UX DAYS TOKYO 2024 参加レポート
UX DAYS TOKYOとは何か
ウェブディレクションズイースト合同会社が2015年から主催しているUXに関するカンファレンスです。
公式ウェブサイトはこちら
世界的に注目されている“UXのスペシャリスト”を招いて、UXのノウハウや思考法を日本で学ぶことができる点が特徴です。同時翻訳機を貸し出していただけるので、英語のリスニングが苦手でも、日本語でリアルタイムに理解することができます。
今回のカンファレンスはワークショップを含めて3日間開催され、私は1日目のカンファレンスに参加しました。
参加者も多様で、IT事業会社やメーカーでUXを担当するデザイナーやPdM等、さまざまな方々がいらっしゃる印象でした。
2024年のテーマ:ビジョナリーUX
2024年のテーマは「ビジョナリーUX〜ビジネスに必須のUXで『先見の明』を見出す〜」でした。
ユーザーを知る活動が企業の売上やビジネスにどのように関与できるのか、会社の中の障壁をどのように突破できるのか?がテーマです。
カンファレンスセッションは以下の5つから構成されていました。
1.「AI×デザイン:未来を創造する」
…AIがUXに与える影響や成功要因、AIプロジェクトの失敗理由が議論された。
2.「ビジュアルシンキング」
…スケッチを通じた思考整理法の紹介、アイデアの視覚化が重要であることが示された。
3.「最もクリエイティブな人と企業の秘密」
…創造的な人生のために人間のつながりや共有が大切であることに焦点が当てられた。
4.「未来を創る:UXキャリアデザイン」
…UXを仕事にする人々のキャリアデザインを自己整理する方法が示された。
5.「影響力の高いチームの組成とメトリクス」
…プロダクトチームの成功にはビジネス上の具体的な目標や影響力が不可欠であることが述べられた。
講演のラインナップから、「UXデザイナーとしてのスキルやキャリアの軸を考えながらも、領域から染み出し、チームで協業しながらプロダクトを開発していく方法を学んでいこう」という今年のテーマに沿ったポジティブなメッセージを感じました。
印象に残ったプログラム
私が最も印象に残った講演の内容を2つ抜粋してご紹介します
1つ目:最もクリエイティブな人と企業の秘密
スピーカー:アーロン・ウォルター氏(Aaron Walter)氏
スピーカーのアーロン・ウォルター氏は、Mailchimpの創業者やInVisionなどの組織の副社長を務め、『Designing for Emotion』など多数の書籍を執筆しているUXリサーチャーです。また、InVisionでは受賞歴のあるポットキャスト『Design Better』を立ち上げています。
アーロン氏は、このポットキャストの中で、創造的な人生を送る多様な分野の人々にインタビューをしながら、創造的な人生を送るための共通点や構造を見出そうとしています。
紹介された複数の事例のうち、私が最も印象的だったのは、『二郎は鮨の夢を見る』というアメリカで公開されたドキュメンタリー映画に出演された寿司職人である小野二郎さんのインタビューです。小野さんは大正14年(1925年)生まれで、なんと現在も現役だそうです。
小野さんはインタビューの中で、センスを養うことについて問われた際、「美味しい料理を作るためには、美味しい食事を味わわなければならない」と答えました。
そしてアーロン氏は、より良いUXを創るためにも同様に、さまざまな種類の経験を追求するべきであると語ります。私たち人類は、今初めて良いUXを作成しているのではなく、何十万年もの間、素晴らしいUXを作成し続けているからです。この感受性とセンスを養うためには歴史や過去の事例をもっと時間をかけて見る必要があります。
この話は、昨年度大学院にて修士(芸術)を取得した私にとっても、非常に共感できる内容でした。大学院では文化人類学のさわりを学んだに過ぎませんが、人の営みや歴史すべてに意味があり、興味深い体験を含んでいると実感しています。
2つ目:影響力の高いチームの組成とメトリクス 〜UXとビジ
ネスの関係〜
スピーカー:マット・ルメイ(Matt LeMay)氏
スピーカーのマット・ルメイ氏は、10年以上のプロダクトチームのリーダー、コンサルタントの経験からGoogleやSpotifyなどの戦略アドバイザーです。日本を含む6か国以上で翻訳されている「プロダクトマネージャーのしごと」の著者でもあります。
ルメイ氏は、UXの分野で働く人々やチームは、ビジネスへの影響を最優先して取り組むことが重要であると語ります。
UX分野で働く方々の多くは、ユーザー中心設計やリサーチに取り組みたいと思っていると思います。「良いプロダクト開発を行うためには、リサーチを行い、もっとユーザーのことを知る必要がある」と感じているのではないでしょうか。
ただ、ビジネス側のメンバーに「良い方法だとどこかで聞いたから、時間とリソースを使ってリサーチをやらせてください」と言ってもおそらくリサーチは実践できないでしょう。
しかし、「会社の特定の目標を達成するためにリサーチが不可欠です」と言われたら、ビジネス側のメンバーはきっと興味を持つだろうと彼は言います。
ルメイ氏曰く、チームが最初に影響を与えるために行うべき重要なステップは以下の3つです。
1. ビジネスにとって「成功」とは何かを定義する
2. 自分達のチームにとっての「成功」を定義する
3. 成功に貢献をする「高い影響力」を持つ仕事を優先する
すべての部門/チームの目標は、会社の目標を囲むように設定されるべきであり、どのチームに所属していようと、会社の期待を理解し、どのように期待に答えるかを示す必要があります。
彼はこれまでの経験から、ビジネスへの影響を最優先にするプロダクトチームこそ、良い製品やサービスを生み出すことができることを強く主張しました。
ご紹介した講演内容は、まさに今私が課題に感じていることそのものであり、とても共感できました。
リサーチを起案する際にも、リサーチ実施自体を目的にせず、ビジネスの成功のための手段であることを強く意識して起案することで、ビジネスへの影響力の高い結果に繋がると改めて実感しました。
質疑応答とパネルディスカッション
カンファレンスの最後に、スピーカー5名による質疑応答とパネルディスカッションがあったのですが、個人的にこのセッションの時間がとても良かったです。
例えば、回答者を指定せずに「チームにはさまざまなバックグラウンドを持っている人が集まる。問いや仮説を収束させるのが難しいと感じている。どうすべきか」という質疑が参加者から挙がった際に、
『最もクリエイティブな人と企業の秘密』の講演したアーロン・ウォルター氏は、「小さいチームで動くこと。構造やコミュニケーションをシンプルにすることが創造性につながる。」と回答したのに対して、
『影響力の高いチームの組成とメトリクス』の講演したマット・ルメイ氏は、「参加者全員が100%納得している必要はなく、各々の納得度が80%でも60%でも最大になるようなポイントを見つけることが大切である。」という回答をしていました。
1つの質問に対し、複数のスピーカーの皆さまに回答をいただく中で、一見散漫に見えた各分野の知見が互いに関係し合っていたことに気づき、学びの深度が一層深まりました。
複数分野の学びをその場で統合できることも、カンファレンス参加するメリットだと感じます。
終わりに
「UX」という間口の広めな集客であるため、講演は非常に多様なラインナップでした。本イベントの5つの講演すべてに共感できる方は少ないかもしれませんが、UXに関係した仕事をする方であれば、どこかに必ず共感ポイントを見つけられるようなカンファレンス設計がなされていると感じます。
各講演はワークショップの導入のような位置付けにもなっているので、予定と予算が合う方は、ぜひワークショップにも参加されてみると、さらに深い学びを得られるかもしれません。
今回のカンファレンスを通して、幅広いUXの視点を学ぶことができました。これからもビジネスに貢献できるリサーチ業務を実践していきたいと思います。