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UX STRAT APAC 2023 参加レポート

2023年4月20日〜21日にタイ・バンコクで開催された、デザイン戦略カンファレンス「UX STRAT APAC 2023」。プロダクトデザイン室の本林がセッションや現地の様子を紹介します。

UX STRATとはデザイナー・リサーチャーのための、グローバルなデザイン戦略カンファレンスです。2023年6月にヨーロッパでも開催され、9月にアメリカでの開催が予定されています。
UX STRAT APAC 2023では10セッションがありました。
登壇者は、アリババグループが東南アジアで展開しているECサイトLazada、配車アプリのGrab、宅配サービスのFoodpandaを持つDeliveryhero、旅行予約サイトのExpedia、東南アジアで展開する銀行UOB、飛行機メーカーのAirbusなどの企業から来ていました。トピックとして、UXリサーチ、デザインメトリクス、AI/機械学習、サステナビリティ、大規模プロジェクトにおける合意形成のプロセスなどが取り上げられていました。
参加者は、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、インド、日本、中国、台湾といった国や地域から集まっていました。

リクルートからは、プロダクトデザイン室の本林と中川が参加しました。
このブログでは、下記3セッションを紹介します。

  • Methods to Increase Product Design Success

  • Introducing Experience Strategy into Projects of All Sizes at Expedia

  • UX Research Frameworks to Increase Your Strategic Impact


Methods to Increase Product Design Success(プロダクトデザインの成功率を高める方法)

スピーカー:Sanchita Ray / Lazada Senior VP of UX

Lazadaは、アリババが東南アジア6ヵ国で展開するECプラットフォームです。Sanchitaさんは、プロダクトデザインの成功率を高める方法を4つの側面から紹介しました。

  1. リサーチ文化の醸成

  2. リサーチのデザイン

  3. 分析フレームワーク

  4. プロダクトデザインでのインパクト

①リサーチ文化の醸成

リサーチへの関心を高める取り組みの例

Lazadaでは、リサーチの理念として、「自己評価」「共感を築く」「積極的になる」の3つを掲げています。

自己評価 : ユーザの立場に立って考える
社員の誰もがプロダクトにフィードバックできる仕組みや、競合をベンチマークとした調査、社員間でのドッグフーディング(リリース前のテスト)を行なっています。

共感を築く: リサーチへの関心を高める
過去のリサーチ結果にアクセスできるリサーチライブラリーや、ステークホルダーに対してインタビューを配信・共有するなど、誰もがリサーチに触れられる環境があります。

積極的になる: 全てのデザインに対して評価とユーザリサーチをする
社内外の情報を組み合わせてリサーチをしています。

②リサーチのデザイン

NPSと他のデータソースを組み合わせてNPSの推進要因を探る例

Lazadaでは、リサーチの目的に合わせて、複数のデザイン手法を組み合わせています。
例えば、NPSの推進要因を理解するために、NPSだけでは不十分なので、アプリのフィードバックやBIデータ、UX満足度、ヒューリスティック手法、アドホック調査と組み合わせています。
また、定期的なリサーチの取り組みとして、LazBusとLazPoolという仕組みがあります。LazBusは、毎月のオンライン調査で、6カ国1000人ずつにアンケートを取ります。LazPoolは、隔月1.5時間のグループディスカッション形式のインタビューです。6カ国で2つずつ、計12回のグループディスカッションが設けられています。

③分析フレームワーク

2x2フレームワークや感情マッピングなど、データを効果的に可視化する方法が紹介されていました。

④プロダクトデザインでのインパクト

UXのインパクトを測るフレームワーク

ユーザの感情と行動の両面から、UXのインパクトを測る計算式を作って、計算しています。
ATTITUDEとBEHAVIOURを重み付けして足し合わせ、IMPACTを計算します。ATTITUDEには、サーベイデータやマインドシェアのようなユーザの感情に関する指標を入れ、BEHAVIOURには、インテリジェンスデータやマーケットシェアのようなユーザの行動に関する指標を入れます。事業の指標に合わせて、重み付けを行います。

計算式を用いることで、下記のようなメリットをあげていました。

  • プロダクトパフォーマンス上のUXのインパクトを明確に示せる

  • ステークホルダーが計算結果からビジネス指標を決定できる

  • ビジネス指標に合わせて計算式を変更できる

  • ピンポイントにユーザの行動原因がわかるので実用的なインサイトを得ることができる

  • 定量・定性の両面から評価できる

以上、 Methods to Increase Product Design Successの紹介です。短期間に実用的なインサイトを得てプロダクトデザインを成功に導いているリサーチの事例でした。会社全体にリサーチが深く浸透していて、そのプロセスを知ることができ、学びの多いセッションでした。

Introducing Experience Strategy into Projects of All Sizes at Expedia(Expediaのあらゆる規模のプロジェクトに導入されるエクスペリエンス戦略の紹介)

スピーカー:Akanksha Singh / Expedia: Director of User Experience

Expediaはアメリカに本拠地を置くオンラインの旅行予約サービスです。
UXディレクターを担当しているAkankshaさんは、「チーム内でもそれぞれの職種や役割によって、ユーザの見え方やユーザ理解も異なる」と話していました。

チーム内で異なる見え方を共有し、ユーザ理解を深めていくためのステップとして述べられていたものの中から以下3つを紹介します。

  • ビジネスとゴールへの理解

  • 顧客やビジネス、プロダクト、戦略、マーケットへの理解

  • 課題の洗い出しと共有

ビジネスとゴールへの理解

彼女の発表によると、まず前提として全てのチームメンバーが集い、正しく奥深くビジネスとゴールを理解するプロセスが、成功するエクスペリエンス戦略の構築のために必要不可欠であると述べられています。

  • ビジネスモデルはどのようなもので、どのようにして利益を得ているか?

  • 長期的、短期的なゴールは何か?

  • ゴールまでのタイムラインはどのようになっているか?
    などチームメンバーで同じ理解をしておくべきことを最初に確認します。

顧客やビジネス、プロダクト、戦略、マーケットへの理解

そしてさらに質問内容を深掘っていきます。

  • カスタマーについて何を知っているか?

  • カスタマーについて何が知りたいか?

  • 我々のプロダクトとビジネスについて何を知っているか?

  • 我々のビジネスとプロダクトの戦略は何か?

  • マーケット内で似たような体験は存在するか?

など、顧客やビジネス、プロダクト、戦略、マーケットなどについて具体的に個々人がどのように思っているかを洗い出し、共有していきます。

課題の洗い出しと共有

旅行サイト上でのカスタマージャーニーを可視化して課題を洗い出す

その後、ユーザが過ごしている中でどのような時に不(不満・不安・不足・不便・不快・不都合など)が生まれているかを洗い出して共有していきます。
例えば旅行のブッキングサービスですと、サイト上での旅行商品の選択、予約の購入、予約の確定というステップがあり、サイト上では「予約をするのに最適なタイミングがわからない」「荷物用の座席をどのように選択し支払いをするのかがわからない」などの不が挙げられています。

課題を洗い出した後は、職種や部署の異なるメンバーとグループになってアイディア出しを行い、デザイナーが視覚的に表現されたコンセプトに落とし込みます。コンセプトの優先度づけも関係者全員で行い、「インパクト×実現可能性」のような統一された指標で優先度をマッピングします。

以上、Introducing Experience Strategy into Projects of All Sizes at Expediaの紹介です。チーム内の全てのメンバーがそれぞれの目線から得ているユーザ理解を同時に共有し、見方が異なる中でも同じ目的と目標を掲げ戦略を強化していくこと、そのために地道になるべく全員でコミュニケーションを重ねていくプロセスの大切さを感じました。

UX Research Frameworks to Increase your Strategic Impact(戦略的影響力を高めるためのUXリサーチフレームワーク)

スピーカー:Ruby pryor / Grab:Design Strategy and Research Lead

Grabはシンガポールに拠点を置く配車アプリの運営企業です。Grabのデザイン戦略を担当するRubyさんも、根本的な部分をメンバー全員で会話して共通認識を得ていくプロセスの重要性を、以下の点を交えて語っていました。

  • マネジメントとUXリサーチ

  • 課題の整理と共通認識

  • フレームワークの活用

マネジメントとUX リサーチ

チームマネジメントとUXリサーチのスキルを併せ持つことが大事

チームでカスタマー分析を上手く作成できるようになるには、チームのマネジメント能力とUXリサーチスキルが必要です。
なぜならまず第一歩としてメンバー同士で会話する際にそれぞれの主体性を生み出し、意見を引き出せるようにするためにチームマネジメント能力は必然的で、さらにより深いカスタマー理解のためにはUXリサーチに関する知識スキルが備わっていることが大切です。マネジメントが不足していればUXリサーチのための議論やチーム内での情報収集が困難になり、反対にUXリサーチスキルが不足していれば状況に応じた議論の進め方が分かりづらくなってしまいます。

課題の整理と共通認識

「ブライズメイドのドレス販売EC」を例に、マトリクスで課題を整理

提供しているサービスで問題が起きた時は、ステークホルダーを洞察し、問題への理解を共有して整理していきます。もし共通理解を得ずに整理がされていない状態で対応してしまうと、メンバー個々人で問題の原因や解決策への考えが異なり、適切な対応が取れなくなる危険性があります。
例として、ブライズメイドのドレスを販売するECサービス上で起こりうる問題が挙げられます。
カスタマーからのクレームで、注文したドレスが届かなかったと連絡が入ったとします。その場合に適切な対応をするには、サービス側とカスタマー側のそれぞれで起こった問題を整理していく必要があります。
サービス側は、「注文品が届かずお客様へ商品が配送できなかった」ことが問題でした。カスタマー側は、「結婚式が台無しになってしまったこと」が1番の問題です。
注文品が届かなかったことに対しての対策は「注文品分の返金をすること」、結婚式が台無しになってしまったことに対しては「台無しにしてしまったことへの損失補償」が解決策になります。
つまりサービス側だけのことを考えると返金という形のみになりますが、カスタマー側を考慮すると謝罪やクーポンの提供などの必要性が明らかになり、対応すべき内容の見落としを防ぐことができます。

フレームワークの活用

お菓子やポストイット、テンプレート(フレームワーク)を活用して議論しよう

例えば、先ほどExpediaのAkankshaさんのピッチ内容で紹介したStep2の画像も、「カスタマージャーニーマップ」活用の一例といえます。カスタマーである「旅行者」がサイトに辿り着いてから飛行機を探し予約、予約完了後のそれぞれのタッチポイントにおいてどのように動き何を感じうるかを洗い出すことで、カスタマー視点での行動と思考の理解に繋がります。
このように複数のセッションの内容を紐づけながら理解を深められるのが、カンファレンスの良いところでもあります。

再掲

以上、 UX Research Frameworks to Increase your Strategic Impact の紹介でした。課題を整理する際に個人の作業やチームの一部での議論に閉じがちになっていましたが、メンバーそれぞれの立場からこそ普段の業務を通じて見える視点があり、各々の持つ視野を共有することで見えてくる事実もあるのではないかと振り返った内容でした。

おわりに

デザイン「戦略」というテーマだったので、狭義のデザインの話ではなく、リサーチや評価、合意形成といった話題がメインとなっていました。
リクルートではデザイナーが評価や合意形成に関わる場面があり、正直しんどく感じるときもあったのですが(笑)、登壇・参加デザイナーが戦略検討の場面で様々に活躍していることを知り、とても勇気づけられました。アジアで役割・言語・タイムゾーンの異なるメンバーと協業しながらビジネスに貢献しているデザイナーの方々の事例に触れて、自分の業務に彼らのスキルやスタンスを取り入れていこうと思いました。
昨今、デザインシステムやAIを活用できるようになり、以前よりも制作の時間を短縮できるようになりました。UX戦略の実行のために重要な、リサーチや評価に重きを置いてもっと早く学習のサイクルを回したり、ステークホルダーの多い大きなプロジェクトでも全員がデザイン戦略を理解・合意した状態で推進したり、といったことに染み出していければと思います。

また、もう1人の参加者の中川の感想も紹介します。

“プロダクトデザイナー・マネージャーからみて、デザイナーから見て、開発から見て、営業から見て、ユーザはどう見えているか?プロダクトはどう見えているか?”
UX STRATへの参加を通じて私も一度考えてみましたが、今はまだ自分の目線からしかユーザを見ることができていないことに気が付きました。
日々デザイナーや開発担当者と会話を重ね、案件リリースのディレクション業務をしていく中で、どのように思考し、周囲を巻き込みながら進めていくべきか悩みつまずくことが多々ありました。今回UX STRATに参加したことで、ただ「巻き込む」のではなく、コミュニケーションを重ね根本的な考えを共有し合うことで、よりチームで納得し合える形まで持っていくことができるのではないかと思いました。

役割やチームの違う2名で参加しましたが、それぞれ学びがあり、会社やお互いへの取り入れ方を会話することができ、有意義な2日間でした!

ランチの様子 緑が美しい庭と美味しいごはんでリフレッシュ!

オフショット

バンコクはコロナ禍前と比べて、電車がかなり発達して、日本のLINE Payが使えるRabbit Payで乗車トークンが買えたり、VISAタッチ決済で改札を通過できたりと、交通面はとても便利になっていました。
QRコード決済は多くのお店で見られ、お寺の賽銭箱にまでQRのポップがついていました。

UX STRAT APACは来年の開催も計画中とのことなので、興味がある方はぜひ参加を検討してみてください。

デザイナー募集中!

リクルートにはデザインで社会をより良くしたいと願うデザイナーが集まっています。記事を読んで、少しでも話を聞いてみたいと思った方は、プロダクトデザイン室のWeb経由でご連絡ください:)
UX STRAT APACの記事を見た!と連絡してくださると、励みになります。

※参加者の所属は参加日時点のものです。


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