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Design Matters’23 Tokyo 参加レポート

こんにちは、リクルートでプロダクトデザインを担当する岩瀬、竹本、新谷、松川、木村です。
2023年6月2日・3日に開催されたデザインカンファレンス、「Design Matters’23 Tokyo」に参加してきましたので、当日の様子やセッションの内容をシェアさせていただきます。


Design Matters'23 Tokyo とは

当日の登壇ブース

Design Matters’23 Tokyoは、Design Mattersという国際カンファレンスの姉妹カンファレンスです。本家Design Mattersは「デジタルデザインの知見やインスピレーションを共有し、世界中のデザイナーをつなぐこと」を目的に、コペンハーゲンで行われる2日間のトークセッション、ワークショップで構成されます。

一方Design Matters’23 Tokyoのトークセッションでは、日本のデザイン業界トップクラスのスピーカーと、本家Design Mattersの登壇者を含めた海外のスピーカーが1:1の割合で登場します。参加者も、半数以上が海外からの参加でした。

今回はリクルートも協賛とブースを出展。
参加者と参加者をつなげ、新たな機会の創出をお手伝いをする「Opportunuities BINGO」を実施しました。

当日のリクルートブースの様子

Design Matters’23 Tokyoのテーマ

今回のテーマは3つ、「AI + Design」、「Planet-centric-design」「Designing for well-being」です。あらゆる体験を生み出す存在であるデザイナーにとって、単なる使いやすさや商業的利益の追求に止まらず、激動の社会の中で社会的責任を持ち、何のためにデザインするべきか?といった問いであると捉えました。

このテーマに沿って行われたトークセッションのうち、特にリクルートのメンバーの印象に残ったものをご紹介します。

テーマ1: AI+Design

”(de)Generative creativity powered by AI” by Lysandre Follet (Nike)

話者のLysandre FolletさんはNikeで生成AIを活用した商品開発に携わっています。このトークでは、”(de)Generative creativity powered by AI”というテーマで、生成AIがアウトプットするバイアス(AI bias)について複数の事例を挙げながら、生成AIの限界について紹介をしてくれました。

Lysandreさんの名前はシェイクスピアの「真夏の夜の夢」という作品に登場するライサンダー(Lysander)に因んで名付けられたそうです。かつてはGoogleで自身の名前を検索すると、検索結果画面にはLysandreが恋人と密会をする場面を描いた絵画がトップに表示されました。

しかし、2016年に『ポケットモンスターX・Y』がリリースされ、その主要キャラの一人に別のフラダリ(Lysandre)が登場すると、”Lysandre”の検索結果画面は瞬く間にポケモンのフラダリの画像で埋め尽くされてしまったとのことでした。

さらに、ChatGPT2.5がリリースされたタイミングで「Lysandreは誰?」とプロンプトすると、「Lysandreはポケモンの架空のキャラクターです。」と返されてしまい、諦めずに「Lysandreはシェイクスピアのキャラクターでは?」と続けてプロンプトをしても、「いえ、Lysandreはシェイクスピアのキャラクターではなく、ポケモンの架空のキャラクターです」と返されてしまったとのことです。

AI biasの事例は他にも挙げられ、例えば画像生成AIに”Flight Attendant”とプロンプトするとアジア系の女性の客室乗務員の画像が生成され、”lawyer”とプロンプトすると本棚を背景にしてスーツを着た白人の紳士男性の画像が生成されます。

Lysandreさんはこれらのアウトプットを「英語圏の価値観による偏見の塊」と表現しており、生成AIがもたらすモノカルチャー(単一的な文化)について問題提起をしていました。

このトークを通じて、生成AIが内包するビジネスリスクについて考えさせられました。私は業務支援システムを担当する一員として、生成AIには「販促の広告原稿や求人の募集要項などの入稿作業の工数削減を通じて、在庫数拡大に大きな貢献をしてくれるのでは?」といった期待感を持っています。しかし、AI利活用に伴うハードルはまだ大きく、法務リスクはもちろん、本セッションで触れられていたような生成AIのアウトプットが持つ"単一性"に関するリスクや、データセットの収集方法などの問題があります。AIと共に仕事をする上で考えるべき論点を洗い出す良い機会になりました。

テーマ2:Planet-centric design

“Designers are problem solvers and world builders, not feature iterators” by Cal Thompson (Headspace)

マインドフルネスアプリを提供するHeadspaceのデザイナー、Cal Thompsonによる本セッションは、デザイナーとしての責任を示唆するものでした。

デザイナーは、ユニークなものを作るだけでなく、全てのシステムを再構築する姿勢を持つべきであると強調。
また、デザイナーは全てのサービスのタッチポイントをデザインし、すべてをインクルーシブにアクセス可能にする力を持っていると主張されていました。

以下が、インクルーシブなサービスデザインのポイントとして示されました。

  1. サービスを全ての人に平等に使えるようにすること
    心身の障害を持つ方や、社会的な背景が異なる人でも平等にサービスを使えるようにすることが重要

  2. ユーザーが集中できるデザインであること
    デザイナーはユーザーの注意を引くために行動科学の手法を使用することもできるが、まずは過剰な通知を避け、必要な時にだけ注意を喚起するバランスを保つべき

  3. 収益追求だけでなく、社会貢献を考えること
    サービスの持続のためには収益が必須だが、サービスが本当に成し遂げたいことに対しては、収益よりも優先すべきことがある

セッション内でも、短いマインドフルネスを実践しました。自身の呼吸にのみ集中し、心がクリアな状態を作った上で、以下の問いを自らに投げかけることを推奨されました。

  1. そのデザインは誰のためか?いつ・どのように彼らを助けるか?彼らは今何に困っているか?

  2. そのデザインは、ユーザーを尊重しているか?

  3. そのデザインは、ユーザーから何かを奪う以上に何かを提供できているか?あるいは提供するのみでないか?

  4. そのデザインは、長期的にユーザーの目的の達成を助けることができるか?

普段からto Cサービスのプロダクトデザインをしている自分にとって、その責任の大きさをポジティブ/ネガティブ両面で実感させられるセッションであったとともに、激動の時代だからこそ、自分のプロダクトが社会にとってどんなインパクトを与えているのか、心を静かにして問う時間を作るべきだ、と感じました。

“How to do good – one project at a time. ” by Aleksandra Bis (Dare IT)

Dare ITは、IT業界をよりインクルーシブにすることをミッションに掲げているスタートアップです。女性がテクノロジー分野に参入し、成功するための様々なプログラムや取り組みを展開しています。具体的にはメンタリングプログラムやトレーニング、リソースの提供を通じて、業界におけるジェンダーや多様性のギャップを埋める支援を行っています。

このセッションでは、Aleksandraたちが「インクルーシビティの実現」という大きなテーマに向かって、課題をいかにシャープにピボットしながら一歩一歩着実に登っていったか、という過程と、そこで学んだことについて紹介されました。

インクルーシビティは多面的です。ジェンダーの他にも、地理的環境、身体的障害、経済力、教育、言語・文化など様々な観点におけるマイノリティグループが存在します。Aleksandraたちは女性支援のプロジェクトを進めていく中で、カスタマーから「”女性向け”というメッセージではトランスジェンダーの人が排除されてしまう」「ニューロマイノリティ(発達障害など神経的に少数派の人たちのこと)の人が排除されてしまう」といったFBを受けたとのことでした。これを受けて「For woman → for womxn(よりトランスジェンダーの人を含めた表記)」といったようにメッセージングを変えながらプログラムを充実させ、よりインクルーシブなターゲットにサービスが届くように進化させていきました。

 このセッションを聴きながら、自分を含めた身の回りの環境における、「インクルーシビティ」という課題への関心の低さについて改めて考えさせられました。普段プロダクトデザインの仕事をしている中でも、マイノリティであるグループへの配慮の必要性は、事業へのインパクトを数値で語ろうとした瞬間に事業優先度という正義の下で一気に見えなくなってしまう可能性があります。最近ニュースでもSDGsなどといったワードをよく聞きますが、「目の前の数値軸では評価できないけど大事なこと」に対して私たちはどう向き合ったら良いのだろう、など、考えるきっかけとなりました。

テーマ3:Designing for well-being

“How to design your time?” by José Torre (Shopify)

本セッションでは、特にプレイングマネージャーとして働く方々にとって興味深い情報として、自身の時間をコントロールするための具体的なアドバイスが紹介されました。

そもそも、時間のコントロールがなぜ必要なのか。それは管理職とデザイナー両方をしている多くの人がミーティングによってカレンダーが埋まり、制作や休憩の時間がほとんどなくなってしまうからです。

  1. Block your calendar.(カレンダーをブロックする)

  2. Decline useless meetings.(無駄な会議は断る)

  3. Propose a new time.(新しい時間を提案する)

  4. Don’t default weekly.(週次の定例などを当たり前にしない)

  5. Don’t start by scrolling.(打ち合わせは画面スクロールから始めない)

  6. Value your time.(あなたの時間を大切に)

  7. Take breaks.(休みをとる)

中でも印象に残ったポイント「1.Block your calendar」を取り上げると、これはカレンダーにあらかじめ予定を入れてミーティングをブロックすることです。カレンダーに制作や休憩の予定を入れてしまい、ブロックした時間はよほどのことがない限り他の予定を入れないことで、時間をコントロールすることが重要だと彼は言いました。

また、「2.Decline useless meeting」は「無意味な会議をやめる」という意味ですが、一方であなたが主催者のときは、「なぜこのミーティングが必要なのか」といった背景や目的を説明することも重要です。このようにしておくことで、逆の立場で相手が主催者になったとき、あなたがミーティングの招集理由を納得する形で聞かせてもらえます。

最後に José の発表で僕が思わず相槌を打った言葉を紹介して終わります。

「重要な人物が参加するミーティングでは時間を大切にするため要点をまとめ、しっかりと準備をするはずです。あなたや同僚が参加するいつものミーティングでも、同じようにしましょう」

“Designing Household Budgets and Well-being” by June Taketani (Smartbank)

本セッションでは、Smartbankのプロダクトがユーザーにもたらした影響が、Well-beingの考え方に沿って語られました。
Well-beingは『根-基盤』『幹-能力』『枝-行動』『実-結果』の4つのサイクルで成り立っていると、ChatGPTは例えています。
この観点でSmartbankのプロダクト開発事例が振り返られました。

B/43 Paircard 〜長期的な『実-結果』へコミットすることの必要性〜

B/43 Paircardは、 "夫婦共働きが増えてきた中で、決済サービスも口座管理も共同利用のために作られていない"という課題を解決するため、「共同口座と連結しリアルタイムで相互に利用状況を確認できるカード」として開発されました。
リリース後、目的通りの課題が解決されることでユーザーの反応が良かったのに加え、一部ユーザーにおいてはこのプロダクトによって "支出管理についての会話を通じ、パートナー間の関係性が向上した"という結果も得ることができました。
B/43 Paircardでは『家計の共同管理』という『枝-行動』を提供しましたが、それは当初の目的である『家計管理の改善』だけでなく『パートナーの関係性改善』という『実-結果』をももたらしたのです。

この事例では、短期的な課題解決だけではなく長期的な結果にもコミットすべきである、ということを学びました。
加えて、造り手がいかに"良いプロダクトである"と考えていても「本当にユーザーのためになっているのか?」という問いに答えられなければ意味がないのだと実感しました。 日々の業務の中ではついつい目先の課題解決に気を取られてしまいがちですが、ユーザーの人生に長く関わり続けられるプロダクトを目指すためには、長期的な課題解決という視点を忘れずに持ち続けたいと感じました。

まとめ

技術、政治、経済、社会のあらゆる物事が変動する時代において、デザイナーが果たすべき役割について話されたセッションが多いように感じられました。
そして、自分がプロダクトデザイン室に入った時の「自らの手で作ったプロダクトを通じて、社会を良い方向に動かしたい」という思いを改めて見つめ直す機会となりました。

単なるビジョンだけではなく、具体的なTipsを示唆してくれるセッションが多く、実践的な学びも得られたと感じています。

今後も、カンファレンスに限らず国内外のプロダクトデザインについて学べる機会へのアンテナを張り、積極的に吸収するとともに、自分の担当プロダクトへの関わり方に活かしていきたいと思います!


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