PdM×データ シリーズ第1弾PdMが身につけるべきデータ分析スキルとは?
<参加者PROFILE>
・永石陽祐
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 新卒プロダクトデザイン2グループマネージャー(プロダクトマネージャー)。仕事内容は新卒採用におけるオンライン/対面型合同企業説明会のプロダクトマネジメント。自身にとってのデータ分析は「意思決定を円滑に行うための強力な武器」。
・今井隆文
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 飲食・ビューティー領域プロダクトデザイン部 飲食プロダクトデザイングループ(プロダクトマネージャー)。仕事内容は『ホットペッパーグルメ』のプロダクトマネジメント。自身にとってのデータ分析は「やりたいことの実現、説明責任を果たすための土台」。
・松本美希
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 HRエージェントプロダクトデザイン部HRエージェントプロダクトデザイン2G(プロダクトマネージャー)。仕事内容は『リクルートエージェント』のプロダクトマネジメント。自身にとってのデータ分析は「仕事をするうえでの言語みたいなもの」。
・加藤舞子(ファシリテーター)
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 住まいプロダクトデザイン2部部長兼分譲マンションプロダクトデザインG・戸建流通プロダクトデザインGマネージャー(プロダクトマネージャー)。仕事内容は不動産ポータルサイト『SUUMO』のプロダクトマネジメント。自身にとってのデータ分析は「プロダクトを正しい方針へ導くための便利ツール」。
リクルートPdMが実施するデータ分析とは?
加藤:今回は「PdM×データ」というお題で、プロダクトデザイン室の3名のPdMにパネルディスカッション形式でお話を伺います。3名にお聞きしたい主なテーマは次の3つです。
Q1 普段どのようなデータ分析を行なっていますか?
Q2 データ分析スキルの重要性を感じるのはどんな時?
Q3 リクルートのPdMとして働く上で求められるデータ分析スキル・経験は?
加藤:では、1つ目のテーマ「普段どのようなデータ分析を行なっていますか?」について。みなさんが普段どんな業務のどのような場面でデータ分析を行なっているか、詳しくお聞かせいただきたいです。
松本:私は『リクルートエージェント』という転職支援サービス[奥涼1] のPdMとして、転職を希望されるカスタマーと採用企業が出会いやすくなるよう、主にマイページなどの改善を担当しています。具体的に、どのようなシーンでデータ分析を行うかですが、実際の施策の事例を紹介しながらお話します。
松本:『リクルートエージェント』にはWEBサイト以外にスマートフォン用アプリがあるのですが、メールでお送りした求人情報のURLをクリックすると、普段アプリを使っている方の場合でもWEBサイトのマイページに遷移してしまうケースがあったんです。これをアプリで開けるようにするかどうかの施策を検討する際に、データ分析を活用しました。従来通りサイトに遷移するケースとアプリで開けるようにしたケースとで、コンバージョンレートにどの程度の差が出るかなどを分析し、きちんと効果が出るであろうことを確認してから開発に踏み切りました。
加藤:確かに、カスタマーとしても普段使っているアプリで見られたほうがいいでしょうし、URLから直接アプリへ遷移するのは他のサービスでもよく見られるUXですよね。であれば、データ分析を行うまでもなく、すぐに開発に着手してもよさそうな気もしますが……。
松本:他のサービスがやっているからと安易に真似をしても、ユーザーが異なるため思うように効果が出ないこともあります。それに、その施策を実施する手間やコストに対して、改善のインパクトが小さいケースも考えられる。その場合は、他の施策を優先したほうがプロダクトの改善スピードが上がります。ですから、きちんとビジネスリターンが得られるか、他の案件を後回しにしてでもやるべきなのかを判断するためにもデータ分析を行う必要がありました。
加藤:なるほど。今井さんはどうですか?
今井:僕は『ホットペッパーグルメ』のPdMとして、サイトを通じて飲食店を予約する人をいかに増やすかを日々考えています。
今井:先ほど松本さんが紹介してくれたような改善の施策を推進することもあれば、中長期での開発案件を計画することもあるのですが、特に後者の場合はよりデータ分析が重要になりますね。サイト利用者のログデータをはじめ、定量のアンケートを実施してマーケットの情報を取ったうえで分析を行い、どんな案件を行うか検討しています。
例えば「利用シーン」などの検索の軸を一つ作るにあたっても、定量アンケートから「マーケットにどんなニーズがあるのか?」を掴み、ログデータから「ホットペッパーグルメとしてどんな機能を作るべきか?」を掴んで、これらを掛け合わせたデータ分析を実施することが多いですね。
加藤:マーケット情報の定量データは、どのように取得していますか?
今井:調査会社を通じてアンケートを取ることが多いのですが、大体4000〜5000くらいの定量データが集まります。ちなみに『ホットペッパーグルメ』ではこうした定量データを重要視しているので、定常でコストを確保して定点調査を行なっています。
加藤:調査を行う際に、大切にしていることはありますか?
今井:調査開始前に「どういう仮説を持って、何を解き明かすためにやるのか」をしっかり議論するようにしています。定量調査を行う目的は、自分達が目指すべき方向や作るべきプロダクトに対して、最善かつ最短の打ち手を知ることです。仮説もないまま何となく調査を行っても「何となくリッチなデータが来て、何となく分かった気がする」で終わってしまいますから。
加藤:永石さんはどうですか? 普段の業務で、どのようにデータ分析を活用しているでしょうか?
永石:僕は『リクナビ』のプロダクトマネジメントグループでグループマネージャーを務めています。PdMメンバーのサポートを行いつつ、自分自身も中長期の施策検討に関わる、プレイングマネージャー的な役割ですね。
永石:僕はあえて、データ分析の「失敗例」をお伝えしたいと思います。『リクナビ』では合同企業説明会など、様々なオンラインイベントを実施していて、試聴後にはイベント参加企業にプレエントリーできる「出席登録」というボタンが出てきます。登録するとインターンシップの案内や応募書類の提出締め切りといった情報を受け取ることができるのですが、試聴後にこのボタンを押していない学生が多く、どうにか改善できないかと考えていました。
加藤:その改善策を見出すために、様々なデータ分析を行なったと。
永石:そうですね。学生や企業の属性情報などをもとに、あらゆる角度からデータ分析を行いました。でも、大した傾向が出てこなくて……。
そこで、少しやり方を変えてみました。定量のデータとにらめっこするのではなく、もう学生に直接「出席登録をしない理由」を聞いてしまおうと、デプスインタビューを実施したんです。すると「そもそも出席登録って何ですか?」みたいな回答が多いことが分かってきた。つまり、ポイントは画面を見やすくしたりボタンを大きくすることではなく、学生に出席登録を行う価値を理解してもらうことだったんです。そこで、新しく出席登録についての説明文を追加したところ、コンバージョンレートを大きく改善することができました。
つまり、僕らは何とか傾向値を見つけ出そうとデータ分析を頑張っていたけれど、そもそもの課題設定が間違っていたんですね。そこを見誤ったままでは、いくらデータを深掘りしても正しい解には決して辿り着けないのだと実感しました。
加藤:とはいえ、せっかくデータも溜まっているし、もう少し分析を頑張れば傾向が見えてくるかもしれませんよね。そこでやり方を変えるのは、勇気がいることでは?
永石:確かに多くの人は、いま手元にある情報や、お金をかけて取得した定量データに捉われがちですよね。でも、すぐに引っ張ってこられるデータや使いやすいデータだけで何とかしようと考えると、どうしてもロジックが甘くなってしまうと思います。そうではなくフラットな視点で最適な方法を考え、その上で必要であれば面倒がらずにインタビューなども視野に入れるべきではないでしょうか。
加藤:例えば、定量データの分析に固執しているメンバーから「あと1週間ください。もう少しで傾向が見えそうなので」と言われたら、永石さんはどうしますか?
永石:「データに逃げるな」と言いますかね(笑)。データって、ともすれば逃げ道にもなり得てしまう。結果、何もないところを掘り進めてしまうこともあるということは、しっかり伝えるべきかなと思います。
部署間の目線合わせなど、様々な局面で役立つデータ分析
加藤:では、2つ目のテーマ「データ分析スキルの重要性を感じるのはどんな時?」についてお話を伺っていきます。あらゆる局面でデータ分析は有用だと思うのですが、みなさんが特にその重要性を感じるのはどんな時でしょうか?
松本:私がデータの重要性を感じるのは、部署をまたいで様々な関係者とコミュニケーションをとる時ですね。データがあることで、部署や立場が違う相手とも目線が揃いやすくなると思います。
例えば『リクルートエージェント』の場合、PdM以外に営業担当だったり、カスタマーと直接コミュニケーションをとるキャリアアドバイザーだったり、様々な人が関わっています。そうした他部署の方々と利害が対立する施策を提案しなければならないケースもあるのですが、そんな時でも数字を共有することによって同じ方向を目指せるのではないかと。
加藤:他部署と利害が対立するケースというのは、例えばどんな時ですか?
松本:例えば、PdM側が「カスタマーが使うマイページの機能を変更したい」と考えたとしても、それによってキャリアアドバイザーはカスタマーに対して変更の案内をしなければいけなくなったり、現場に混乱を招いてしまったりする可能性も考えられます。また、変更によってカスタマーが離れてしまうのではない[奥涼2] かと懸念される営業担当もいるでしょう。
ただ、そうした場合にデータ分析に基づく指標を示しながらカスタマーへの貢献価値を説明することで、納得してもらえる可能性が高まります。部署の垣根を超えて、まっすぐにカスタマーへの貢献を目指すことができるのかなと思いますね。
加藤:なるほど。そういう時には、どんなデータを用いて議論するのでしょうか?
松本:『リクルートエージェント』の場合は、シンプルに売上とカスタマー価値ですね。つまり、これをやることで事業として追いたい指標がどれくらい上がるか。また、逆にそれをやらないことで棄損してしまう価値を、やはり数値に置き換えて説明することもあります。
加藤:永石さんにも伺いたいのですが、どんな時にデータ分析スキルの重要性を感じますか?
永石:いろいろあるのですが、特にプロダクトに何かしらの「変動」が起きた時には、多角的なデータ分析スキルの重要性を感じます。その変動が起こった原因を明らかにするためには、一つの数値だけでなくプロダクトに影響を及ぼす可能性のある様々な数値の動きを把握しておく必要があるのではないでしょうか。
加藤:なるほど。具体例を教えてもらえますか。
永石:例えば、以前に『リクナビ』のオンラインイベントの予約数が、前年を大きく割ってしまったことがありました。当時、それこそ原因を究明するためにアクセスログなどを見ていたのですが、なかなか特定できずに困っていたんです。
そこで、プロダクト自体の数字だけでなく、他の様々なデータにも目を向けてみました。すると、大学側にイベントの案内を行うガイダンスの開催時期が、昨年よりかなり後ろにずれ込んでいることが分かった。そこで、過去のガイダンスの開催時期とサイトアクセスの傾向を分析したところ、ここが連動していることが判明し、原因を特定できました。
スキルよりも大事なのは「適切な好奇心」
加藤:ラスト3つ目のテーマに行きたいと思います。「リクルートのPdMとして働く上で求められるデータ分析スキル・経験は?」。松本さんは4年前にリクルートに転職した当初、どんなスキルが必要だと感じましたか? また、それをどう身につけていきましたか?
松本:転職した当初はExcelのピボットテーブルは何とか使えるというくらいで、SQLなどの分析スキルは入社してから学びました。先輩から教えてもらいつつ、実践ベースで分析を行いながら慣れていった感じですね。
ただ、こういうスキルって一つの手段に過ぎないと思っていて、明確に「これができなきゃいけない」というものはないように感じます。
それよりも、大切なのは「適切な好奇心」ではないでしょうか。データを見ながら「どうしてだろう?」と疑問を抱いたり、そこから何かを読み取ろうとする意識が最も必要な素養だと思います。
今井:確かに、特にリクルートにおいて好奇心はすごく大事な要素ですね。好奇心さえあれば、スキルや知識は自然と身に付く環境なのかなと。先輩が書いたクエリなどもたくさん溜まっていますし、それらを自分なりに作り変えたり、自分が見たいようにアップデートしていくこともできる。データ分析って最初の一歩を踏み出すのが意外と難しいのですが、リクルートの場合は全てをゼロから始める必要がないので、そのハードルは越えやすいと思います。
加藤:今井さんは2年前に学び領域から飲食領域に異動しましたが、当初はデータ分析以前に、事業の状況をキャッチアップするのが大変だったのでは?
今井:大変でしたが、飲食領域ではデータ分析でよく使う指標だったり、見たい数字が一覧で検索できるよう、ワークブック形式でまとめられていましたので、そうしたものを使ってキャッチアップしながら、比較的すぐにデータ分析に着手することができましたね
加藤:なるほど。ありがとうございます。永石さんはいかがでしょうか? 永石さんはチームのマネージャーという立場でもありますが、マネジメント側の視点で、データ分析を行う際に必要なスキルを教えてください。
永石:データ分析はあくまでツールです。重要なのは、これをいかに企画につなげていくか。それをサポートすることが、マネジメント側の役割ではないかと思います。
社内ではよく「算数」や「国語」と表現するのですが、データ分析を「算数」とすると、それを目的達成のための文脈に落としてシナリオにするのが「国語」。マネジャーには、この2つのスキルセットが求められますね。
特に、リクルートのようにボトムアップの文化があり、なおかつ大規模サービスを扱っている場合、部署をまたいだ合意形成が必要になる局面が多い。各組織に合ったシナリオを作る力がなければ、いくらデータ分析をして断片的な点のファクトを集めても合意形成には至らないと思います。
加藤:ありがとうございます。では、ここからは質疑応答に移りたいと思います。オンライン視聴者の方からたくさんの質問をいただいていますので、いくつか抜粋してお伺いします。
――永石さんに質問です。デプスインタビューを行う学生は、どうやって集めましたか? また、そのうち「出席登録が何かが分からない」と答えた人の割合はどれくらいだったのか、何人くらいの意見を聞いて十分だと思ったのか、可能な範囲で教えてください。
永石:デプスインタビュー自体は定常的に行なっていて、調査会社経由だったり、『リクナビ』の会員さんに募集をかけたりと、人を集める方法は色々です。
何人くらいに話を聞くかもケースバイケースですが、まずは10人前後が多いですね。また、その施策を実施するか否かについては「割合」で判断するという感じではありません。話を聞いていくなかで、ある程度こちらの仮説が確かなものだという肌感覚を持つことができたらOKというか、とりあえず開発して世の中に出してみて、仮説が事実かどうかを確かめるというアプローチをとることが多いですね。
――課題に対してのアプローチでデータ検証などを用いる事例はイメージがつくのですが、そもそもどんなデータをウォッチしているのか教えていただけないでしょうか
今井:3つほどあると思います。1つ目はKPIに明確に紐づくデータ。例えばユーザー数やCVRのように、その数字が上がることで最終的な目標に大きなインパクトを与えるものですね。
2つ目は定常的に観察をしなくてはいけないデータ。時期トレンドだったり、曜日別の数値だったり。これらは、何かが起こった時にアラートを上げてくれるような数字になります。
3つ目は、事業にとっての重要性は薄いものの、担当者として伸びてほしい数字。「この数字が伸びると、より良いプロダクトになる気がする」といった、自分の思いが込められたデータですね。
加藤:ありがとうございます。それでは最後に、今回の内容を振り返りたいと思います。
まず、3人が普段どのようなデータ分析をしているかについては、アクセス解析や定量分析、定性分析の3つを軸に様々な手法で実施しているということでした。また、データ分析の重要性を感じるのは、部署を超えて目線を合わせる時や、プロダクトの変動が起きた時。そして、リクルートのPdMに求められるデータ分析スキルについては、SQLが書けるとかクエリを組めるといったことよりも「適切な好奇心」を持つことが大事だと。また、データ分析そのものだけでなく、それを企画につなげるためのシナリオを作る力も重要ということでした。
個人的には永石さんがおっしゃった「データに逃げるな」という言葉が響いて、私自身も普段から意識していきたいと思います。みなさん、本日はありがとうございました。