CES2023参加レポート
はじめまして。リクルートの「Air ビジネスツールズ」でプロダクトデザインを担当している内山と森冨です。
このnoteでは、世界中のサービスや最新テクノロジーが集まるCES2023に、「Air ビジネスツールズ」を担当しているメンバー10名で視察行ってきたレポートをまとめています。
CESではこれまで、トヨタ自動車株式会社の「e-Palette」やサムスン株式会社のAIロボットのコンセプトなどが発表されてきました。
私は、「未来を見据えた解決方法を体感し、普段向き合っているユーザーの未来の課題解決への示唆を得ること」を目的に参加してきました。
CES2023とは
CESとは、毎年1月にアメリカのラスベガスで開催され、50年以上続く世界最大級のイベントです。
過去は世界一の家電ショーと言われていましたが、最近ではモビリティやメタバース、ヘルスケア等に代表されるように、様々な分野での新しいテクノロジーが発表される場所になっています。
直近はコロナ禍の影響もあり、2021年はオンライン開催、2022年は出展企業2300社程度と、コロナ以前(出展企業4400社程度)と比較して少なかったですが、今年は3200社程度とコロナ禍以前の水準に少しずつ近づいている状況です。
また、AmazonやGoogleなどの超大手企業も出展するなど、活気が戻りつつあるなと感じました。
今年設定されたCESのテーマは「BE IN IT」。COVID-19をはじめとする世界中のあらゆる課題に対し、テクノロジーやイノベーションによって共に解決していくという主催者のビジョンが込められているそうです。
CES2023全体で感じたこと
CESでは毎年主催者であるCTA(Consumer Technology Association)より、テクノロジー市場の概観と注目のトレンドについて発表され、2023年には5G、コネクテッドインテリジェンス、自律システム、量子コンピューティングといったエンタープライズ向けのイノベーションが加速すると述べられていました。
その中でも特に注目されたキーワードとして、以下4点が挙げられます。
1.メタバース(Metaverse of Things)
メタバース自体は昨年までのCESでもトレンドとして注目はされていたようですが、あくまで投機的な意味合いが強い技術トレンドでした。
ただ、今年は1990年代初頭のインターネット黎明期と重ね合わせ、メタバースというトレンドが確立され始めているとCTAは主張しています。
メタバースには2つの領域があり、ひとつが「仮想化」、もうひとつが「没入感」であると解説されています。
「仮想化」という点でいうと、出展企業の展示でもVRデバイスを用いて仮想現実に入り込み、バーチャル空間での日常体験がよりリアルに、シームレスに実現されていると感じました。また、「没入感」という点でいうと、医療行為や工業作業などのシミュレーションをよりリアルな空間で実現できるようになってきています。このような技術進歩により、メタバースは、MoT(Metaverse of Things)であるということも発表されてました。
例えば、ロッテが展示していたVR空間では実際のモノの購買ができたり、アーティストのライブ体験がよりリアルにできたりと、未来を感じる体験ができ、日常によりVRが溶け込んだ世界がくることを予感させるものでした。
2.移動手段(Transportation)
モビリティ関連の展示はCESの一大カテゴリとして展示の多くを占めており、「EVおよび電力システムの進化」、「自動運転とアプリケーションの進化」、「車内体験のトランスフォーメーション」といったキーワードを軸に多数のソリューションが展開されていました。
展示の中では新たな車内体験に関するデモンストレーションが多く、Screenification(車内のあらゆる部分にスクリーンが搭載されること)やボイスコントロール、5GによるV2X通信、エンタメサービス、FaaS(Features as a Service、車内の各機能をサービス化していくこと)などの新たなキーワードが発表されています。
例えば、ソニーとホンダがタッグを組んで開発した「AFEELA」は、車内がよりシンプル化し、ディスプレイが占める割合が増えることで、移動手段というよりエンターテイメント空間を演出している印象でした。「車を運転する時間」を「その空間を楽しむ時間」に変えているように感じます。
3.ヘルスケアテクノロジー
デジタル技術を応用した新しいヘルスケア体験、またセルフヘルスケアのできるようなサービスに関する展示が目立ちました。
パーソナライズ化されたサプリや治療法を提案するような「デジタル治療」や、24時間体制かつ遠隔で診療や薬の提供ができる「オンライン診療」、宅トレ体験を変えるコネクテッドエクササイズやスポーツ用品などの「フィットネステック」がキーワードとなっており、最新の技術を活用することによってより便利かつ広範なデジタルヘルス体験を提供できる可能性があることについて述べられてました。
4.サステナビリティとESG
スマートグリット、アグリテック/フードテック、クリーンテック、代替エネルギーといったキーワードをもとに、これからの持続可能な社会を実現するための新たなテクノロジーをどのように活用するのか、その実例を展示している企業が数多く見られました。
いずれのキーワードにおいても、新たな技術を発表するだけでなく、より社会実装を意識した発表や展示が多かった印象があります。
「Air ビジネスツールズ」との関連性
CES2023に参加して、普段リクルートで「Air ビジネスツールズ」を担当している私たちが感じた、弊社サービスをより進展できそうと感じたサービス・観点を紹介したいと思います。
※あくまで参加者個人として感じた内容であり、社内で検討を予定しているものではありません。
紹介その1:Energy Saving/Samsung
Energy Savingとは、SmartThings Energyを導入し、個別の家電と連携すると、家庭の消費電力のモニタリングと制御ができるサービスです。
電力の利用状況をモニタリングし、無駄な消費を検知すると、家電自体を自動制御し節電を促せます。
利用方法まで踏み込んだコスト削減の白地
私たちは、お店に電力をおトクに提供し、毎日の電力使用量を確認できるサービス 『おみせのでんき produced by Airレジ』を提供しています。
世界情勢を背景としたエネルギー価格の高騰により、お店の方の負担増加が続いています。
その負担を軽減するためには、より安価な電力を供給するだけでは足りないのだと気づきました。お店の中で起きていること(何のためにどれくらい電力を使っているのか)まで踏み込んで把握し、使い方のサポート(自動制御)も含めて課題解決している点に驚きました。
お店の方の実現したいことをもっとカンタンに実現するためには、
視野を狭くせず既存の手段に閉じずに価値提供していこうと思いました。
紹介その2:Security Support/Samsung
Security Supportとは、家庭において非常時の損害(火災や水漏れ、盗難など)をSamsung製品によってモニタリング、異常検知した際には通知され、早期に警備会社や修理会社に接続・対処できるサービスです。
Security Supportとは、家庭において非常時の損害(火災や水漏れ、盗難など)をSamsung製品によってモニタリング、異常検知した際には通知され、早期に警備会社や修理会社に接続・対処できるサービスです。
非常事態を回避できる仕組みづくりをサポート
現在「Air ビジネスツールズ」では、予約・受付管理、会計、決済から人材採用、シフト管理、資金調達や請求書管理まで、事業運営のアナログな業務にかかる、手間、時間、コストを軽減するサービスを提供しています。
事業を営む方にとって、自分らしいお店づくりのため
開業準備(事業計画や設備の準備、非常時の保険など)や設備のメンテナンスも大事な業務です。
例えば、飲食店では火を扱うため、調理機器や火災警報器の定期的な点検など非連続な業務も頻度は少ないですがとても重要です。
日々の事業運営を安心して行えるように、非常事態を発生させない環境づくりや非常時の早期な検知・対処をサポートすることの有用性を感じました。
顕在化しているお店の業務課題以外にも、事業者の方も気づきにくい突発的で非連続な業務という視点で考えることで、まだまだ業務支援の余地があると感じました。
紹介その3:orbisk/orbisk
orbiskはレストラン向けのフードロスを把握、削減するためのサービスです。
REDUCE YOUR FOOD WASTE orbisk.com
世界では毎年、食品の3分の1が廃棄されており、国連はフードロスを主要な課題と考え、SDGSの12の目標の1つに設定しています。
13億トンもの廃棄される食品のうち、14%は食品サービス市場(ケータリング、ホテル、レストラン)であることに着目し、サービス提供されています。
捨てる食材をカメラによって画像認識し、どの食材のロスが多いかを把握し、調理工程の改善提案をしてくれるサービスです。
根本的な「仕入れコスト」削減の可能性
破棄される食材の把握とメニュー改善に加えて、予約客数や注文データと組み合わせることによって、仕入れる食材の量・内容の見直しが可能になり、根本的なコスト削減に繋げられると感じました。
世界が変わり続ける中で、常に新しい課題が発生しています。その状況に合わせて私たちサービス提供者側も変化し挑戦を続けることが必要です。
時代の変化に伴って発生する未知の課題に対しても、既存のリクルートとしての強みを活かしながら、課題解決に取り組んで行きたいと感じました。
紹介その4:technis/TECHNIS
technisとは、お店において屋内外の3Dカメラやセンサーを用いて、お店の内外の人の動き(人数や時間帯、エリア別滞在時間測定)、環境データ(曜日や天候など)といった情報を取得し、お店の購買データと紐付けて分析ができるサービスです。
主に、小売店舗やビル内に導入され、測定したパフォーマンス情報を元に、自店舗の改善を行うことができたり、ビルにおいては出店コンサルなどに用いられています。
具体的には、お店の時間帯やエリア別のスタッフの人員配置を検討することでコスト削減を行ったり、購買行動と相関がある商品の配置の検討などによって売上向上に寄与するサービスです。
お店のリアルタイム情報を必要な個人ユーザーにつなげる
リクルートでは、『ホットペッパービューティー』や『タウンワーク』などのマッチングプラットフォームや「Air ビジネスツールズ」などの業務支援サービスのアクションログの活用によって、継続的に満足度の向上に取り組んできました。
ただまだまだ必要だが捕捉・提供できていない情報が多く存在し、それらの情報を活用することで、私たちのサービスの進化の余地があることを感じました。
現在取得できている情報に閉じず、リクルートのミッション「まだ、ここにない、出会い。より速く、シンプルに、もっと近くに。」の実現のために既存の手段に閉じずに価値を作っていこうと思います。
おわりに
今回紹介したサービス以外にも、CES2023や現地ラスベガスでの滞在で、幅広いサービスや価値観に触れることができました。CESは「世界最大の技術見本市」と言われているように、実際に目の前でサービスやプロトタイプを見て触ることができるのが特徴です。
リクルートのプロダクトデザイン室では、日々個人やお店に対して新しい価値を提供することに向き合っています。そこには、日常での気付きはもちろんのこと、CESのような未来を感じるイベントで体感をすることが大事だと感じています。
実際に、私たちが「Air ビジネスツールズ」を担当する中でも、お店に訪問させていただき、業務の内容や環境を把握しながら本質的な課題を解決していくことを大切にしています。
現場に訪れて空気を体感すること。それこそが新しい価値の発見につながる。
この考えを大切にするからこそ、CESでの体験は貴重なものでした。