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顧客インサイトを捉える定性調査 〜攻めと守りの原則と実践テクニック

こんにちは、Airレジ ハンディのUXデザインチームリーダーをしている関口です。2018年に中途で入社以来、主に新規プロダクトの立ち上げを行ってきました。

突然ですが、プロダクト開発やマーケティングにおいて最も大事なことは何でしょうか?それは顧客が欲しいものを作る・売ることだと思っています。

しかしお金があれば欲しい物が手に入る日本では、顧客が欲しいと言っているものを作る・売る時代はもう過ぎ去っています。
現代のビジネスは顧客自身が気づいてもいない切実な思いを捉えることからスタートする、そう考えています。

今回はそんな顧客インサイトを捉える一つの手段である定性調査について、定性調査の意義からスキルアップ方法までお話していきたいと思います。

定性調査とはなにか?

みなさんは「定性調査」と聞いてどのような調査を思い浮かべるでしょうか?

エスノグラフィー調査や行動観察調査のような調査を思い浮かべる方も、定性的なコメントを集めるような調査を思い浮かべる方もいらっしゃると思います。実際に行う作業は大きく異なりますがどれも立派な定性調査と言えます。

定性調査の定義にはいくつかのものがあると思いますが、今回は以下のように定義したいと思います。

対象者から発せられる生の言葉や行動あるいは観察者が見たままの状態や印象など、ことばや文章あるいは写真といった数値化できないデータの収集を目的とした調査
出典:日本リサーチセンター(http://www.nrc.co.jp/marketing/12-02.html)

”ヒト”を知るために定性調査は行う

それでは定性調査はどのようなときに行うべきでしょうか?ターゲットユーザのニーズを把握したいとき、UIの良し悪しを決めたいとき、これまた様々な答えが浮かんできそうです。

私は”ヒト”を知るために定性調査は行うものだと考えています。比較対象として定量調査を思い浮かべていただくと考えをお伝えしやすいかもしれません。

定量調査は”数値化できるデータ”を収集する調査であるがゆえに”事実”の把握が得意です。なぜなら実世界で起こっていることは、究極的にはすべて客観的な指標で測ることが可能だからです。
しかしどうしても測れないものも存在します。それは”ヒト”の内面です。なぜAさんはあの商品を購入したのか?なぜBさんはこの機能を使わないのか?こういった疑問を定量調査では明らかにすることができないのです。

上のような疑問への答えを出すために定性調査が必要になります。つまり定性調査は”事実”に相対する”ヒト”の内なる思いを明らかにしたいときに行うべき調査であるというのが私の考えです。

【note記事用】UXデザインG会発表資料_v2.0

定性調査の質は原則によって高められる

どうしたら効率よく”ヒト”を知ることができるのでしょうか?私は攻めと守りの4つの原則を守ることで調査の質を高められると考えています。

原則の内容に触れる前に、定性調査の難しさを浮き彫りにする2つの物語(フィクション)を紹介したいと思います。

1つ目は靴に関するグループインタビューのお話です。これは”ヒト”の言葉は質問の仕方や周囲の環境などによって簡単に変わってしまうことをわかりやすく示しています。初対面の人の前だとかっこつけてしまう、みんなが言っていると自分もそう思えてくる、などみなさんも似たような経験の覚えがあるのではないでしょうか。

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2つ目は学習塾に関するアンケート調査のお話です。これは”ヒト”は自分の思いをいつでもうまく言語化できるわけではないということを示しています。学習塾に限らず、例えば洋服や食品など、なぜそれを買ったのかを自分でもきちんと説明できないことは意外とたくさんあると思っています。

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この2つのエピソードを通じて示唆されるのは、普段の会話と同じ意識で定性調査にのぞむと意味あるインプットを得られない可能性があるばかりか、誤ったインプットを得てしまう恐れすらある、ということです。これは定性調査に関わる人は強く意識しておく必要があるでしょう。

それではどうすればよいのか?”ヒト”の言葉が誤った方向に誘導しないようにする「守りの原則」本人すら気づいていない思いを引き出すための「攻めの原則」。それぞれ2つずつ計4つの原則を紹介していきたいと思います。

<守りの原則>
・バイアスをかけずに聞く
・事実への思いを聞く
<攻めの原則>
・言語化の方法を与える
・言葉以外に注目する

4つ

原則1 バイアスをかけずに聞く

質問の仕方は直接的に答えを誘導してしまう可能性があるため、細心の注意を払って言葉を選ぶ必要があります。よく言われるOpen Quesitionのテクニックも誘導を避けることが目的です。他にも大きな話から順番に聞く、話し手の言葉を使って聞くなど様々なテクニックがありますが、意識すべきは”聞き手の質問の仕方が話し手の答えを操作してしまっていないか”ということです。

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原則2 事実への思いを聞く

話し手は悪意なく誤ったことを言ってしまう可能性があります。プロダクトの感想を聞いたときに”これは◯◯な人にすごくいいと思います!”と回答されるようなケースです。これは事実に相対していない人の話をしている時点で残念ながら真偽不明の回答になってしまっています。こういった場合は事実とは言えない想像やあやふやな記憶に基づいた答えではなく、あくまで明確な事実への直接的な思いを答えてもらうように促す必要があります。

本人

原則3 言語化の方法を与える

Aさんに聞かれて初めて気づいた、というときAさんは引き出し方が上手なのでしょう。本人すら気づいていないことを引き出す手法としては、比較対象を確かめる、比喩を使うなど様々なテクニックがありますが、共通するのは”言語化の方法を与えてあげる”ということです。話し手が普通はしないような言語化の方法ほど効果的な可能性があります。

比較対象

原則4 言葉以外に注目する

オンライン会議が増えている昨今、オンライン会議は相手の反応がわからないから話しづらい、と思ったことは誰しもあるのではないでしょうか。これは対面の会議なら目に見える表情や仕草といったものが見えなくなっているからです。言葉以外の要素が重要なのは今さら強調するまでもないことだと思いますが、”インタビューするぞ!”という気持ちでいると意外と見落としがちなので意識的に注目することが大事だと考えています。

様子

”分かる”から”できる”へは場数を踏むこと

ここまで4つの原則と一部のテクニックを紹介してきました。どれも決して理解すること自体はそれほど難しいものではないと言えると思います。これらが難しいのは実践することです。この文章を書いている私も”今の聞き方まずかったな”と思うことはよくあります。継続的に実践し続けるためには、やってみて振り返る、を繰り返し続けるしかないと思っています。

私たちの組織では今回引用した資料などを使った座学の場だけでなく、やってみて振り返る、を一通り行うワークショップも実施しています。各メンバーが基本的なスキルを”分かる”だけでなく”できる”に進む一歩目を手助けするためです。

振り返り

”知りたい気持ち”を作れば”知る力”も高まる

もちろん勉強会やワークショップも大事ですが、やはり業務に役立てつつ、スキルアップもしていく状態を作ることができれば一番です。そのヒントとなるのがお客様との接点作りだと私は考えています。

私のチームでは"一人一顧客”というスローガンを掲げて職種問わずフランクに会話できるお客様を持つようにするなど、チームメンバーの誰もがお客様に直接話を聞くことができる環境作りを心がけています。
誰もがお客様と接点を持つようになると誰もが定性調査の担当者になります。自然と”◯◯機能についてAさんにこんなスクリプトでヒアリングしようと思うけどどうかな?”といった会話がチーム内で生まれ、原則やテクニックを意識しながら実践するということが自然と促されるようになっていきます。
つまりお客様のことを知りたいという気持ちがメンバーの中に生まれやすい環境を作った結果、自然と知る力も高まっているということです。

上記のような経験から、もし定性調査を重要視してその力を磨いていく必要性を感じるなら、日常業務の中でお客様と触れる機会を増やすことが一番の近道なのではと感じています。

まとめ

長くなりましたが、今回お伝えしたかった内容は以下です。

・定性調査は”ヒト”を知るために行う
・定性調査の質は4つの原則を守ることで高められる
・力を磨くにはお客様との接点を増やすことから始めると良さそう

この記事が”ヒト”の役に立つサービスやプロダクト作りの参考になれば幸いです。

おまけ 〜もっと具体的な業務内容を知りたい方に

過去にとあるUXリサーチに関するイベントに登壇した際のプレゼン資料やイベントの様子をまとめた記事もあります。より定性調査に関する具体的な業務やその中でのポイントにも触れています。もしよければどうぞ。

 








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