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SDN Japan Chapter Meetup vol.9〜デザインリサーチの新しい地平を拓く:Quantitative Ethnography(定量的エスノグラフィー)参加レポート

こんにちは。リクルートの新卒メディアHR領域・プランナーの古谷仁です。

普段は、新卒採用における体験デザインを生業としています。採用体験を、単なるコストではなく少しでもワクワクするようなコミュニケーションに落とし込み、企業と学生の良質な採用マッチングを目指しています。
また、個人的に、コクヨ株式会社リサーチ&デザインラボ「ヨコク研究所」の外部編集員や、発酵デザインラボ「ラジオ・ただいま発酵中」番組ディレクター、慶應義塾大学SFC研究所所員として、いろいろな領域へアンテナを巡らせております。

今回は、私個人としてこれまで興味があったものの触れる機会のなかった「デザインリサーチ」に関するトークイベント「SDN Japan Chapter Meetup vol.9〜デザインリサーチの新しい地平を拓く:Quantitative Ethnography(定量的エスノグラフィー)」に参加した内容をレポートにまとめました。


SDN Japan Chapter Meetupとは

SDN Japan Chapter Meetupは、Service Design Network(SDN)という団体が定期的に主催しているカンファレンスです。前回は「サービスデザインのグローバル潮流を読み解く」というテーマで2022年11月に開催されました。

今回は、定量的エスノグラフィー(Quantitative Ethnography,略称QE)研究の第一人者であるウィスコンシン大学David Williamson Shaffer教授による講演のほか、QE研究に携わる海外の研究者も登壇され、サービスデザインとデータ分析について考える内容になっていました。

参加費は4000円で、約80人が参加。イベントでの質疑は止まらず、イベント後も簡単な飲食を通じた懇親会があり、<ゲストー参加者><参加者―参加者>での交流が印象的でした。

懇親会での会話を聞いていると、参加者のほとんどは基本的にリサーチ業務やデザイン業務に携わられているようでした。ただ、その領域は幅広く、大企業のPMとしてプロダクトをリードする立場の方から、フリーランスのUXリサーチャーとして活躍されている方、NPO団体まで、実に多様だったように思います。

イベント中も、Miroのホワイトボードを活用しながら複数人で写真やコメントを書き込んでいく様子も垣間見えて、クリエイティブ界隈らしさを感じました。

今回のテーマ 定量的エスノグラフィー

「エスノグラフィー」
この言葉、聞いたことがありますか?

フィールドワークや文化人類学のようなキーワードを想起する方も多いかもしれません。
一般的に民族誌と訳されるエスノグラフィーは、人類学的なフィールドワークや参与観察で得た経験的な調査結果・データを元に、他者・他文化の社会生活について記述する営みです。ギリシア語で「異なる民族」を意味するethnosと「描く・書く」を意味するgrapheinに由来しており、近年、アカデミア領域を抜け出し、デジタルプロダクトの開発・設計をするためのユーザーリサーチをはじめ、ビジネスセクターにおいても取り上げられるようになってきました。例えば、1対1でインタビューする定性調査手法「デプスインタビュー」などは、多くのデザイナーやビジネスマンも採用しているのではないでしょうか。

今回のトークテーマは、定量的エスノグラフィー(Quantitative Ethnography,略称QE)です。
定性の印象が強いエスノグラフィーと、定量的という言葉のミックスが面白い点です。
「定量的?なエスノグラフィー?」

QEは、人や社会を対象とした質的な分析を支えるために開発された、定性的分析と定量的分析を融合させたアプローチです。QEでは、データを特定の文化の言説に関するエビデンスと見なし、収集したエビデンスから文化を見いだすことを目的としています。

さまざまプレゼンテーションがありましたが、ここで、特にQEの重要なポイントになり得る部分を抜粋してご紹介します。

We interpret a culture by showing Codes are related.

我々は、対象となる人や社会の観察+模倣によって成立する観察学習(モデリング)を通して、リサーチをします。その観察学習の一般的な経路(pathway)は、ステップを踏めば踏むほど、情報が失われていきます。そのため、ステップを進める中で、シグナルとノイズ、重要な情報とそうではない情報を見極めていく理論が重要です。それがQEなのでしょう。

pathway: Activity→Observation→Data→Coding→Model→Claims

キーノート「The Role of Q in QE for Service Design」において、David Williamson Shaffer教授は、このような見極めをしていく中でも、記号(Code)の重要性を紹介していました。Codeは文化と関係がある意味のある言説(Discourse)を構成する要素です(A Code is a culturally-relevant and meaningful part of a Discourse.)。Discourseはあらゆる文化が有する、社会的な連想・つながりを指しています。DiscourseをCodeで分解し、そのつながりを紐解いていくこと。この点は、我々が日々のリサーチでも活用できそうなポイントです。

このような見極めをしていく中でも、記号(Code)の重要性を紹介していました。Codeは文化と関係がある意味のある言説(Discourse)を構成する要素です(A Code is a culturally-relevant and meaningful part of a Discourse.)。Discourseはあらゆる文化が有する、社会的な連想・つながりを指しています。DiscourseをCodeで分解し、そのつながりを紐解いていくこと。この点は、我々が日々のリサーチでも活用できそうなポイントです。

例えば、考古学におけるCodeとして、Post hole(地面に掘られた穴)、Soil(土壌)、Munsell Color chart(マンセル色票)があります。考古学では、穴や土を対象として、色票を活用して色相を確認するのが一般的です。ここにもつながりがあり、これこそDiscourseだと言えます。つまり、単にCodeを抜き取るだけでなく、それらの連想・つながりを捉えることで文化を紐解いていく(Codes the part of the Discourse(言説) of a culture)。このように捉えることが、モデリングのステップにおいて重要な情報を把握する手助けにもなるのかもしれません。

定性的情報とネットワークダイアグラム

インタビューや複数の人々の会話、行動のような定性的な情報をCodeやDiscourseとして束ねた後に、それらのつながり=ネットワークを可視化する事例もプレゼンテーション中で紹介がありました。可視化する際は、比較・検討を可能にするために、4象限マトリクスに重要なCodesを配置していました。本論ではないかもしれませんが、この点は(必ずしもQE、UXリサーチを専門としていなくとも)私たちの具体的な行動として参考になると思います。

たしかに、定性的な情報をそのままネットワーク化すると、あくまで対象が持つ固有のダイアグラムになりますよね。固有のダイアグラムが複数並んでも、正確に比較・検討することができません。複数の固有情報だったとしても、固有のかたちで並べるのではなく、定式のダイアグラムとして出力することで、対象者の群としての特徴が見えてきます。

今回の話題提供者でもある信州大学工学部の大﨑理乃 特任講師がお話していた事例も興味深い内容でした。プロダクトデザイナーとエンジニアがプロトタイプ形成において重視する点が異なることを、彼らの対話から発見することができたということです。デザイナーは表層のデザイン(Appearance design)を重視し「あくまで個人の意見だけど」「よくわからないけど」という譲歩的な発言が多く、エンジニアは機能面のデザイン(Functional Design)を重視し、ユーザー視点での発言が印象的でした。

この発見も、共通のダイアグラムがあることで比較・検討ができた事例だと思います。早速私も、翌日に営業部の戦略コミュニケーションを練るため、7人の営業担当者にデプスインタビューを行い、ダイアグラムを作ってみました。生の情報をCodeにするのは難しいと思っていましたが、David Williamson Shaffer教授も質疑応答では「データを収集・整理した後にCodeへ出力することがもっとも難しい。その後、定量的に比較可能にするモデル自体をつくることは割と簡単」と言っていたことを思い出し、なるほどと合点がいったものです。

QEは、まだ数値化できていないカルチャーの価値を社会に実装するための重要な手段です。ポピュリズムな資本主義では、数値至上主義が台頭しているからこそ「本当は価値があるのに、数値として証明できない」カルチャーの良さを知っている人が活用しうる武器だと思います。コミュニティのカルチャーを十分に知っていることと、データを駆使できる人は多くありません。これらの両輪をうまく回していくことは、社会に多様な価値をもたらすとも言えるのではないでしょうか。

終わりに

今回のカンファレンスを通して、様々な新しい視点やデザインリサーチの最新トレンドに触れることができました。私は、リサーチ業務がメインではないので体系的な知識はないですが、リサーチの在り方を見直す機会になりました。今回、複数人で参加されている方々もいらっしゃいましたが、個人ではなく組織として学びにいく機会があると、組織全体の活性化にもつながるかもしれません。これからも、この領域へアンテナを張りながら、リサーチ業務では実践していきたいと思います。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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