マーケターによるRESEARCH Conference 2024 参加レポート
こんにちは。UXリサーチ部の高橋と申します。リクルートには、UXリサーチ部という部活があり、プロダクトデザイン室やマーケティング室など様々な組織からメンバーが参加して、社内外のUXリサーチについてインプットやディスカッションを行い、有志で学びを深める活動をしています。
今回はRESEARCH Conference2024に参加してきたので、そこから得られた学びを一部ピックアップしてご紹介します。
RESEARCH Conferenceとは
RESEARCH Conference(リサーチカンファレンス)は、「リサーチ」をテーマとした日本発のカンファレンスです。
より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。
行政、大企業、スタートアップなど立場の違いを超えて活発な議論を重ねることで、共に学び合うリサーチコミュニティを育てることを目指すカンファレンスです。
RESEARCH Conference 2024のテーマは「ROOTS」です。
【開催日時】
2024年5月18日(土)10:00-18:00
【会場】
オフライン会場:専修大学 神田キャンパス 10号館
オンライン会場:YouTube Live / Miro
【参加費用】
無料
【公式サイト】
なお、カンファレンス事務局の集計によると、参加された方の職種の内訳はデザイン関連がトップで約36%、続いてエンジニアが約11%、マネジメントが約8%。マーケターは5.8%だそうで、これは学生の参加者(6.4%)よりやや少ない結果となっていたのが印象的でした。
それでは、私自身の学びになったセッションをいくつかご紹介いたします。
「Mercari USにおけるリサーチ組織の立ち上げ」(メルカリ)
まずはメルカリのUSチームにおけるリサーチ組織の立ち上げについてのお話です。メルカリは米国でも事業展開をしていますが、日本国内の勝ちパターンやプロダクトをそのまま持ち込むのではなく、現地のユーザーや利用状況に深くローカライズすることを徹底していると聞いています。その一端をこのリサーチ組織が担っているのかな、と想像しながら拝聴しました。
1人目のリサーチャー:リサーチ活動の立ち上げと浸透
実は2020年までチームにリサーチャーはおらず、プロダクトマネージャーや経営層はリサーチ活動について興味はあったものの、具体的なアクションには至れていなかったとのことでした。そして1人目のリサーチャーがジョインするまで、チームメンバー内の誰もリサーチャーとの協働体験はなかったそうです。
そんな中で1人目のリサーチャーが入社してからリサーチ文化を組織に広げるまでのプロセスが4つに分けて語られていきます。
1.組織を観察し、フィッティングを行う
まずは、自身や自身の仕事が組織のどこにどのようにフィットしていくのか、協働することで何が起こるのか、組織内の誰と連携すべきかを観察することから始めたそうです。たしかに、小さくない組織においては、どのセクションに位置取るかでその後の動きやすさや貢献範囲が変わることが多いので、これは非常に有効な初動だと感じました。
2.リサーチャーについてのプレゼンテーション
その後、「戦術的」なリサーチと「戦略的」なリサーチ、ユーザーを深く知ることの重要性、そして量・質的な観点で、リサーチャーが何をアウトプットできるのかをプレゼンテーションしたそうです。さらに、そのための方法と期待効果、そしてタイムラインも提示したとのことでした。
個人的には最後のタイムラインも合わせたアウトプットが素晴らしいと感じました。この時点で「何をやるべきか」がある程度明確になっていたのは、前述した「1.組織を観察し、フィッティングを行う 」での対話や観察が活きているからでしょう。
3.最も大きな課題から取り掛かる
組織に向き合う動きがフェーズとして落ち着き、ここからはリサーチを用いた具体的なアクションが始まります。まずは組織内での対話やディスカッションを通し、最も大きな課題と、それを構成する根深いファクトを明らかにしたのだそうです。
経営課題の解明と解決にはインパクトがあり、リサーチの力を証明するために最も有意義なテーマで活動を始めることがポイントであると学びました。
4.リサーチを組織内に浸透させる
行ったアウトプットやユーザーインサイトの共有をワークショップで展開し、徐々に協働の輪を広げていったそうです。チームメンバーにリサーチの力や価値を感じてもらったところで、各組織におけるリサーチのロードマップを社内で協働しながら策定。またプロダクトマネージャーにはOKRにヒットするユーザーへ質問のインプットを依頼し、何を明らかにしないといけないのか、何がリスクとなりうるのかを常に把握し続けることで、リサーチが事業成長に寄与する体制や文化の醸成を深めていったのだと理解しました。
上記により具体的に組織やプロダクトにリサーチが貢献できる要素の洗い出しが完了した上で、すべてのステークホルダーに参画してもらい優先度づけなどを行ったそうです。
ここまでで1年。個人的には「めちゃくちゃ速い」と感じました。
2人目のリサーチャー:組織内におけるリサーチ活動の価値最大化
2人目のリサーチャーは定着しかけているリサーチ文化の効用最大化のため、組織内のドキュメント整備から活動を開始したそうです。リサーチデータは既に社内に集まっていたもののこれらは当時まだ綺麗に整理されておらず、全体を俯瞰するカスタマージャーニーもまとまっていなかったため、各リサーチやプロダクト内のデータを元にシナリオへの落とし込みを実施。これにより社内資料としての横展開が可能になり、マーケターやエンジニアのオンボーディングの際に行われるユーザー理解にも転用できるようになってきたとのことでした。
1人目のリサーチャーがリサーチの機能や価値を普及、装着させて会社内のリサーチ理解を切り拓き、そして2人目がオペレーションの改善も含めて、得られたリソースの利用価値を最大化する仕組みや風土を作る。このフローはリサーチ以外の職種においても有効なものだと感じます。
より発展的な取り組みへ
現在では、より発展的な取り組みとしてアプリ内部でのサーベイシステムを立ち上げたり、リサーチパネルを組成したりと、プロダクトのインターフェースにも染み出したリサーチの取り組みをされているとのこと。そしてプロダクトの横断的なパフォーマンスの計測と評価のため、計測基盤の検討にも範囲を広げているとのことでした。
これにより、ユーザーからのフィードバックを定量的、定性的に全方位から取得することが可能になり、リサーチドリブンな意思決定がより迅速かつ大規模に可能になったのだそうです。
常日頃、アクセス解析やプロダクトのパフォーマンスの測定、ユーザーリサーチを分けて行っていた自分としては、当社内でも活かせる示唆に満ちたお話だと感じました。早速、何かできることはないか考え始めています。
「よいプロダクトに必ず必要な条件。それは、エゴともいえる“脱”ユーザー中心設計である。」(日本ウェブデザイン株式会社)
Sponsor Sessionである日本ウェブデザイン株式会社の内容も学びが多かったのでピックアップします。
※スライドなしスタイル(!)のため画像なしです・・・!
ユーザー中心設計という言葉は耳にする機会が多いですが、「脱」ユーザー中心設計とはどのようなことなのか関心があり拝聴しました。
結論から言うと、リサーチなどを通して手に入れたユーザーの声を、「そのまま反映する」のではなく、プロダクトを通してユーザーにどうなって欲しいのか、という創り手の願いもしっかりと視野に入れてプロダクトを作っていこう、というお話でした。
「どの声を聞くべきか」という話
例えば、とある企業のセールス活動のDX支援をしていたシーンで、現場のメンバーにどういったものが欲しいのかをヒアリングした結果、「アポ直前に顧客情報へアクセスできる機能が欲しい」という示唆に辿り着き、これをそのまま提供するとします。そのアプリケーションはリリースして各セールスメンバーに使われ評判自体はよかったそうなのですが、ここに落とし穴がある、というお話をされていました。
たとえば、セールスメンバーの中で非常に生産性が高いトップセールスにフォーカスしてみると、以下の事実が浮き彫りになります。
「トップセールスはそもそもちゃんと準備をするので、顧客情報をアポ直前になって急に調べたりしない」
つまり、この事例は現場のニーズを収集して作ったものが、生産性の低いセールスを増やしてしまうだけの機能になってしまっていたということを意味します。
この支援の目的は「現場の望むソリューションを提供すること」ではなく、「セールス組織の生産性をデジタルの活用を通してより高めること」であると再認識し、組織内にいる少数のトップセールスへのヒアリングをし直すことにしたそうです。
その結果、ハイパフォーマンスを発揮するセールスの多くは、目標数字や達成に向けた業務遂行ひとつひとつにしっかりと意味を見出し、困難なタスクにも高いコミットメントを覚悟していた、また彼らの上長にあたるマネージャー層も、そういった問いやコミュニケーションを普段から行っていたという事実が判明したとのことです。
リサーチにおける大切な観点
これらのことは、「リサーチで明らかにしたいことを明確に定義すること」、「リサーチの結果だけをみるのではなく、時折全体を俯瞰し、現実と不整合が発生していないかを確認すること」、そして「問題がある場合はしっかりと歩みを止めて改めて考え直す勇気を持つこと」の重要性を説いていると感じました。
事業会社として、我々は自分たちの事業を通してユーザーや社会にどうなって欲しいのかを意識しながら、数字やデータと向き合い、本質的な意思決定を続けていかねばならない、と背筋の伸びるセッションでした。
「生活者研究のめざすところ~生活者起点で未来のくらしを発想する」(花王株式会社)
続いては花王のセッションです。社名はもちろん製品なども馴染みの深いものが多く、それだけにリサーチという観点をどのように事業やブランドの運営に活かしているのかが気になり拝聴しました。
花王と生活者理解
恥ずかしながら今回のセッションで初めて知ったのですが、花王は「花王ウェイ」という行動指針の中で大きく生活者理解を掲げており、それは会社の起源にも深く関わっているのだそうです。
製品開発のため、家事全般について科学的にアプローチする研究施設として、家事科学研究所を設立されたのが1937年(1954年より花王家事科学研究所に改称)。それ以降、会社の活動の中に生活者理解という意識が強く根付いているのだそうです。
個人的に印象に残ったのが、花王の中での「人」の考え方が「分人主義」的であるという点でした。生活者はその時によってさまざまな側面をもっていることが前提となっており、そのうえで社内では「生活者について考えること」を徹底するスタンスが浸透しているようでした。
つまり、ある点やタイミングでは有効である課題の解消法も、また別のシーンでは同じ人に刺さらないかもしれない、それならばどうするか。といった考え方です。業務にあたっていると、目の前の事実や発見に夢中になるあまり、この観点が抜けてしまうこともあるので、自組織でも今後意識していきたいポイントだと感じました。
また花王のリサーチのHowは「対話と観察」だそうで、生活者側の正しい自覚や認知を前提としたアウトプットは考えていないという点も印象的でした。この考え方も上記の通り自分たち起点でしっかりと事実や原理原則に近づこうとするフィロソフィーが浸透していることを感じます。
時代と生活者理解
生活者研究というのは、今まで対象を訪問しないと兆しがわからないものでしたが、最近ではSNSなどの台頭により生活者自身の発信が一般化してきたことで、今までの生活者研究の在り方が変わりつつあるという点を強調されていました。たとえば従来行ってきた具体的な調査による実態の把握から、もう少し俯瞰して世の中を捉え、経営への提言などに活かすような動き方にシフトしてきたとのことです。
リサーチ組織の動き方も、個別の生活者観察から生活者潮流の把握、そしてその結果を未来の予測に用い、会社経営や商品の開発などに活用していくようにシフトしているのだそうです。
まとめと発見
最後に、今回のカンファレンスに参加してみての発見と総括を記載します。
プロダクトやユーザー、業界、フェーズも様々だが、まずは組織にフィットさせるところから全てが始まる
リサーチ文化がまだ浸透していない事業組織においては、まずはどのようにリサーチャーをフィットさせるかが重要なのだと感じました。当日のセッションや他の参加者の方の意見を聞くことで、組織ごとにリサーチへの期待度や役割の定義に幅があることがわかりました。そのうえで、事業成長やユーザーへの価値提供を実現するために組織内のどの機能と協働するか、どのような順序で課題を解いていくかが非常に重要だと感じます。
有用であることがわかればそこからはリサーチドリブンな組織風土づくりは進んでいくと思うのですが、どこからスタートするのかによってプロセスや目指せるゴールも変わりそうです。そのための土台づくりや進め方を正しく決めることは、リサーチの実行と同じくらい大切なのだと痛感しました。
プロダクトの成長はユーザーへの深い理解と共にある
どんな職種においても普段仕事をしていれば耳にタコができるくらい言われている内容ではありますが、ユーザー理解の習得にリサーチという手法は有効です。そして課題や現実への解像度の高さが意思決定の成果を左右します。恥ずかしながら、このカンファレンスに参加する前は、自身の思い描く「リサーチの幅」が狭かったように感じます。リサーチとは目的や制約に合わせて設計・構築されるものであると心得たので、身体性を用いて今までよりもさらに深いユーザー理解に取り組もうと思いました。
ただし、言う通りに欲しがられているものを作っても良くない
日本ウェブデザイン株式会社の羽山さんのほかにも、ゲヒルン株式会社の石森さんなど、いくつかのセッションでこの観点に言及されていることも印象的でした。
リサーチによって得られる示唆はデータであり、最終的な意思決定はやはりプロダクトに関わるメンバーによるものになります。自分たちの提供するプロダクトを通して、ユーザーや社会にどういった価値提供をしていくべきなのかというビジョンは、リサーチの結果ではなく自分たちのなかにあるべきだと感じました。
そのため、プロダクトマネジメントの観点においては、リサーチドリブンな価値観のインストールと並行して、プロダクトのビジョンやミッションについても組織内にしっかりと定着させていくことが不可欠だと感じました。
少しでも現場の雰囲気や各セッションの内容が伝われば嬉しく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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