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オンライン上での “つながり” を創出/強化させるものは何か?

こんにちは。リクルートのプロダクトデザイン室に所属している今井と鹿毛です。私たちはリクルートでのプロダクトデザインの業務に加え、東京大学の先端アートデザイン社会連携研究部門(AAD)の研究員としても活動をしています。この記事では、研究内容の概要と、3月に研究を目的として実施したイベントのレポートをまとめています。

研究テーマと背景

リクルートでは新型コロナウィルスの感染防止対策のため、2020年から在宅でのリモートワークが推奨されるようになりました。期の始まりにメンバーが一堂に介して実施されていたキックオフはオンラインでの開催になり、定期的に行われていた飲み会やオフィスでのすれ違いざまでの会話も以前に比べ少なくなりました。このような業務環境の変化から、私たちは一緒に働く人とのつながりが弱くなっているのではないか?それにより仕事の質に影響が出ているのではないか?という仮説から、リモート環境下におけるオンライン上での”つながり”を創出したり、強化したりするための方法を探っています。

研究のアイデア - 予期とつながり

イグノーベル賞も受賞された、東京大学の西成活裕教授をはじめとする研究グループが行った歩行者集団の行動実験の内容から、「予期とつながり」という研究アイデアを発想しました。この実験では、集団内のごく一部の歩行者の注意を歩行以外に向けさせることで、歩行者が通常もつ「予期」という性質と集団全体の組織化の関係を初めて検証した内容です。以下の図は、レーン形成実験を上空から撮影したスナップショット。黄(赤)色の帽子を被った歩行者が左(右)から右(左)へ移動していて、青丸は予期の認知能力を阻害するため視覚的注意を逸らされた歩行者を示しています。検証を通して、歩行者集団において歩行者同士が「互いに」動きを予期し合うことで集団全体の組織化を促進することが明らかにされました。

引用元:https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20210318.html

あらためてオフィスで仕事をしていたときのことを思いかえしてみると、オフィス環境では周りを見渡せば周囲のデスクに同僚が座っているのが一目で見て取れます。これから会議に向かう様子、誰かを探している様子など、今何をしていてこれから何をしようとしているのかを察しながら仕事をすることができました。一方、在宅含むリモート環境では、ディスプレイに表れているものが得られる情報の全てであり、同僚のことを察するための情報量がオフィス環境に比べ減っていると言えるでしょう。こういった環境の特性の違いはあれど、リモート環境においても仕事を一緒に行う相手のことを予期する手立てがあれば、仕事仲間とのつながりを強化することができるのではないかと考えました。

リモート環境とオフィス環境の違い

初期仮説 - Will Can Must シートは予期を促す手段になりうるか?

リモート環境においても相手のことを予期する手段として、Will Can Mustシートを活用することで、つながりが強化されるのではないかと考えました。Will Can Mustシートとは、リクルートの個人の評価とキャリア開発を行うための目標設定ツールです。Willは今の仕事を通じて個人的に実現したいことや将来のキャリアイメージを記載し、Canには活かしたい個人の強みと克服したい課題を、Mustには能力開発につなげる具体的な業務目標を記載します。Willは長期的かつ不確実性の高いその個人の未来を描いたものと言えますし、Mustは半年という短期的かつ具体的な業務内容に基づくものと言えます。私たちは、特定の集団に対して相互にWillを開示した場合、Mustを開示した場合のそれぞれにおいて、個体間の予期する力が強化され、​つながりが強化されるかを実験を通じて確認しました。

Will Can Mustシートのイメージ

実験コンセプト

リモート環境に置かれた他人同士で構成された集団(A)に対し、予期を生む刺激(B)を加えることで、ある期間の間で起きる集団(A)内でのつながりの変容(C)を観察します。​また、(C)のつながりの強度によって、プロジェクトの成功傾向(D)との関係があるのか、個人の幸福感(E)との関係があるのかを併せて分析しています。​

実験コンセプト

実験の詳細

外部被験者(44名)を集め2022/3/2、2022/3/5の二日程でオンラインでのグループワークショップを開催しました。3-5名のグループを複数用意し、「2050年の住まいを考える」ワークをグループごとに実施してもらいます。被験者にはつながりに関する研究内容は開示せず、ワーク前の自己紹介の時間に共有する内容を変えることで、グループ内の被験者間でのつながりの強度が変化するのか、グループで作成した成果物の評価に差が出るのか、加えて、個人の幸福感との関係があるのかを分析しました。分析には、ワーク前後のアンケートにより参加者から収集した情報に加え、ワークショップを録画したデータを振り返り、発言者と発言の種別をタグつけした情報を用いています。

自己紹介の内容を変えたワークショップの工程

ワークショップの内容と様子

ワークショップは3-5名の被験者と進行をサポートする事務局メンバーがZoomのブレイクアウトルームに入り、ホワイトボードツールのmiroを使って、「2050年の住まいを考える」ワークを行いました。自己紹介ののち、2050年の世界や生活を考えるワーク、リクルートのSUUMO編集長のプレゼンから気づきを共有するワーク、そして2050年の住まいのアイデアを発想し発表するという手順でグループワークを進行していきました。それぞれの発表内容に対して、他のグループから相互に評価をおこない、成果物の評価とし、グループワークの前後でつながりや幸福度に関するアンケートからつながりの変化や幸福度との関係を分析するためのデータを収集しました。

miroでのワークショップのイメージ

ワークショップ自体はオンラインでの開催でしたが、私たち研究員の二人と事務局のメンバーはオフィスに集まり、iPadとモニタディスプレイを使って、それぞれのグループでの会話や様子を観察していました。もちろんグループワーク中にすべてのグループを観察することはできないため、グループワークの様子を録画し、後から見返して分析ができるようにしています。

ワークショップ中の事務局の様子

結果とまとめ

量的データ分析

実験前後に実施したアンケートを元に、以下の3つの仮説に基づき分析を行いました。

① 集団に対して、予期を高める刺激(Will/Mustの共有)を与えると、集団内のつながりは大きくなるか?

開始前のつながりを5.0とした時、Will/Mustの共有がない集団の平均が5.0→7.3、Willのみの集団では5.0→7.5、Will/Mustの集団は5.0→8.4と、大きくなる傾向が見られました。一方でMustのみを共有した集団では、5.0→7.1となり、役割決めに終止してしまうことが、つながりを大きくすることに逆効果になったと考えられます。

予期をあたえた刺激別のつながりの変化量

② つながりの変化量は、ワークの成果につながるか?

つながりが強まったチームほど、最終成果に対する講評の評価が高くなる傾向が見られました。

つながりの変化と最終講評

③ つながりの変化量は、ワーク終了後の幸福度につながるか?

相関は見られませんでした。ただし、つながりへの感度が日常的に高い人ほど、幸福度が変化する傾向が見られました。感度が高いほど、実験を通じたつながりの大きさが、ポジティブにもネガティブにも幸福度に与える影響が大きいと考えられます。

つながりの感度と幸福度の変化

質的データ分析

分析方法

ワークショップの録画データを用いて、話者をタグつけし、発話の内容にたいして、「雑談」「笑い」「役割発言」「アイスブレイク引用」「自分の意見を被せる」「反対意見」に該当するものにフラグをたて、刺激の異なるグループ間の比較を行いました。今回は全12グループのうち、自己紹介でWill/Mustを活用した1グループと刺激をあたえなかった1グループで比較しました。

結果

参加者の発話量は、どちらのグループにも差はありませんでしたが、1人あたりの発話量は、Will/Must(WM)の自己紹介を行ったグループでは偏りが無かったのに比べ、刺激なしグループでは偏りが見られました。また、発話に占める「アイスブレイクでの内容引用」「自分の意見を被せる」のシェアは、WMグループのほうが高い結果となりました(表)。どちらのグループでも、「自分の意見を被せる」の発話が多い人ほど、最終的にグループの成果物を作る議論での発話量が少なくなる傾向(グラフ)があったと言えます。

表:参加者別の発話量と内容の分析
グラフ:工程別の参加者の発話量

まとめと考察

今回の実験結果からは初期仮説( Will Can Must シートは予期を促す手段になりうるか?)の通り、WillとMustの刺激を自己紹介で与えたグループの方がグループ内でのつながりが高まる傾向があることがわかりました。つながりを強く感じたチームのほうが成果物の品質が高い傾向にあることもわかりました。一方つながりを強く感じたチームとその幸福度には相関が見られなかったが、個人のつながりへの感度が高い人ほど幸福度の高低の差が大きい傾向にある結果となりました。質的な分析を通じて、自己紹介の際に共通項が多く議論テーマとの関係性が高い場合に、自己紹介での内容が議論の内容へ影響を及ぼすことが観察されました。特にWillの開示がグループ内でのつながりに影響を及ぼす傾向があることから、Willの情報がお互いの発言内容を予期する力を補助し、議論を活発にする効用が一定あるように考察されます。

今後の展望

今回は、つながりというテーマにたいして対して「予期」を切り口に実験/考察を行いました。今後は、つながりというテーマを固定しつつ、様々な切り口での検証を継続していきます。

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