プロダクトに「らしさ」をつくる挑戦。『Airインボイス』 リリースまでの検討プロセス
こんにちは。リクルートのデザイナーをしてます、大原です。
気づけば27歳になり、デザイナーとしてどんな姿になっていきたいのか、改めて深く考える機会が多くなってきた今日この頃です。
さて、本日のお話ですが、2020年の1月から立ち上げメンバーとして参画させていただいているプロダクト『Airインボイス』についてのお話をしたいと思っています。
『Airインボイス』とは「スマホひとつで支払いもできる請求書管理サービス」SaaSのプロダクトです。
スマホひとつで実施できるという「お手軽さ」を価値におき、3ステップで読み込みから振り込みまでが行えるような体験となっています。
僕はこの『Airインボイス』というプロダクトでひとつ挑戦したいことがありました。
それがタイトルにも記載した「らしさづくり」です。
冒頭にも書かせていただいた「デザイナーとしてなりたい姿」の1つに
「誰が見ても良いものだと理解できる状態」までデザインを昇華させる、というものがあります。
これは昔から何をやるにしても思っていることで「何かに挑戦する時」は誰がみてもわかるくらいの成果を残そうと意識して取り組んでいます。
プロダクトでこの到達地点に至るためには「自分自身がプロダクトをきちんとコントロールすること」が大切だと思っていて、
「自分達が意思をもってプロダクトの細部まで設計すること」がその形を達成する1つの要因になるのではないのかなと感じています。
この細部まで設計をした結果、生まれるプロダクトの個性である「らしさ」を生み出すことが成果への第一歩につながるのではないかと考えたため、このテーマを掲げて取り組みを実施しました。
そんな「らしさづくり」を実施するために『Airインボイス』の制作でここまで取り組んだことを話していきたいと思います。
Airインボイスの開発は大きく3つの段階を経てリリースにたどり着くことができました。
・ドメインの理解、ベースの機能群の価値検証に重きを置いた「α版」
・フィジビリを通してプロダクトの体験、課題に対しての解像度を深めることを中心に取り組んだ「β版」
・α版β版の取り組みからAirインボイスのコアな価値を抽出して「Airインボイスらしさ」の作り込みを実施した「製品版」
それぞれのフェーズにおいてどう考えて歩みを進めたかのお話をしていきたいと思います。
α版の取り組み
『Airインボイス』のチームは「振込にあたるまでの一連業務の課題を解決し、良い体験を創出するためには何が必要なのか」という大きなテーマから始まったプロダクトになります。
検証前に課題の仮説はいくつもありました。
そこから「本当にクライアントにとって嬉しいものは何なのか?」を探すために、α版のプロダクト検証ではベースの機能群の価値検証に重きを置いて検証をすることにしました。
プロダクトの制作としてもユーザビリティ以前に全体像(業務オペレーションやプロダクトとの関わり方)が明らかではなかったので、
機能ベースで分けて「機能として価値を感じることができるのか?」をまずは確かめつつ、全体像のジャーニーを作るために利用者自身の理解やその領域のドメインの理解を進めていくような立ち回りをおこないました。
ヒアリングの結果、自分達が想定していた課題感は概ね合っていそうなことがわかりました。しかし、解決したい一番の課題はわからず。
また、これらはお金を払ってでも解決したい課題なのかということも確証は持てませんでした。
β版の取り組み
α版で解き明かしたドメイン知識、さまざまな課題感の解像度を高めて「今、解決したい一番の課題(コアバリュー)」を見つけにいくべくβ版へ歩みを進めていきました。
β版検証初期、当初想定していた課題があることに確証はもてたのですが、その課題はプロダクトによる解決難易度が高いことがわかりました。
しかし、一方では別の課題がある上に、それらが自分達の提供するプロダクトで十分解決ができるということもわかりました。
この課題に向けて、β版中期ではβ版テスト期間(6ヶ月間)を通して実際に使われた方の利用シチュエーションやインタビューの声から情報を吸い上げて理想の形の検討をおこないました。
細かい挙動に関しては、フィジビリで利用していただいた方にメッセージで伺ってみたり、
原案をいくつか作成し、それに対してチーム内でメリット・デメリットを挙げたり、それぞれのメンバーがインタビューやテスト利用で感じたことを盛り込みながら磨き込んでいきました。
こうして、自分達の製品がよりユーザーの方にフィットするように試行錯誤を繰り返しました。
製品版の取り組み
α版β版を通して徐々にプロダクトのディテールが見えてきました。
その中で順調に進んでいたかのように見えたプロダクト設計でしたが、ふとした時にプロダクトを客観的に見てみたところ、プロダクトの戦略を加速できるようなデザインが作れていないような「漠然とした物足りなさ」を感じました。
それはスケジュールの調整や整合性の観点に注力し観点不足により平凡な選択をしてしまって、結果整理されただけのUIとなっているからなのかも…とこの時感じていました。
ここで一度チームとして立ち止まって、振り返った時に検証やテスト利用を通して得た利用者の情報や感覚が「『Airインボイス』らしさ」を作る上での大きな指標となってくれました。
数々のユーザーストーリーの中で活用できた例とそうでない例、それぞれ抽出してみると「『Airインボイス』が生活に浸透し良い効果を生むシーン」が明確になるポイントがいくつか発生していることに気がつきました。
その部分をコアとして「『Airインボイス』らしさとは?」を考えることでプロダクトの角の立て方、どこにフォーカスを当てるのかの狙いを生み出すことができるようになったと感じています。
ターゲット定義のその先へ進むことで形作られた『Airインボイス』らしさ
このようにユーザーの解像度が上がることで、今までのAirブランドとしての基準であった「使いやすい」「シンプル」などの汎用的なコンセプトから
「支払いの手間や不安を無くすために必要な機能に絞って、店舗で何かをしながら(何かを考えながら)でも使えるような製品」というプロダクトへのアプローチの解像度も高まり、
軸をもってデザインの意思決定ができるようになりました。
よくある形、デファクトスタンダードに寄せて検討することはもちろん大事ですが、
こうして、自分達がきちんと意思をもって設計することで、その先の進化を実施する時に大きな飛躍を生み出すことができるようになるのではないかなと実感した取り組みとなりました。
今回のユーザーの解像度を上げる取り組みを通して、プロダクトに活用できるターゲットの姿は単に整然とした姿ではなくて、
もっと生々しく人間味のある姿なんだということを再認識することができました。
生々しく人間味のある要求は一見矛盾する要求と見える時もありますが、解像度をあげて細かく分解すると実は繋がっていたり、裏に大きな理由が隠れていたりします。
届けたい相手の姿の解像度が上がって、プロダクトを使っているイメージまで描ける像がつくれて、自分自信がそのターゲットの目線を持つことで、
はじめてプロダクトとして前に進むためのいい選択が行えるようになるんだなと思いました。
解像度を上げて取り組むということは当たり前のようにセットされた思考でしたが、様々なユーザー理解への取り組みを実践することでその意味を感じることができた気がします。
ユーザーの感覚値を養うための、一見遠回りに見える泥臭い作業こそが、「表層を整えたコンセプト」に収束せずに「感動や驚きを生み出す土台」となる大切な要素になるのだと実感しました。
表層的なものをつくるだけではないデザイナーだからこそ、こういう目に見えない感覚にも目を向けて取り組んでいくことが大きな一歩につながるのかもしれませんね。
「誰が見ても良いものだと理解できる状態」までデザインを昇華させるべく、まだまだ挑戦は続いていきます。