社内での生成AI活用推進を成功させる実践方法
自己紹介
こんにちは!プロダクトデザイン室 オペレーションデザインユニットの工藤照久(くどうてるひさ)です。普段は社内業務のDX推進に取り組んでいますが、最近はプロダクトデザイン室全体での生成AI活用を促進するプロジェクトにも力を入れています。
本記事では、これまでの活動を通じて得た学びや、社内で生成AIを効果的に活用するための実践的な方法についてお伝えしたいと思います。生成AIに興味がある方や、社内での活用に悩んでいる方々にとって、少しでも参考になる内容になれば嬉しいです!
目次
1.はじめに
生成AIは、IT革命を超える可能性を持つ新たな技術です。特にビジネスの現場では、生成AIを活用した効率化や生産性向上が急速に進んでいます。
しかし、企業が生成AIを効果的に活用するためには、技術そのものを理解するだけでなく、組織全体でどのように導入し運用していくかが鍵となります。本記事では、リクルートプロダクトデザイン室が行ってきた生成AIの社内推進の取り組みを紹介し、課題と成功のポイントを共有します。
生成AIを社内で活用推進するときの課題について
社内で生成AIを推進する際には、以下の6つの課題が挙げられます。
技術的な理解不足 :生成AIの基本的な使い方や可能性の理解が不十分
適切な活用シナリオの欠如 :どのように生成AIを活用すべきかが不明確。具体的な適用イメージが不足
投資とROIの不透明性 :生成AI導入にかかるコストと、それによって得られる効果(ROI)が明確でないため、投資判断が困難
データプライバシーとセキュリティ :機密情報の取り扱いやデータ漏洩のリスクに対する懸念があり、安全な環境での利用が求められる
公平性・公正性の追求とガバナンス :生成AIの出力が偏りなく、公平・公正であることを保証するためのガバナンス体制が必要
AIに対する組織内の抵抗 :新しい技術導入に対する抵抗感や、既存の業務プロセスを変えることへの不安
前提となるリクルートのAI活用指針とインフラ状況について
これらの課題に対処するための前提として、リクルートでは「AI活用指針」を2023年7月に策定し、データの公平性や多様性の保護に関するモニタリングを導入しました。標準プロセスやフェアネスモニタリングによるサービス審査も進めています。また、社内で生成AIを安全に活用できるインフラ環境も構築し、データセキュリティやプライバシー保護の観点からも万全の体制を整えています。
私たちはこのようなルールとインフラの整備を前提として、組織全体での生成AI活用を促進する取り組みを進めています。
参考URL: リクルートAI活用指針
生成AIを社内推進するときに陥りがちなケース
生成AIを社内で推進する際に陥りがちなケースとして、以下のような例があります。
ツール提供だけで利用が進むと考える :便利なプロンプトやAIツールを現場に提供すれば、自然と利用が進むだろうと期待します。しかし、実際にはツールの提供だけでは活用が進まないことが多いです。
業務適用の検討不足 :業務ごとに適切なユースケースが見出せないまま、AIの利用が進められることがあります。結果的に、業務への具体的な適用が進まないことが多いです。
個人レベルでの利用に留まる :一部の個人が生成AIを利用しても、組織全体での浸透に時間がかかり、効果が限定的になることが多いです。
これらの 課題に対処するためには、組織全体での計画的な取り組みと、現場での具体的な支援が欠かせません。次章では、これらの課題を解決するための具体的な実践方法を紹介します。
2.社内での活用推進を成功させる3つの実践方法について
組織の利用状況・実態の可視化 :組織全体での生成AI利用状況を可視化し、未経験者、試行者、活用者の3つのクラスタに分類します。これにより、各クラスタに応じた効果的な育成計画を立案していきます。
未経験者から試行者への育成 :AI利用のハードルを下げるために、組織内での勉強会やプロンプトテンプレートの提供を通じて、基礎知識を習得してもらいます。
試行者から活用者への育成 :実際のプロジェクトに生成AIを取り入れ、スキルナレッジを磨きながら、個別案件に伴走する形でスキルの定着を図ります。
実践方法①:組織の利用状況・実態の可視化
現状分析と課題の把握
各チームで生成AIの利用状況 に関するアンケートを実施して、未経験者、試行者、活用者に区分しました。その調査結果を基に、現状の課題を明確にしました。
未経験者 :生成AIを全く使用したことがない人
試行者 :個人的に生成AIを試してみたが、業務には活用していない人
活用者 :業務で積極的に生成AIを活用している人
目標の設定
現状の課題を把握した上で利用者を増やすための具体的な数値目標を設定し、各クラスタに応じた施策を実行しました。
実践方法②:未経験者から試行者への育成
未経験者が試行者になるための壁
未経験者は、以下のような理由で生成AIの利用を開始できないことが多いです。
技術的な理解不足 :生成AIの基本的な使い方や可能性を理解していない
環境構築の煩雑さ :アカウント取得や設定など、利用開始までの手続きで躓く
解決策
これらの壁を乗り越えるために、以下の3つの施策を実施しました。
組織長との事前の期待値調整 :未経験者への活用推進にあたって、事前に期待値の調整を行い、生成AIに関する勉強会や説明会への参加を促しました。
煩雑な作業の代行 :アカウント作成や技術的な設定は推進チームが代行し、導入を円滑に進めました。
肩書を持った有識者を立てる :社内の専門家や外部の有識者が勉強会や説明会の講師を行うことで信頼性を高め、導入を促進しました。
実践方法③:試行者から活用者への育成
試行者が活用者になるための壁
試行者が活用者になるには、以下のような課題があります。
適切な活用シナリオの欠如 :具体的にどの業務で生成AIを活用すればよいのかが分からない。
投資対効果の不透明性 :生成AIを活用することで得られるROIが明確でないため、業務への適用が進まない。
解決策
この壁を乗り越えるために、以下の2つの施策を実施しました。
1.生成AI有識者による伴走とエバンジェリストの養成
生成AI有識者が各組織の重要案件に伴走し、組織ごとにエバンジェリストを養成しました。
エバンジェリスト候補の選定 :組織内でビジネス課題を明確に把握している人を選定
伴走支援 :有識者がプロジェクトに深く関与し、具体的な生成AIの活用方法やナレッジを伝授
ナレッジの共有 :成功事例や学びを組織全体に共有し、さらなる活用を促進
2.AWS社による生成AI活用ワークショップ
社内に知見が溜まりきっていない場合は、社外のプロフェッショナルの力を借りるのも効果的です。
今年4月17日には、AWS様にご協力いただき、生成AIのアイディア 出しからビジネスモデル作成まで行う社内向けワークショップが開催されました。趣旨としては、リクルートに所属する約50名のエンジニアやPdMが協働し、課題を基にした議論を重ねながら生成AIの具体的ユースケースを検討するというものです。
社内参加者は約50名に及び、具体的事例のみならず、活用における思考のフレームワークも得ることができるというものでした。
実際に私自身も参加したのですが、新規ビジネスや既存業務の問題・課題に対して、様々な観点でブレインストーミングを行い、PSF(Problem Solution Fit)を整理する中で新たな知見を深めることができました。
また、異なる専門性を持った人とディスカッションすることでナレッジの循環が促進され、他組織の取り組み事例を知ることで自身の案件推進の参考にするなど、組織での知見獲得が加速しました。これまでにない切り口から新たな学びを得ることができる、有意義なワークショップでした。
参考:ワークショップ概要 AWS ML Enablement Workshop
これらの取り組みを通じて、組織全体での生成AI活用が着実に進んできました。次に、具体的な活用事例をいくつかご紹介します。
3.生成AIの活用事例紹介
企画案作成業務/タイトル作成業務の効率化
企画案やタイトル作成のプロセスを自動化し、時間の短縮と品質向上を実現しています。これにより、制作部門での業務効率化が進んでいます。
問い合わせ対応/FAQ作成業務の効率化
ユーザーからの問い合わせ対応やFAQ作成業務を自動化し、時間の短縮と品質向上を実現しています。これにより、ヘルプデスク部門などでの業務効率化が進んでいます。
PDM(プロダクト管理)業務の効率化
プロダクト管理業務(企画・起案内容のアイデア出し、レビュー、データ分析など)の一部を自動化し、時間の短縮と品質向上を実現しています。これにより、プロダクトデザイン部門での業務効率化が進んでいます。
4.おわりに
この記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
生成AIは、ビジネスの世界において大きな変革をもたらす可能性を秘めています。特に知識労働の分野では、生成AIを活用できる人とそうでない人との間で「生産性」や「創造力」に差が生まれ、競争力に直結する可能性があります。
この急速な変化の中で、私たち一人ひとりが生成AIの可能性を積極的に捉え、日々の業務にどう活かせるかを考えていくことが重要です。そうすることで、組織全 体が成長し、より良い未来に向けて前進できると信じています。
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