N=1の顧客理解の進め方 〜Airクライアントに想いを馳せる会〜
はじめに
こんにちは、『Airレジ』及び「Air ビジネスツールズ」でプロダクトデザイナーとして働いている日髙雄介です。
以前は「顧客要望をプロダクト開発に活かすために大切な3つのこと」というテーマで、顧客要望を収集・精査し実際にプロダクト開発を行うまでのフローやポイントについて書かせていただきました。
今回は具体的な検討や開発フローではなく、より抽象的な”顧客理解”のために「Air ビジネスツールズ」の開発チームで行っていることを紹介させていただきます。
顧客理解とは
プロダクトを開発する上で顧客理解は重要であることは言うまでもありませんが、皆さんは「顧客理解」と聞いて何を想像しますか。
それぞれチームや立場、プロダクトの状況によって異なってくるかと思いますが、僕は「要求や仕様検討の時に、特定のクライアント名が何度も挙げられる状態」が顧客理解ができている状態だと考えています。
例えば『Airレジ』の場合は「あれ?この表現だとあのカフェの店長さんには伝わらないんじゃない?」「この仕様変更だとあの雑貨屋のオーナーはここがダメって言いそうだよね」等の、心の中に具体的なクライアントを思い浮かべた会話がチームで発生するイメージです。
この状態になるためには、どういう1日を過ごされているのか?マインドシェアは何か?性格や人間性など、プロダクトがカバーしている業務を飛び越えて、顧客理解ができている必要があります。
店舗経営にとってレジ打ちがほんの一部であるように、プロダクトがカバーしている業務というのはクライアントにとっては限定的であることが多いと思います。特定の課題についてヒアリングを行い解決するだけであれば、該当する業務を把握していけば事足りるかもしれません。
しかし、該当する業務だけではなく全体感を理解をできていると、他の課題や機能検討の際でもそのクライアントがどのように感じるか?同じように困りそうか?などを想定できる、汎用的な材料になります。
つまり、「要求や仕様検討の時に、特定のクライアント名が何度も挙げられる状態」は、そのクライアントについて該当業務を超えて全体感を理解できていないと達成し得ない状態であり、それができていると汎用的な課題に対しての検討に活かすことができると考えています。
また、チームの共通認識として特定のクライアント像を共有できていれば、検討強度も検討スピードも格段に上がるでしょう。
『Airレジ』における顧客理解に対する課題
しかし、『Airレジ』では、以下の要因から顧客理解を深めにくいという課題が存在しました。
①利用するクライアントの業種、業態が多岐にわたる
『Airレジ』は利用していただいているクライアントの業種、業態が多種多様、プロダクトの使い方も業態や規模によって大きくなります。例えば、飲食店と小売店のレジ打ちでは、タイミングや求められる機能が大きく変わります。クライアント数が増え、業種が多岐にわたるほど、誰に向けてサービスを作っているのか、何の課題を解決するのか定義することが難しくなっていく構造であるといえるでしょう。
②レジ打ち、店舗経営をしたことのある開発メンバーが少ない
『Airレジ』開発チームの中で、レジに立ったことがあるメンバーは少なく、店舗経営をしたことがある人はほとんどいない状況です。
ぼやっとした『Airレジ』クライアントを理解するために、まず徹底的にN=1を理解しに行く。そして上記で示したような、心の中に具体的なクライアントを思い浮かべられる、いわばメンバーの共通言語を作れれば良いなという思いで、今回の取り組みが始まりました。
行ったこと「Airクライアントに想いを馳せる会」
上記背景から、特定のクライアント密着インタビューを行って開発チームに共有する会を開催しました。参加者各々がクライアントのことを想像し、想いを馳せて参加することから「Airクライアントに想いを馳せる会」という名前です。
1~2ヶ月に1回を目安に、訪問とインタビューを行い、社内共有を行います。「Air ビジネスツールズ」の中でも主に『Airレジ』を利用していただいている多様なクライアント像を理解するために、毎回業種や業態を変えていて、今のところ6回開催しています。基本的に担当者(プロダクトデザイナー)が実施しますが、希望すれば同席できるようにしており、今までの回でもクライアントサポートTやマーケティングTのメンバーも同席しました。
具体的なインタビュー内容は以下で、最低2時間、長いと3時間もお時間をいただいて行います。
・店長さんの来歴、開店経緯、やりがい
・寝てから起きるまで1日のタイムスケジュール
・店舗経営をしていて辛いこと
・お店のこだわり、想い
・Airプロダクトについて、いいところと悪いところ
・使っているシステム構成図
・仕入れ発注などの業務フロー
・バックオフィスや、リアルなレジ打ち、会計業務(写真・動画撮影)
プロダクトやレジ打ちについてはもちろん深掘りをさせていただいていますが、店長さんの人柄やお店についての質問項目も多くなっています。普段特定の案件や機能に関するヒアリングではなかなか聞く機会のないこういった内容から深い顧客理解ができると考えているからです。
インタビュー内容から得た気づきや内容をスライドにまとめて、社内共有を行います。
参加者一人一人がそのクライアントのことを想像できるように以下のような工夫をしました。
①みんなで意見交換ができる仕組み
1時間の発表の中でインタビュー内容のクイズをかならず2、3問出題し話し合ってもらいます。以下はその一例ですが、カフェのクライアントにインタビューした時のものです。この問題について考えることで、レジ打ち以外の様々な業務があることや、それをいつやっているのか?などみんなで意見を交換していくことで、クライアント像が少しずつ形づいていきます。
ちなみに上記の問題の正解は、全て営業中に行っていない、とのことで、実際の店長さんのタイムテーブルは以下のようなものでした。
これをメンバー同士で見ながら、これだけのことを営業時間外にするのかという驚き、レジ打ちに全然時間を使ってられないこと、など様々な気づきや感想を共有しあいます。
また、オンライン開催の際はチャットを解放しており、自由に思ったことを発言するようにしています。お互いが感じたことや予想したことを話すことで、クライアント像を共有し、共通認識を深めていきます。
②動画・写真でリアルな現場を再現
実際の業務の様子やプロダクトをどのようにご利用いただいているかをなるべくリアルに伝えるため、写真や動画を撮影させていただくことにしています。実際の店長さんの声や作成している成果物とその環境を見て、プロダクトが使われている状況を具体的にイメージをすることができます。
実際にお客様のレジ前の処理を撮影、観察させていただいている様子。右が私です。写っていませんが、右側にクライアントが実際にレジ打ちを行っています。
この時会計を撮影させていただき、その様子を共有しました。その際にいくつかトラブルが発生したのですが、その動画を見ていた時のチャットの様子が以下です。
数字やログデータでエラーを見ることは普段からありますが、実際のクライアントの発言や動き、お客様との空気感などを感じることはなかなかできません。この件は『Airレジ』と他の決済アプリの連携の課題だったのですが、会終了後すぐに「どうにかしよう!」ということで案件化しました。組織で動画眺める中での共通認識になったため推進もスムーズです。
③クライアントのシステム構成図を見る
毎回の定番のコンテンツとしてシステムや業務周りを可視化しています。クライアントがどのようなシステムを利用しているか、各システムに関連する業務全体を把握することで、忙しさや業務量を想像することができます。
薬局さんとカフェのシステム構成図の比較。システムの複雑度や関連業務量から、バックオフィス業務にどのくらい時間がさかれるのかがかなり違うことがわかります。
④クライアントから購入させていただいたものをみんなで触りながら話を聞く
現在はオンライン開催なので難しいのですが、オフラインで開催していた時は訪問先のクライアントから商品を購入させていただき、メンバーみんなに配って発表を聞いてもらいました。例えば第1回はクライアントのお店で買ってきた豆で淹れたコーヒーをいただき、お店の業務に思いを馳せながら開催しました。
「Airクライアントに思いを馳せる会」開催の結果
この取り組みは具体的な成果がすぐ出るものではないと考えていますが、開催時毎回収集しているアンケートは非常に高い満足度を保っています。
アンケートからのコメントを抜粋します。
・デザインをするときに、その人が具体的にどんな反応をするか想像しながら、すすめることができるようになると思いました。(UXデザイナー)
・クライアントの不を間近で理解することで、営業に繋げられる。また、必要周辺機器の導入検討ができる!!(セールス)
・クライアントの姿が見えると、自分の仕事がクライアントの役に立っていることがより実感できてコミット度が高まると思いました。(開発)
・要件定義の検討をしているときに、「◯◯さんならこうだろうね」という会話が実際に出た。今後もより多くの顧客を、深く理解していきたい。(プロダクトマネージャー)
おわりに
コロナ禍という情勢もあり、顧客接点が薄くなってしまっているチームも多いのではないかなと思い今回こちらの題材を紹介させていただきました。
特定の課題やニーズのヒアリングではなく、クライアントの全てを理解しようとすると想像以上の気づきがあるなとこの活動を通して実感しています。
同じような課題を感じているチームの方は、ぜひ一度お試しいただけると良いと思います。