアについて教えてください
僕は今30代半ばで、キャリアとしては15年ぐらい。学生の時はインダストリアル系のプロダクトデザインを勉強していました。「立体のデザインを手掛けたい」という思いがあったんです。だから、新卒で入社したのもインダストリアル系のデザイン事務所でした。とはいえ、僕が入社した頃は2000年代後半から2010年代初頭。まさにiPhoneが台頭し始めた頃で、GUI(Graphical User Interface)のような、「ユーザーが画面上で視覚的・直感的に操作をするためのデザイン」が今後は重要になってくるだろう……という予感がありました。
──たしかに、初代iPhoneの登場が2007年。そこから、UIデザインの可能性は大きく広がりましたよね
そうなんです。だから最初の会社でも、GUIを中心としたデザイン業務に専念しました。メインで携わっていたのは、組み込み系のGUIです。カーナビや、カラオケで使われるタッチパネル式のリモコンなどが分かりやすいですかね。こうした組み込み系の機器に関するUIデザインでは、「付加価値を設計する」という側面が強いのですが、同時にデザイン上の制約もたくさんあるんです。「基本の画面設定に沿ってスキンを変えていく」というアプローチが多い。それはそれでやりがいのある仕事でしたが、もう少し前段の部分にも関わっていきたいなと感じ、転職をしました。
──なるほど。サービス全体に関わりたい、と
はい。そこで次の会社では、IA(Information Architecture=情報アーキテクチャ)やサービスデザインを専門とする部署の立ち上げからジョインしています。僕が専門としていたのは、サービスデザイナーが決めた方針を要件定義に落としこんでいく業務です。ここでサービスデザインの基本的な考え方をしっかり学び、「受託ではなく事業そのものにコミットしたい」という気持ちが高まっていきました。
だから3社目に選んだのはスタートアップです。
──3社目では、ジョブチェンジしていますよね?
それまではIA兼UIデザイナーでしたが、ここで、プロダクトマネージャーにジョブチェンジしました。スタートアップなので、抽象度が高い部分の設計から担えるのが魅力でしたね。
「リクルートといえばプロダクト」だと言わせたい
──そして、満を持して、リクルートのプロダクトデザイン室にジョイン……!
2020年末にジョインしました。前職ではプロダクトアウトの開発がメインでしたが、リクルートではマーケットインのプロセスが基本。ユーザーのことをしっかり考えられる土壌で、SaaS(Software as a Service)の事業に携わりたいと思ってこの部署に来ました。リクルートには、若いサービスもあるし、グロース期のサービスもある。サービスのいろんな時期を経験できるのは大きな価値です。
──いま関わっているプロダクトについて教えてください
業務支援サービスの『Airレジ』や『Airペイ』を統括する、『Airビジネスツールズ』というものがあります。僕は、その『Airビジネスツールズ』全体のプロダクトUIを見るチームに所属しています。と同時に、『Airビジネスツールズ』に含まれる一つのプロダクトである『Airレジ』のデザイナーチームのリーダーも担っています。
──ひとつのプロダクトだけではなく、それを統括するチームにも所属しているんですね。忙しいのでは?
大変だけど楽しいですよ。今やっているのは、「全体的な方向づけ」です。UXの方針を決めたり、デザインシステムをつくったり。こっちの方向性でいこう、という戦略をチームに接続していく。その中で、前職で培ったIAの知見が役に立つこともあります。僕は、「リクルートと言ったらプロダクトが強い会社だよね」というイメージをつくっていきたいんです
──いまは、違う?
リクルートは、ビジネスが強い会社です。ロジックを積み上げていく能力が非常に高い。そんな会社で、「強いデザインもつくれる」ということを証明していきたい。ことSaaS事業においては、プロダクトの力を伸ばして、点での関わりではなく、長期的な関係性を構築していく――ユーザーに長く使ってもらうためのプロダクトデザイン――がとても大事です。プロダクトデザインの良し悪しが、事業価値に直結しているんですよね。
ビジネスが強い会社というのは強力な武器を持っていますが、一方で、レバレッジしていく時にジャンプが難しい。クリエイティブ領域でいうところの「アブダクション(仮説的推論)」と、ビジネスに必須の「ロジック」。ここをうまく接続することができれば、もっともっと良くなっていく。そう信じています。
──ビジネスとプロダクトを両軸で伸ばしていく。デザイナーにとっては挑戦しがいのある領域ですね
世界的にも「デザインの価値」は上がってきていますから、その価値を社会に還元したい、と考えているデザイナーは多いんじゃないかと思っています。価値を最大化するためには、デザインする領域も多岐にわたる。だから、デザイナーだけれども抽象度の高い領域が好きな人や、マーケティングとの接点にも携わりたい人にとっては、スキルを伸ばせる環境だと思います。リクルートの人々は、全体として見ると、ゼネラリストの方が多いかもしれません。みんな、職種に捉われずに領域を横断できるようなマインドを持っている。とはいえ、スペシャリストが入ってきても働きやすい雰囲気は持っていたいですね。
デファクト・スタンダードをつくる
──いまは、フルリモートで働いていますよね?
そうですね。2020年末に入社したので、ずっとリモート環境です。時間が効率的に使えるし、リモートでやりとりをしていても心強いメンバーが多いので、働きやすいと感じています。
──これから挑戦したいことや、今の部署での目標はありますか?
リクルートは、企業規模という強いベースがある。その中で、若いサービスに関わっていけるということは、つまり、デファクト・スタンダードをつくる一員になれるということ。スタートアップと比べると、成功確率が高いんです。市場にインパクトを与える力がある。だから、「デファクトをつくる」は、僕がリクルートの一員として最も頑張りたいことですね。
それから、個人の目標としては「もう一度スタートアップにいきたい」と思っています。これはリクルートの面接でも、実際に言ったことなんです。僕は前職のスタートアップから転職して、リクルートという全く違う環境に来ました。ここでしっかり学んで、手応えを感じたらもう一度外に出て、スタートアップの中心でお手伝いをしたい。そのために学べる環境は、充分にあると思います。