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ブランドステートメントと実践の間 - Airシリーズのブランディングを例に

こんにちは。AirシリーズのUXデザイングループのマネジャーをしている鹿毛です。
このnoteではAirシリーズのブランディング活動の中で、ブランドステートメントと現場での実践をつなぐために行なっている取り組みについてご紹介します。

私たちも試行錯誤をしている最中ですが、ブランドマネジメントやデザインマネジメントをされている方の参考になれば幸いです。特に「ブランドステートメントやガイドラインは作ってあるんだけど、なかなか浸透しない。実践に繋げるにはどうしたらいいのか。」というような悩みを抱えている方の参考になればと思っています。

Airシリーズの組織とブランドマネジメントの体制

Airシリーズは0円でカンタンに使えるPOSレジアプリ「Airレジ」をはじめとした、お店の業務や経営上の課題解決をお手伝いするサービス群の総称です。2013年11月の「Airレジ」リリース以降、2020年2月現在10を超えるサービスを提供しています。事業成功のスピードを最大化するため、これらのサービスを事業運営上の特性や対峙しているユーザーに応じて、異なる事業ユニットに分かれて運営をしています。

Airシリーズのサービスと事業ユニット

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これらのサービスをひとつのブランド体系にしているのには理由があります。店舗運営を行うにあたって、業務は多岐にわたり、業務ごとに様々なサービスが各社から提供されていますが、利用するシステムごとに使い勝手が違うと、それぞれごとにその使い方を覚えなければなりません。統一されたブランド体系にすることで、複数のサービスを利用するときの学習にかかるコストやスタッフの教育コストを減らし、後述するブランドの掲げるビジョンの達成に近づくと考えているからです。また、統一されたブランドコミュニケーションを行うことで、ブランドの資産価値(認知やイメージ)を効率的に活用することができると考えています。

実際に「Airレジ」と「Airペイ」の両方をご利用いただいている方の中には、その区別なくどちらも「Airレジ」として(あるいは「Airペイ」として)認識されている方も多くいらっしゃいます。(アプリのUIの一貫性などから、一つのアプリとして認識していただいているためと期待しています。)ここからも、どのサービスのどの接点においても一貫した印象と体験が期待されることが窺えるかと思います。

ブランドマネジメントの体制

これらの複数のサービスで統一されたブランディングを行うために、Airシリーズではブランドマネジメントチームを事業組織を横断して機能する役割として設置しています。ブランドマネジメントチームはブランドマネジャー、デザインマネジャー(私)、インナーブランディング担当、アートディレクターで構成されています。

ブランドマネジメントチームの体制

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Airシリーズのブランドステートメント

Airシリーズではビジョン・ミッション・バリューをブランドステートメントとして定義しています。

Airシリーズのビジョン
商うを、自由に。
Airシリーズのミッション
お店を取り巻く煩わしさを減らし、自分らしいお店づくりができるようにする。
Airシリーズのバリュー
機能的価値:シンプル・カンタン・スマート
情緒的価値:誰にでも手が届く・信頼

Airシリーズでは、上記に掲げているビジョンの達成に向けて、Airシリーズのあらゆるサービス・接点でバリューを実現し、お店の方々に約束しているミッションを果たそうとしています。これらのブランドステートメントはブランドブックに記載され、事業のキックオフなど事業戦略が語られる場で定期的に従業員に伝えられます。

ブランドブックには、ブランド・ブランディングとは何か、ブランドイメージを構成するブランドロゴやブランドカラーなどのエレメントの定義、ブランドとして一貫したコミュニケーションや体験を提供するためのデザインガイドラインがドキュメンテーションされています。それぞれ、その背景や理由なども可能な限り伝えられるように記述されています。

ブランドブック

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ブランドステートメントと実践の間

ただ、ドキュメントがあるだけでは、ブランドステートメントは形骸化され、実態を伴わないケースも多いのではないでしょうか。少数の意志の通ったメンバーの間だけであれば問題は起きないかもしれませんが、組織の規模が大きくなってくると、徐々に意識が薄れていってしまうということは往々にして起きてしまうのではと思います。

これらのドキュメントに記載されているルールに強制力を持たせて例外を認めないということもできますが、それでは個人に委ねられる余白や裁量がなくなり、窮屈になるでしょう。事業の掲げるビジネスゴールの達成とブランドがユーザーと約束するステートメントを両立し、形骸化させずに意義のあるものとするために、Airシリーズで取り組んでいることをいくつかご紹介します。

1.ブランドへの共感と理解

先ほど複数の事業にまたがって1つのブランドを運営していることを記載しましたが、それぞれの事業ごとに設定しているビジネス上の課題や目標は異なります。また、日々の業務の中で私たちの意識の大半を占めるのは、このビジネス上の課題解決であり、目標・KPIの達成に向けて奔走しているというのが実情かと思います。そんな状況の中でも、事業を超えて、職種を超えて、1つのブランドビジョンを達成するために、共通のブランドバリューを日々意識し、実行する基礎として、ブランドへの共感と理解を促す施策をいくつか行なっています。

1-1.ブランド勉強会

ブランドブックやデザインガイドラインを作成し、手渡すだけでは、ブランドの成り立ちの背景や、ブランドを大切にする意義がなかなか伝わらず、ブランドに関わる全ての人の協力を得るのが難しいのが実情です。例えば、ブランドのシンボルの込められた意味や、ブランドカラーの選定理由を知っている人はどれだけいるでしょうか。事業の中でブランドを大切にする意義を理解している人はどれだけいるでしょうか。

Airシリーズでは、ブランドステートメントの説明だけでなく、ブランドの成り立ちや、そもそもブランド・ブランディングを大切にしている事業背景についてお伝えする、ブランド勉強会を開催しています。新しくAirシリーズの一員に加わった人向けのオリエンテーションの中でも、同様のコンテンツを用いてブランドへの共感・理解を促そうと試みています。

このブランド勉強会の中では、実際にAirシリーズのサービスを利用いただいている方からの声を編集したビジョンムービーなども用いて、誰のために事業を営んでいるのか、どのような価値を実感してもらえているのかもお伝えしています。

ブランド勉強会の様子

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ビジョンムービー

1-2.ブランドバリューの分解と解説

Airシリーズのブランドバリューは「シンプル」「カンタン」「スマート」「誰にでも手が届く」「信頼」の5つで構成されています。端的な言葉で表現されているため覚えやすく、言葉自体の浸透も図りやすい一方、その言葉の意味すること、ニュアンスまで浸透させるのは難しく、ひとえに「シンプル」といってもその捉え方は人ぞれぞれでした。先のブランド勉強会の中で、5つのブランドバリューに込めたニュアンスが伝わるよう、いくつかの言葉でさらに分解し説明するとともに、過去の事例を用いながら解説することで、ブランドバリューのニュアンスも含めた浸透を図っています。

ブランドバリューの解説

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2.オープンなフィードバックの仕組み

ブランド勉強会の実施やニュアンスを含めたブランドバリューの解説を通して、ブランドに共感し理解を深めることで、ブランドに関わる全員でブランディングを行う素地を作っていますが、実践の中でブランドバリューに基づいたコミュニケーションがされなければ、お店の方々に一貫したブランドイメージを築いてもらうことは難しいと考えています。

Airシリーズでは、ユーザーの目に触れるあらゆる接点でのコミュニケーションについて、ブランドマネジメントチームでレビューする仕組みを設けていますが、どういった内容のフィードバックがあるのかが見通せないとレビューを依頼する施策担当者は不安を感じるでしょう。

また、一貫したコミュニケーションを行うために活用するガイドラインが、どのような議論を経て今の形に行き着いているのかがわからないと、納得感が薄れるでしょう。

これらを解消するために、レビューの仕組みとデザインガイドラインの運用を、ブランドマネジメントチーム内に閉じず、組織全体でオープンにフィードバックし合う仕組みを設けています。

2-1.ブランドレビュー

Airシリーズでは、サービスのプロモーション用のサイトやディスプレイバナー、営業資料、イベント展示に至るまで、オンライン・オフライン関わらず、ユーザーの目に触れるあらゆる接点でのコミュニケーションについて、ブランドマネジメントチームによるレビューを行なっています。JIRAによるチケット管理と、Confluence上での可視化をしながら、どういったものがレビューされているか、レビューの結果のフィードバックはどのような内容だったか、フィードバックの結果どのような修正を行なったかの履歴がストックされ、案件の担当者とレビュアーだけでなく、ブランドに関わる人全員から見えるようにしています。

ブランドレビューのチケット

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このフィードバックを通じて、具体的な制作物やユーザーとのコミュニケーションにおける、ブランドバリューに基づく一貫した印象と体験とはどのようなものなのかが、施策担当者の中に蓄積されることを期待しています。また、自分が担当した施策に対するフィードバックだけでなく、他の施策に対するフィードバックの内容も参考にしながら、Airシリーズのブランドらしいコミュニケーションの仕方を学べるようにしています。

2-2.ブランドブックやデザインガイドラインへのフィードバック

ブランドレビューで企画や制作物に対してフィードバックされる内容には、a.ブランドブックやデザインガイドラインに明文化されている内容と、b.特別記述はされていないがブランドバリューと照らした時の違和感を言語化してフィードバックする内容とがあります。レビューで蓄積された内容を用いて、ブランドマネジメントチーム内にある暗黙知を形式知化し、ブランドブックやデザインガイドラインに追記しています。先に記述した「ブランドバリューの分解と解説」もまさにこの取り組みを通じて作成されたもので、ブランドレビューの中で暗黙的にイメージしていたものを言語化したものでした。

ブランドマネジメントのフィードバックループ

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また、過去に制作したものをブランドバリューに照らして再評価することで、デザインガイドラインに更新をかけるということも実施しています。Airシリーズのブランドバリューに照らして過去の制作物をマッピングしてみると、自分たちが考えている理想のコミュニケーションのあり方とそうでないもののギャップが見えてきます。この差を生んでいる観点をAirシリーズに関わるデザイナーも交えながら、抽出・言語化し、デザインガイドラインに追記します。ブランドマネジメントを行うチームから一方向のマネジメントを行うのではなく、現場も巻き込み、オープンな場でフィードバックがされる環境作りを志向しています。

制作物のマッピングのワークの様子

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まとめ

Airシリーズのブランディング活動の中で行なっている、ブランドステートメントと現場での実践をつなぐための取り組みを紹介してきました。

複数のサービスを複数の事業部を横断しながら、ひとつのブランド体系として一貫したコミュニケーションや体験をユーザーに届けるために、1.ブランドに関わる全員のブランドへの共感・理解を促し、2.オープンなフィードバックの仕組みで、ブランドバリューに基づいたコミュニケーションが強化されるように工夫しています。

Airシリーズに含まれるサービスや関わる人が増えることにより、難しさが日々増していると感じています。私たちが「商うを、自由に。」というブランドビジョンの実現に向けて工夫していることが、ブランドマネジメントやデザインマネジメントをされている方の参考に少しでもなれば幸いです。

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