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4ヶ月、宿に常駐!? 現場から生まれるリクルートのUXリサーチ プロデザ!byリクルート第8回


リクルートのプロダクト制作におけるナレッジをシェアするウェビナー「プロデザ!byリクルート」。第8回目となる今回のテーマは「4ヶ月、宿に常駐!? 現場から生まれるリクルートのUXリサーチ」。

プロダクトの改善にあたり、欠かせないプロセスの一つがクライアント理解。プロダクトを使う方を深く理解し、クライアント目線で課題を可視化することです。

プロダクトデザイン室でもクライアント理解を深めるため、UXリサーチに力を入れています。アンケートや簡易インタビューといった従来のリサーチ方法だけでなく、時にはクライアントの懐へ入り込み、じっくり腰を据えてコミュニケーションをとることも。そうした取り組みの多くは「使う人のことをもっと知りたい」という、現場の思いから生まれたものです。

今回はそんな現場発のUXリサーチのなかから、特にユニークな2つの取り組みをご紹介します。

※2023年3月28日に開催したオンラインイベント「プロデザ BY RECRUIT VOL.8 4ヶ月、宿に常駐!? 現場から生まれるリクルートのUXリサーチ」から内容の一部を抜粋・編集しています。

 


「クライアントのことをもっと知りたい」 現場から生まれるリサーチの取り組み

今回の登壇者は、プロダクトデザイン室・プロダクトマネージャーの日高雄介、松本大亮の2名。どちらも、自身が手掛けるプロダクトにおいてクライアント理解を深めることを目的に、ユニークな取り組みを実施しています。

モデレーターは、リクルート初の専任リサーチャーである大草真紀。まずは前提情報として、リクルートにおけるUXリサーチの特徴を大草が解説します。


大草:日高さん、松本さんにお話いただく前に、まずはモデレーターの大草からリクルートでのUXリサーチの特徴を解説いたします。

私の自己紹介ですが、現在はリクルートのSaaS領域プロダクトデザインユニット内にあるリサーチチームに所属し、UXリサーチをしています。また、副業でもUXリサーチアドバイザーをしております。趣味はサウナ。熱波師の認定資格も持っていて、いつかサウナのリサーチをするのが夢です。

 はじめに、私が社内でやっているUXリサーチに関する取り組みを紹介します。

取り組みとしては、大きく以下の3つがあります。

(1) リサーチ案件の実施

課題整理→調査設計→実査(インタビューなど)→分析→調査結果の現場浸透までを行う。リサーチャーがインタビューの部分だけを担当するのではなく、結果の分析や現場に伝えるためのアウトプットにまで関わるのがポイント。

(2) リサーチ実施のサポート

自分が主導するリサーチ以外について、アドバイスをしたり、リサーチ結果のデータベースを整備したり、ResearchOpsというリサーチをやりやすくするための環境を整備したりといった、さまざまなサポートを行う。

(3) 組織全体のリサーチスキル向上

リサーチスキル育成やナレッジの共有、SaaSプロダクトデザイン組織として、リサーチに関してどんなことをやっていくかといった長期的な検討などを行う。

次に、リクルートにおけるUXリサーチの特徴についてご説明します。

 そもそも、リクルートではプロダクト開発にあたり「クライアント理解を深めよう」という考え方が当たり前に浸透していて、現場発で日常的にさまざまなリサーチの取り組みが行われています。私たちSaaS事業でいうと、『Airレジ』や『Airペイ』といった飲食店などの業務を支援するプロダクトがありますが、クライアントである店舗オーナーがどんなことに困っているのか、私たちのプロダクトをどうお使いいただいているのかを直接ヒアリングし、サービスの改善に活かす文化が根付いているんです。

つまり、トップダウンやリサーチャー発信ではなく、プロダクトマネージャーやデザイナーといった現場のプレーヤーたちの「リサーチしたい!」という思いを起点に、クライアント理解への取り組みが行われているということですね。

今回、日高さんにお話しいただく「想いを馳せる会」や、松本さんにお話しいただく「宿への常駐リサーチ」も、まさに現場から生まれたリサーチの事例です。

 このことを踏まえ、ぜひお二人のお話をお聞きいただければと思います。


日高雄介「SaaSクライアントに想いを馳せる会」

 最初に登壇したのは、リクルートのSaaS事業「Air ビジネスツールズ」の新規事業を手掛ける日高雄介。日高からは、入社当初から関わってきたプロダクト『Airレジ』において、クライアント理解を深めるために実施した「SaaSクライアントに想いを馳せる会」という取り組みについて、その概要や目的、成果などが明かされました。


 日高:日高雄介と申します。私からは、「SaaSクライアントに想いを馳せる会」という取り組みについてお話しいたします。

私は2018年4月に新卒でリクルートに入社し、最初の2年間は『Airレジ』のプロダクトマネージャーをしていました。その間、さまざまな業態のクライアントとお話しをするなかで生まれた取り組みが、今回ご紹介する「想いを馳せる会」です。

日高雄介。2018年4月、新卒でリクルートに入社。『ホットペッパービューティー』の営業を経て、同年7月から『Airレジ』のプロダクトマネージャーに。2020年10月から「Air ビジネスツールズ」の新規事業担当者に。趣味は海外旅行とサウナ。

どんな取り組みかというと、やっていることは本当にシンプル。簡単に言うと、「1人のクライアントにインタビューを行い、気づきをまとめ、その内容を社内で共有する」というだけのことです。ただ、インタビューのやり方や内容は、かなり特徴的かなと思っています。

<具体的なインタビュー内容>

・店長さんの来歴、開店経緯、やりがい
・寝てから起きるまで、1日のタイムスケジュール
・店舗経営をしていて辛いこと
・お店のこだわり、想い
・「Air ビジネスツールズ」のプロダクトについて、いいところと悪いところ
・使っているシステム構成図
・仕入れ発注などの業務フロー
・バックオフィスや、リアルなレジ打ち、会計業務について(写真・動画撮影も)

これだけの内容をお聞きするには最低でも2時間。長いと3時間かかる時もあります。一般的なクライアントインタビューでは特定の課題に絞って短時間で行うケースが多いと思いますが、僕らは店長さんやオーナーさんと、膝を突き合わせてがっつりとコミュニケーションをさせていただいているんです。

では、なぜこんなことをしているのか。「寝てから起きるまで1日のタイムスケジュール」なんて、プロダクトの改善に関係ないだろうと思う方もいらっしゃるかもしれません。簡単に言うと、クライアントのことを徹底的に理解したいからです。裏を返せば、SaaSプロダクトというのは、それだけクライアント理解が難しいということでもあります。

というのも、弊社のSaaSプロダクトのクライアントは、飲食店や美容院、旅館など、業種業態が多岐にわたります。さらに、サービスをつくる我々自身、レジ打ちやシフト管理といった店舗業務を経験したことがありません。そのため、クライアントのマインドを想像することが難しかったんです。たとえば、お店の人たちにとってその業務がどれくらい大変で、どれくらい大事なことなのか、心から理解できているとは言い難い部分がありました。店舗経営・業務をサポートするサービスを作っているのに、それではまずいだろうと。

そこで、1人のクライアントを徹底的に理解する、つまり、「想いを馳せる」ための深掘りを始めたんです。そして、その内容をメンバーにシェアしたり意見交換をすることで、一人ひとりのクライアントの解像度を高め、チームで共有していこうと。これが「想いを馳せる会」の概要になります。

 次に、「想いを馳せる会」において、チームのメンバー間で意見交換をする際や、クライアントにインタビューする際に心がけていること、工夫しているポイントをご紹介します。

工夫ポイントは、主に以下の4つです。

(1)みんなで意見交換できるコンテンツを盛り込む
(2)システム図の作成
(3)リアルな動画・写真共有
(4)プロダクト外の業務まで突っ込む

 まず、「(1)みんなで意見交換できるコンテンツを盛り込む」についてですが、チームのメンバー同士で意見交換をする際、議論の呼び水となるようなコンテンツを用意するようにしています。

 たとえば、上記のスライドのように、クイズを用意したりしています。ちなみに、このクイズの答えは「どの業務も、営業中には行いません」です。ちょっといじわるな答えですが、実際の店舗ではこうした業務を営業時間外に行わなければならない実情があります。こういうことって、外からだと意外と分からないですよね。僕自身も、お店の方とお話するまで知りませんでした。これを踏まえてお店の方の1日のタイムラインを見ていくと、自分たちのプロダクトをどう改善すればクライアントが有効に時間を使えるようになるか、といったことも考えられるようになるはずです。

 次に、「(2)システム図の作成」について。システム図というのは、たとえば以下のようなものです。

 要するに、『Airレジ』や『Airペイ』の導入店舗でのシステムやデータの流れを可視化したものですね。なお、左側はカフェのシステム図、右側が薬局のシステム図になっています。2つのお店を比べると、薬局のほうがより流れが複雑になっていますよね。これは、調剤の仕入れ先が無数に存在していたり、さまざまな理由で業務が複雑化しやすいからです。システム図を作成することで、こうした比較もできるようになります。

 

続いて、「(3)リアルな動画・写真共有」について。店舗でのインタビューに伺った際に、実際の業務を撮影させていただいています。

 上記スライドのように、お店の方に許可をいただいたうえで、『Airレジ』を使ったレジ打ちなどを撮影し、チームのメンバーに共有しています。これをやる理由は、「現場でプロダクトがどう使われているか」という解像度を高めるためです。やはり、現場で使われているところを見ないと分からないこともありますから。

ちなみに、この時はレジ打ちの様子を社内に生配信し、メンバーにチャットでコメントをもらうようにしたのですが、プロダクト側の問題で会計が滞ってしまうという事態が発生しました。2分ほどそれが続き、メンバーとしては目を背けたくなるような状況で……。当然、「速やかに修正しよう」ということになり、結果的にプロダクトの改善につながりました。

最後は「(4)プロダクト外の業務まで突っ込む」です。

 クライアントにインタビューする時って、普通はそのプロダクトがカバーできる範囲の業務についてヒアリングをしますよね。でも、僕らは自分たちが解決すべき範囲外のことも突っ込んでお聞きするようにしています。たとえば、とある薬局さんでは、レジ打ちをした後の売り上げデータをもとに、紙の帳簿をつくっていました。毎週2時間くらいかかるため、かなり負担の大きい業務です。ただ、これって会計ソフトや税理士の範疇で、僕らのプロダクトの課題ではありません。それでも、そこをヒアリングすることで、より深くクライアントや業務について理解できるようになる。それに、いま提供しているサービスとは別の形でクライアントをサポートできる新規事業だったり、プロダクトの種が生まれるかもしれませんから。


 では、実際にどんな店舗にどういったお話を聞き、それがどんな課題の発見につながったのか。具体的な事例も紹介したいと思います。

 こちらは、とあるタバコ屋さんの事例です。創業から6代続く老舗のタバコ屋さんで、現在はご家族で経営されています。このお店に「想いを馳せる」インタビューをさせていただきました。

 

 右側の漫画が、その際のヒアリングの様子なのですが、会計を後ろから観察することで、さまざまな課題に気づくことができました。

 特に気になったのは、会計完了後のバーコードの読み取りについてです。『Airレジ』では、商品のバーコードを読み取って注文入力をしていくのですが、お客様が複数の商品を購入される場合、全ての商品のバーコードを読み取ってから「お支払い」→「会計完了」へと進む流れになっています。

 

ただ、タバコ屋さんの場合、お客様が買う銘柄が決まっていることが多く、合計金額が出る前から小銭を握りしめていたりもします。そのため、速やかに指定の銘柄をピックアップして、速やかにお会計をしなきゃいけない。かなり慌ただしいんです。そうなると、レジ打ちでもミスが発生する確率が高まります。本来は全ての商品バーコードを連続して読み取ってからお会計へ進まないといけない仕様なのですが、店長さんは一つの商品の会計が完了してから、もう一つの商品のバーコードを読み取っていました。そうすると、「ピッ」という音だけはなるのですが、実際には注文入力がなされていないというエラーが起こってしまうんです。

 この問題を解決するために、会計完了画面で商品のバーコードが入力された場合、次の画面に自動で切り替わり、新しいレジが立ち上がるようにするという改善を行いました。

 このように、「想いを馳せる」インタビューを行うことで、データ分析や電話でのヒアリングだけでは知り得ない課題を発見できました。

ちなみに、この取り組みについて、定期的に社内アンケートをとっているのですが、満足度は平均4.7点(5点満点中)と評価が高く、「業務に活かせる」と回答してくれる人も増えてきました。これからも一人ひとりのクライアントに想いを馳せ、さまざまな改善につなげていきたいですね。僕からは以上です。

 松本大亮「レベニューアシスタントの現場常駐型リサーチ」

 続いて登壇したのは、旅行領域でプロダクトマネージャーを務める松本大亮。松本は自身が担当するサービス『レベニューアシスタント』で、クライアントであるホテルに1ヶ月にわたって常駐し、現場の業務を経験しながらリサーチを実施しました。松本からは、そこまでの時間と労力をかけてまで現場常駐型リサーチを行うことになった背景や、具体的なやり方、取り組みの意義などが語られました。


 松本:松本大亮と申します。私からは、「レベニューアシスタントの現場常駐型リサーチ」について共有いたします。

 私は2018年から1年間、バックパッカーで世界を一周した後、2019年にリクルートへ入社しました。現在は旅行領域でプロダクトマネージャーをしています。

 松本大亮。2014年にAaccenture strategy group入社。2018年に退社後、1年間バックパッカーで世界を一周。その後、2019年にリクルート入社。現在は旅行領域のプロダクトマネージャーとして『レベニューアシスタント』を手掛ける。

 私が担当しているのは『レベニューアシスタント』というサービスです。文字通りレベニューマネジメント業務を支援するサービスですね。ホテルや旅館の料金は金曜や土曜が高く、平日が安かったりしますが、このように需要によって料金を変えることをレベニューマネジメントといいます。これをデータに基づいて最適化し、売り上げの向上につなげるプロダクトが『レベニューアシスタント』になります。

 この『レベニューアシスタント』において、クライアント理解を深めるために行ったのが、今回お話する「現場常駐型リサーチ」です。1ヶ月以上の長期にわたってホテルに駐在し、現場で実際の業務を拝見しながらさせていただきながらリサーチを実施しました。

 

はじめに、そもそもなぜ現場常駐型リサーチを行うことになったのか。その背景からお話します。現在の『レベニューアシスタント』は、おかげさまで非常に好調なのですが、サービス開始当初はなかなか利用社数が増えませんでした。

その原因の一つとして、リサーチのやり方に問題があったと思います。当時はアンケートだけで開発するものを決めてしまったり、1時間程度のざっくりしたヒアリングでクライアントの課題を定義するといったみたいなことをしていたため、課題の解像度が荒く、クライアントの「不」を実感しづらい状態でプロダクトの検討を進めてしまっていました。

 

つまり、以前のリサーチは、クライアントの表面的な意見を収集するだけで終わっていましたしまっていたんです。そうではなく、クライアントの意見はきちんとちゃんと収集しつつも、さらに深掘りをして、「その問題が、他の業務とどう関係しているのか」。「担当者の方が、その問題をどう捉えているか」。さらには、「仕事に何を求めているか」といったところも含めて、クライアントを丸ごと理解する。そんなリサーチをやっていくべきではないかと。

それを実現するための手段の一つが、現場常駐型リサーチです。数ヶ月にわたって現場に常駐し、課題も含めて徹底的にクライアントを理解しようと考えました。

 では、常駐先で具体的にどんなことをしているのか。実際に、私がとあるホテルに常駐した時のことをお話します。

 スライドの写真はあくまでイメージですが、私が常駐させていただいたのは、首都圏で数百室を有するシティホテルです。

 期間は1か月。1週間単位で、ホテルの各部門の業務に密着する形でリサーチを行いました。ちなみに、従業員の方と同じ制服をお借りし、見た目から現場に溶け込めるようにしました。

 

また、上のスライドにある書類はホテル側から発行していただいたスケジュール表です。新人の研修と同じような形で、客室係→フロントサービス→予約係といった具合に、さまざまな部署を順番に回っていく計画ですね。各現場の従業員の方には、事前にホテル側から私が常駐することを広報していただきました。

常駐している間、さまざまな部署のさまざまな業務を拝見することができましたが、分かりやすい事例として、フロント業務をピックアップして紹介します。

フロント業務のリサーチの大まかな流れですが、朝の8時半から9時くらいに出社して、従業員の皆さんに挨拶。しばし雑談などをしながら過ごします。程なく、お客様のチェックアウトが始まるので、私も従業員の方の横でサポートをしながら、業務を観察します。その後、11時頃から現場のみなさんと昼食をとり、午後からは午前中に観察させていただいた業務の不明点や疑問点などについてヒアリングを行います。

夕方になると今度はチェックインのお客様 が入ってくるので、また同じようにフロントに立って業務をサポートしながら観察。18時くらいにチェックインの波が過ぎた頃に、再び疑問点をぶつけてみるといった流れですね。そうやって数日過ごしていると、改善案のイメージができてくるいたりもしますので、その場合はすぐにプロトタイプをつくってバックオフィスの方に触ってもらい、感想をいただくもらうようにしました。

業務終了後は、現場の方々と食事に行くこともありますし、何もない時は翌日に聞く質問リストやだったり、プロトタイプだったりをつくる時間に充てます。

これが1日の流れですね。意外と大事だなと感じたのが、現場の方々との食事です。常駐する以前は、仕事として「業務理解」が最も大事だと考えていて、従業員のみなさんの心や思いを理解することを怠っていたように思います。しかし、今回はまず現場の方々とのコミュニケーション機会を増やし、Customer Problem Fitを徹底するよう努めました。クライアントの本音ベースの意見を収集するためには、やはりここを疎かにしては駄目だろうと。せっかく常駐させていただけるのだから、メンタルモデルまで入り込むことにこだわりましたね。

 最後に、現場常駐型リサーチの成果をお伝えしたいと思います。

一言で言うと「プロダクト検討の質と効率」が急激に上がりました。

 現場に入り込み、従業員の方々のメンタルモデルを理解したうえで、毎日のようにアイデアを高頻度でぶつけていく。そうすると、現場のみなさんの本音を繰り返し聞くことができ、本音の背景まで見えてくるようになるんです。そして、最終的には自分のなかにクライアントが“憑依”するようになり、聞かなくてもその方人が言いそうなことが大体わかってきます。

 この憑依の状態が続くことによって初期仮説の精度が高まり、反復回数が最低限で済むようになるんです。

 最後に、現場常駐型リサーチの今後についてもお話したいと思います。

ご紹介した通り、大きな成果を得ることができるリサーチ方法ではあるのですが、実際に常駐するとなると、さまざまな壁があります。社内の理解もそうですし、受け入れていただく宿やホテルを見つけることも簡単ではありません。

そこで、今後の展望として、常駐させていただけるクライアント環境の拡大や、常駐の取り組みのステップを型化することができないかと考えています。これにより、どの企業でも常駐リサーチが当たり前になり、より良いサービスやプロダクトが次々と生まれるような文化をつくっていきたいと思います。私からは以上です。

 おまけのQ&A

 Q.現場からのボトムアップで「リサーチしたい」という動きが出てくるのは、もともとのリクルートの企業文化ですか? それとも、そうした文化を構築するための取り組みを行った成果なのでしょうか?

 

大草:それでいうと、リクルートにはもともとリサーチを大事にする企業文化があると思います。私たちSaaS領域に限らず、たとえば私が以前に所属していたHR領域などでも、かなりの頻度でリサーチを行なっていましたから。もっと遡れば、40年前に『FromA』というアルバイト情報誌が創刊される際にも、相当量のインタビューを実施したと聞いています。ですから、昔から現場の「リサーチ欲」みたいなものは非常に高い会社だったのかなと。

Q.日高さんへ質問です。「想いを馳せる会」でのインタビュー対象企業は、どのように選定していましたか?

日高:選定するうえで意識していたのは、なるべく業界や導入しているプロダクト、ヒアリングする方人の嗜好や属性などをバラけさせることですね。その理由それは、ペルソナ像が偏らないようにするためです。たとえば、もともと僕らのプロダクトに好意的な方人やNPS (「企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか」を数値化した指標)がとてもめちゃくちゃ高い方人たちだけにヒアリングすると、バイアスがかかってしまうと思います。やはり、逆に現状のプロダクトに不満を持っていたり、使いづらいと感じている方人にも話を聞かないと、本当に解決すべき課題は見えてこないですから。そこで、プロダクトに寄せられた問い合わせを検索し、愛あるクレームだったり、使いにくいところを長文でご指摘くださった方に「より詳しいお話を伺いたいです」とアポを取ったりしていましたね。

 

Q.松本さんへ質問です。こうした常駐を受け入れるのは、ホテル側にも負担が大きいと思います。そのなかで、どのように受け入れ先を見つけ、どんな交渉をしているのでしょうか?

松本:確かに、最初にご協力いただくホテルを見つけるのは苦労しましたね。私の場合は、まず社内の営業担当者と仲良くなり、その人を通じてさまざまな宿を紹介してもらいました。断られ続けてもめげることなく、いつかはアーリーアダプターになってくれるクライアントが見つかるだろうと粘り強く声をかけ続けた結果、前述のホテルに受け入れていただくことができたんです。前例ができると、他の旅館やホテルにも協力してもらいやすくなります。ですから、クライアントと合意形成を進めていき、受け入れる意味やメリットを感じていただくことができるクライアントが見つかるまでは、地道に頑張ることが大事なのかなと思いますね。

 

クライアントを知るために、一歩踏み込んだリサーチを

 従来のリサーチ方法の枠を越え、かなり踏み込んだリサーチを行った日高と松本。どちらのやり方も時間と労力がかかり、一見すると遠回りのようですが、クライアント理解が深まることによって効果的な施策を次々と実現できるなど、結果的には改善のスピードが加速したといいます。

 もちろん、そこまでのリサーチを行うためにはクライアントの協力や社内の理解などが不可欠で、一筋縄ではいかないこともあるでしょう。しかし、トライする価値は十分にあるはず。表面的なアンケートに限界を感じている人はぜひ、今回の事例を参考にしてみてください。

リクルートプロダクトデザイン室は、プロデザ!BYリクルートのイベントを定期的に開催しています。
ぜひチェックしてみてください!

現在参加受付中のイベントはこちら

 https://recruit-event.connpass.com/event/280680/


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