プロデザ!BYリクルートvol11「PdMが身につけるべきデータ分析スキル【実践編】」
※2023年6月6日に開催したオンラインイベント「プロデザ! BY リクルート VOL.11 PdMが身につけるべきデータ分析スキル【実践編】」から内容の一部を抜粋・編集しています。
【登壇者PROFILE】
永石 陽祐(モデレーター)
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 グループマネージャー(プロダクトマネージャー)。名古屋大学大学院情報科学研究科修士課程修了後、外資系通信機器メーカーにてネットワークエンジニアとして通信事業者向けに移動体ネットワークの設計/検証に従事。2014年にリクルートテクノロジーズ(現リクルート)入社。グループ共通システムの企画や導入推進、運用改善業務を経て、『リクルートエージェント』等のサービス企画開発業務に従事。カスタマー接点のオンライン化を推進し全社表彰を受賞。
川野 槙里子
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 販促領域プロダクトデザインユニット(プロダクトマネージャー)。2016年にリクルートライフスタイル(現リクルート)に入社。UXディレクターとして『ホットペッパーグルメ』のUI・UX改善を行ったのち、ライフスタイル横断のデータ組織に異動。データを活用した『ホットペッパービューティー』の営業生産性向上プロジェクトを立ち上げ、商談データの一元化・営業活動のオンライン化を推進し全社表彰を受賞。現在は『ホットペッパービューティー』のアプリのUI・UX改善及びチームリーダーを担当。
南 大智
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 販促領域プロダクトデザインユニット(プロダクトマネージャー)。2018年にリクルート住まいカンパニー(現リクルート)に入社。データサイエンティストとして『SUUMO』のtoC向けデータ施策の分析/開発を担当。2021年よりPdM組織に異動し、現在は『SUUMO』のUI・UX改善及びチームリーダーを担当。
田中 水彩
株式会社リクルート プロダクトデザイン室 販促領域プロダクトデザインユニット(プロダクトマネージャー)。2018年にリクルートテクノロジーズ(現リクルート)に入社。機械学習・DeepLearning周りのソリューション装着を担当。2019年より旅行領域のデータ分析・施策業務を担当。 現在は『ゼクシィ』でPdMとデータ組織を兼務。
【事例1】社内に埋もれたデータを活用し開発した、営業活動支援ツール
永石:モデレーターの永石です。本日のイベントは、昨年10月に「プロダクトマネージャー×データシリーズ」の第1弾イベントとして開催し、大好評だった「PdMが身につけるべきデータ分析のスキルとは? プロデザ!BYリクルートvol.4」の続編になります。今回は「実践編」として、実際にデータを分析することでプロダクトの企画や改善を行ったプロダクトマネージャー(以下、PdM)たちに、具体的なやり方やポイントなどを聞くパネルディスカッション形式で進めていけたらと思います。
なお、今回は以下3つのTopicsを用意しています。
永石:まずは『ホットペッパービューティー』のPdMである川野さん、『SUUMO』のPdMである南さんから、それぞれが行った「データを活用してプロダクトの企画や改善につなげた施策」の事例を紹介してもらいます。
そして、最後にデータサイエンティストからPdMに転身した経験を持つ田中さんから「PdMがデータ分析をするためのポイントや思考法」というテーマで話を聞いていきたいと思います。
全体を通して、PdMがデータを活用してプロダクトを成長させるための具体的なノウハウやtipsなどを、皆様にお伝えできれば幸いです。
それでは、さっそく最初の事例紹介に入りたいと思います。
永石:1つ目の事例は『ホットペッパービューティー』PdMの川野さんが担当した施策です。“社内に埋もれたデータを活用し開発した、営業活動を支援する「課題特定に必要なデータを、必要な形でだせるWebレポート」”ということですが、こちらはどういった取り組みだったのでしょうか?
川野:データを活用し、社内向けの営業支援ツールを開発した事例になります。社内の営業担当がお客様と商談する際に活用できる、iPad版営業商談レポートで「Ribbon」と呼んでいます。
川野:このツールの特徴は、営業行動に沿った構成でデータが可視化されていること。また、iPadを見せながら商談をする際に説明しやすい画面設計になっていることですね。
永石:現場の営業担当者がデータに基づいた提案をする際に、必要なデータが適切な形で出てくるプロダクトということですよね。すごく面白いツールだと思うのですが、どのような経緯で開発に至ったのでしょうか?
川野:当時、営業現場の課題として「商談前の準備に時間がかかりすぎている」というものがありました。営業活動のどの部分に時間がかかっているのか、現場の担当者に対して行ったアンケートやヒアリングから紐解いてみたところ、期全体の稼働のおよそ10%もの時間を、商談の準備に費やしていることが分かったんです。その原因は明らかで、当時の商談は基本的に紙ベースで行っていたので、資料の作成にかなりの労力がかかっていました。この部分をデジタルプロダクトの活用によって解決できるのではないかと考え、「Ribbon」の開発を始めたという経緯ですね。
永石:なるほど。確かに商談の準備はそれなりに時間がかかるイメージでしたが、営業活動全体の10%もの時間がとられていたとは……。それは大きな課題ですね。
この課題に対して、まずはどんなアクションを起こしましたか?
川野:実際にPdMが営業の現場に入り込んで、商談のために何をやっているのか観察させてもらうことから始めました。営業チームの朝会への参加から、実際の商談への同行まで、本当に1日密着させてもらうような形で。そこで、時間がかかっている主な要因と、それに対する解決策を探していきました。
まず、時間がかかっていた要因は主に2つありました。1つ目は「商談のための不足情報を追加する作業」。2つ目は「紙ベースで様々なデータを出力して解釈する作業」です。前者については、社内のデータをあらかじめ組み合わせることで、不足情報を補う作業自体を省略できるのではないかと考えました。後者については、データを一つのツール上で一元化して商談に沿った構成にすることで、いちいち紙で出力したり、解釈したりといった時間を削減できるのではないかと。この2点に留意してプロダクト開発を行っていきました。
永石:実際にプロダクトをつくるにあたって、意識していたポイントがあれば教えてください。
川野:強く意識していたのは「現場に立ちきったプロダクト開発に徹する」ということですね。具体的に何を行ったかというと、次の3つです。
川野:1つ目は「自分の足で一次情報を取りに行く」こと。私たちPdMはデスクワークが中心なので、現場に一次情報を取りに行く機会は少ないです。ただ、このプロダクトを開発する上では、データの活用現場である商談業務を徹底的に理解する必要があると思いましたので、何度も商談に同行させてもらいました。そのなかで「実際にどんなデータが使われているのか?」「こんなデータがあればよりスムーズに商談が進むのではないか?」など、現場の観察を通して理想のデータ活用のイメージを具体化させていきました。
2つ目は「必要最低限の情報まで削ぐ」こと。そのためには、まず営業メンバーのペルソナをしっかり設定する必要があると考えました。営業組織全体をターゲットに置いてしまうと、様々なユースケースを考えすぎてしまい「念のため、このデータも入れよう」と、無駄なデータまで増やす方向に行きがちです。そうではなく、設定したペルソナが円滑に商談を行うためには、どんな情報が必要なのか。そうした視点でデータを活用するシーンの解像度を上げ、情報を必要最低限に留めるようにしました。
3つ目は「未経験の自分が営業できる状態まで、プロダクトを磨く」こと。例えば、私には営業経験がないのですが、それでもこの「Ribbon」を使えば商談ができてしまうくらいまでプロダクトを磨き抜こうと。実際、プロダクトのモックを使って営業組織のマネージャーに商談のロープレを行い、十分な品質であるというお墨付きをもらえるところまで磨き込むことができましたね。
永石:社内向けのプロダクトとは思えないほど、こだわり抜かれていますよね。たとえば、ペルソナを設定するというのもtoCのプロダクトであれば普通だと思いますが、社内のメンバー向けでそこまでやるという話はなかなか聞かないので。
それから、この事例はデータ活用という観点でも、すごく重要なヒントが含まれているように思います。プロダクト開発におけるデータ分析は「とにかく大量のデータを見ながら、これまでにない視点や新しい気づきを得ていく」みたいなイメージがありますよね。でも「現場で本当に必要なデータは何かを理解して絞り込み、現場が使いやすい見せ方でプロダクトに落とし込む」というのも、データ活用のあるべき形の一つなのではないかと思います。
今回の川野さんの事例でも、自ら商談の現場を体験することで徹底的に理解を深め、それを踏まえて自分が営業できるくらいまでプロダクトを磨き込んでいる。データの価値を最大限に高めた、とても面白い事例だと思います。川野さん、ありがとうございました。
<視聴者からの質問>
Q:ペルソナは1つに決め切ったのでしょうか? 営業行動は人により異なるため、1つのペルソナに集約するのは大変なのではないかと思います。その過程を、詳しく教えていただけないでしょうか。
川野:メインとなるペルソナは1つに絞りました。その過程や詳細については申し訳ありません、詳しく言えないのですが……。ただ、ここが本当に肝だと考えていたので、プロジェクトメンバー全員でペルソナを決めるための議論の時間は、しっかり確保しましたね。
Q:商談同行がなかったら発見できなかったインサイトはありますか?
川野:発見はたくさんありました。たとえば、営業メンバーから「こういうデータが欲しい」と言われていたものが、実際に商談に同行するとほとんど活用されていなかったり、逆に、それまではあまり重要視していなかったけれど、実際の商談ではすごく重要性の高いデータがあったりしました。それらは実際に商談の場を体験したからこそ見えてきたことだと思います。
Q:営業さんが「自分のやり方」をオープンにしてくれない、ということはありませんでしたか? 営業はインセンティブ給与があるなど、社内の他メンバーが「敵」であることも多い職種ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
川野:そこはリクルートの営業組織が特殊なのかもしれませんが、みなさんとてもオープンでしたね。営業メンバーに限らず、リクルートには良い取り組みはグループ内、チーム内でシェアする文化があって、プロダクトデザイン室でも盛んにナレッジ共有が行われています。そのほうが、お互いのスキルを高めていけるという共通認識があるので、そこで困るということはありませんでしたし、商談にも快く同行させてくれました。
【事例2】基礎的な定量データの分析から定性的な仮説を策定し、『SUUMO』のレコメンド機能を改善
永石:それでは、2つ目の事例紹介に移りたいと思います。
永石:2つ目の事例は『SUUMO』PdMの南さんが担当した施策です。“『SUUMO』カスタマー向けのレコメンド機能に対し、基礎的な定量データの分析から定性的な仮説を策定、PDCAを回した改善施策”とありますが、取り組みの内容を教えてください。
南:私が担当している『SUUMO』は不動産の総合ポータルサイトで、ユーザーにとって最適な物件を提案するレコメンド機能があります。今回紹介するのは、そんなレコメンド機能の改善にあたり、データ分析を活用した事例です。
南:こちらのスライドのように、ユーザーが「お気に入り登録」した物件を上位に表示し、それに類似する物件をレコメンドする機能ですね。このレコメンドのCVR改善を目的とした取り組みになります。
永石:レコメンドというと、まさにデータ分析のど真ん中のテーマですよね。具体的に、どうやって進めていきましたか?
南:はじめに行ったのは、既存のレコメンド機能に対する「課題の特定」です。そして、それらの課題に対するアプローチを検討していきました。
南:まず、課題の特定ですが「定量分析」と「モデル分析」という2つの方法で行いました。定量分析では、レコメンドされている物件の価格分布を集計して「どのような物件がユーザーに好まれているか」を探っていきました。モデル分析では、過去の論文などをあたり、現状のプロダクトに類似したモデルに対する一般的な課題と、それを解決する手法(How)をリサーチして企画を作りました。
永石:なぜ、このような方法を選択したんでしょうか?
南:じつは僕は前職でデータサイエンティストとして働いていた経験があって、データ分析の知見を持っていました。ですから、その強みを活かせる方法を選択したんです。ただ、結果的にこのやり方は失敗に終わります。データ分析をふまえて実施した施策は、ABテストで全く改善が見られなかったんです。
今思えば、データ分析の手法ありきというか、Howが先行してしまったので、課題の設定が甘くなってしまったのかなと。結果的に、適切な打ち手を講じることができなかったのだと思います。
永石:なるほど。データ分析の知見があるがゆえに陥ってしまった失敗ですよね。
南:おっしゃる通りで、自分のスキルを生かすことを前提に考えてしまったんですよね。その反省をふまえ、以降は「ユーザー課題起点」の思考に転換しました。具体的にはIMP率やクリック率といった「基礎分析」を徹底的に行うと同時に、ユーザー目線でサイトを触りまくって「実機でのレコメンド体験」の確認を行いました。そうやって、ひたすら考察を繰り返し、課題を発見していったんです。
その際、特に大事にしていたポイントは「仮説を持つこと」そして「その仮説を疑うこと」です。最初の直感だけでその仮説が正しいと思い込まないよう、気をつけながら進めていきました。
永石:仮説を持つことと仮説を疑うことって矛盾しているというか、言ったり来たりしているだけのようにも思えるんですけど、じつはこれってすごく大事ですよね。
南さんは基礎分析のデータを頭に入れて、実際のプロダクトを触るという作業を繰り返したということですが、よくあるのはどっちかしかやらないパターンです。データだけに着目して、そのなかから答えを見つけ出そうとしたり、逆に全くデータを見ずに闇雲にプロダクトを触って課題を見つけようとしたり。そうやってどちらかに寄るのではなく両方を繰り返しやって、課題の精度を上げていった好事例ですよね。
このやり方に変えてから、具体的にどのようなアプローチで改善へと至ったのでしょうか?
南:基礎分析で得られた様々な集計結果の一つに、「(ユーザー自身が登録した)お気に入りの物件の方が、(レコメンドされる)類似物件よりもCVRが高い」というものがありました。もちろん、ユーザー自身がお気に入りに登録した物件のCVRが高いというのは当然なのですが、この結果を念頭に置きながらプロダクトを触っていくうちに「むしろ、お気に入りに登録したのにCVしないユーザーがいるのはなぜだろう?」という疑問が浮かんできたんです。
南:そこで、ユーザーがお気に入り登録した物件をCVしない理由を考えました。データの裏側にあるユーザーの行動を読み取って、いくつかの仮説を立てたんです。そうした仮説の一つひとつを反証しながら取捨選択していくなかで、かなり確度の高い仮説に辿り着きました。それが「お気に入り登録してから時間が経って、今はすでに興味を失っているのではないか?」というものです。
永石:この確度の高い仮説をもとに、すぐ改善のプロセスに移ったのですか?
南:いえ、すぐに実行はせず、さらに石橋を叩きました。仮説の確度をさらに高めようと、「興味の減衰」という概念を組み込んで、ユーザーが興味を失ったお気に入り物件が上位に表示されないようにしたモデルでオフラインシミュレーションを行ったんです。結果、オフラインのスコアが向上し、やはりこの仮説の確度は高そうだなと。
実際、最終的なABテストでも既存のものよりCV数が向上し、レコメンドの改善という目的を果たすことができました。
永石:なるほど、当初はHow先行で仮説の設定が甘くなり失敗してしまったということですが、その反省をふまえ、まずは仮説の精度を高めることから始めた。その結果、自分の強みだったデータ分析の知見も十分に活かすことができたわけですよね。
この教訓は、データ分析に限らず、様々なことに当てはまるのではないでしょうか。仮説を立てる時は、つい自分の得意領域に引き寄せてものを考えてしまいがちだと思います。でも、そうやって捻り出した論はどうしても無理が生じてしまうから、あくまで事実データを基点にし、ユーザーの行動を考えるというプロセスを重視する必要があるんだなと、南さんのお話を聞いていて改めて感じました。
<視聴者からの質問>
Q:基礎分析の項目は、どのように決めていましたか?
南:最初にHowが先行してユーザーのことが見えていなかった反省をふまえ、データを「ユーザーを理解するためのツール」と捉えていたので、ユーザーの行動パターン分析につながる項目を重視していましたね。たとえば、レコメンド画面に「どれくらいのユーザーがどこから入ってきて、どこに出たのか」というインプットとアウトプットの部分は、特に着目していました。その数値が明らかになると、ユーザーの全体像が俯瞰で掴めるので。
元データサイエンティストが語る、PdMがデータ分析をするためのポイントとは?
永石:それでは、3つ目のTopicに移りたいと思います。ここでは事例の紹介ではなく、データサイエンティストからPdMに転身された田中さんにその経験をふまえてPdMがデータ分析をするためのポイントや思考法について話してもらいます。
永石:はじめに田中さんにお伺いしたいのは、PdMとデータ分析の専門家が協業をする時のポイントについてです。先ほどの南さんの事例のように、データサイエンティストとしての背景を持つPdMであれば自らデータ分析を行うこともできますが、一般的には専門家の力を借りるケースが多いと思います。この記事をお読みいただいている方のなかにも、データサイエンティストのような専門家と一緒にプロダクトをつくったり、仕事をしたりするケースはあると思いますが、その際、具体的に気を付けるべき点などがあれば教えていただきたいです。
田中:まず、データサイエンティストとPdMが協業する業務は、たとえばどんなものがあるか考えてみました。おそらく、以下の3種類に分けられるのではないかと思います。
永石:先ほどの2つの事例でいえば、川野さんのケースは②の「BIツールの開発」にあてはまりますし、南さんのケースは①の「DL(ディープラーニング)を用いたロジック開発」に近いですかね。ちなみに僕自身も③の「スポット分析・シミュレーション」でデータサイエンティストの方にご協力いただいた経験があります。なるほど、確かにこの3つくらいに集約されるかもしれません。
ちなみに、これらのケースでデータサイエンティストと協業する際に、PdMはどんな意識で臨めばいいでしょうか?
田中:まずは大前提として、協業をするにしてもPdM自身がある程度はデータ分析のことを理解している必要があると思います。データについて何も分からないというのでは、いくら専門家に依頼したところで望む成果は得られないでしょうから。
その上で、データサイエンティストと組んで仕事をする際のポイントとしては、「目的を明確に言語化して伝えること」。そして「用途シーンをできるだけ具体化すること」。この2点が特に重要ですね。
永石:確かに。先ほどの川野さんの事例などは「用途シーンをできるだけ具体化する」というポイントをしっかり押さえられていたから、良い結果につながったのかなと思います。
田中:そうですね。ただ、理想はそこから一歩進んで、PdM自身が本格的なデータ分析を実施できるくらいまでスキルを高めることですね。先ほど南さんが紹介されたレコメンド改善の事例でも、PdMである南さん自身が自ら基礎分析をして、仮説を練り上げていましたよね。これをもし他の人に依頼していたら、かなりのストロークが生じていたと思うんです。ですから、本当はPdMがデータ分析までできるのがベストですね。
永石:なるほど。では、PdMが自らデータ分析を行う際に、押さえておくべきポイントはありますか?
田中:業務の内容によって異なりますが、たとえば先ほど挙げた①の「機械学習・ディープラーニングを用いたロジック開発」であれば、そもそもどんなデータを学習させて、最終的にどんなアプトプットを出したいのか。つまり、「何を入れて何が出てくるか」の定義が重要になります。たとえば、CVを上げたいのか、それとも成約を上げたいのかによって、最初に入れるべきデータはまるで変わります。ですから、まずは事業の目標やビジネス要件、KPIなどをしっかり定めておくことが大事ですね。
田中:また、②の「モニタリング・BIツールの開発」を行うケースであれば、それを使う人にとって本当に価値のあるツールとは何かを、徹底的に分析することが重要です。先ほど川野さんが紹介された「Ribbon」などは、まさにそこを突き詰めた好事例だと思います。
じつは私が担当している『ゼクシィ』でも以前、PdM主導で営業組織向けの支援ツールを開発したことがありました。クライアントである結婚式場に見せるための「クチコミレポートなのですが、営業組織、クライアントの双方にとって価値あるレポートとはどんなものなのか、徹底的に追求しましたね。PdMを中心に営業シミュレーション会というものを実施して「こんなデータがあればクライアントが喜ぶと思う」「このデータは、先方に見せても何のアクションにもつながらないから不要だよね」など、何度も議論を重ねてブラッシュアップしていったんです。
営業のメンバーも巻き込んで、最終的には「営業トーク実例集」のようなものとセットになったレポートをつくることができました。
永石:なるほど、面白い。これも川野さんのケースと同じく、実際の商談のシーンをリアルに想定し、必要なデータを絞り込んでいるのが特徴ですね。結局のところ、そこまで気を配って開発しないと現場に浸透しないというか、せっかくのツールを使ってもらえずに終わってしまうんですよね。
僕もチームのメンバーによく言うのですが、プロダクトはつくって終わりではなく、活用してもらうところまで責任を持たないといけないし、そこが事業会社であるリクルートでPdMをやる醍醐味でもあるんじゃないかなと。今のお話を聞いていて、改めてそう思いました。田中さん、ありがとうございました。
<視聴者からの質問>
Q:田中さんや南さんのように、データサイエンティストとしてのバックボーンがなくても、リクルートのPdMに応募できますか?
永石:これは、僕から答えたほうがよさそうですね。まず、まったく問題なく応募できます。そもそも、僕や川野さんもデータ分析に関しては未経験でしたから。
大事なのは自分の強みやバックグラウンドを、いかに企画につなげるか。それはデータ分析に限らず、たとえば川野さんのように「現場へ入り込む力」を生かせる人もいるし、他にもユーザーリサーチが得意な人、開発ができる人ならそれを武器にすればいい。リクルートのPdMは、各々の得意領域をうまく強みに変えている人が多いと思います。
ですから、ご質問に対する答えとしては「データサイエンティストのバックボーンは一つのアドバンテージにはなりますが、ビハインドには全くなりません」という感じでしょうか。そんなことは気にせずに、ぜひエントリーいただけたらと思います。
より良いプロダクトの開発や改善に欠かせない「データ分析」。データ分析を効果的な改善につなげるための考え方やアプローチの面で、今回のナレッジがお役に立てば幸いです。
リクルートプロダクトデザイン室は、プロデザ!BYリクルートのイベントを定期的に開催しています。
ぜひチェックしてみてください!
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