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ウィーンにて開催されたUX特化のカンファレンス「uxcon vienna」参加レポート

こんにちは。
リクルート新規事業開発室でプロダクトマネージャーをしている岡部未祐です。
リクルートの新規事業開発室では、世の中にまだ無い価値を提供できるようなサービスを日々生み出し、グロースしています。
私はその中でも『エリクラ』というギグワークマッチングプラットフォームと、『Tempodas』という店舗用賃貸物件ポータルサイトを担当し、日々目標達成のためにカスタマー価値の定義やUX向上に取り組んでおります。

そんな中、uxcon viennaというUXリサーチとUXデザインに特化したカンファレンスに参加する機会をもらったため、そこで学んだ内容を書いていきます。

私と同じプロダクトマネージャーの方や、エンジニア、デザイナーの方など、担当サービスのUX向上に邁進しているすべての方、事業成長とUX向上のバランスに悩んでいる方などに参考になる内容かと思います。


uxcon viennaとは

uxcon viennaは、オーストリア ウィーンで開催されるUXリサーチとUXデザインに特化したオフライン/オンライン融合型のカンファレンスです。
2021年に第1回目を開催し、今年で3回目。毎年ウィーンで開催されています。
実践的なプレゼンテーションはもちろんのこと、ワークショップ形式のセッションや、相互コミュニケーションの時間、読書会、カンファレンス最終日にはウィーンの歴史的な建築物の観光ツアーも用意されており、とても充実した内容になっていました!

なぜuxcon viennaに参加したのか

1つは、カンファレンスというとテクノロジー特化の内容のものが多い印象の中、UXに特化したカンファレンスは珍しく、とても興味があったこと。
もう1つは、担当サービスを使っていただいているユーザーに、最高のユーザー体験を届けたい・・・という思いで仕事をしている中で、果たして世界的企業でUXについて考えている方々は、どんなプロセスで改善活動を行っているのかインプットしたかったからです。

また、今回はリクルートのプロダクトデザイン室にある「手挙げ研修制度」という制度を利用し、同カンファレンスへの参加に手を挙げていたメンバーと3人で参加しました!
「手挙げ研修制度」とは、自ら参加したい研修を選び立候補すると、その研修に参加できるチャンスを得られるとても魅力的な研修制度です!貴重な機会をもらえて本当にありがたいですし、同じカンファレンスに参加したいと思う仲間がいることにとても嬉しい気持ちになりました。

今回印象に残ったプログラム

The business behind the buttons(ボタンの裏側にあるビジネス)

Design Director @Slack Will Miner

UXに関わる仕事をするといっても、それをどんなビジネス上で行うか?によって仕事の種類と質が決まってくる というお話です。

「なぜUXを優先する企業と劣後させる企業があるのか?」という問いをベースに、UXとビジネスを紐解く内容でした。

この問いについて考えるには、まず、ビジネスとはなにか?を考える必要があります。ビジネスとは、利益を生む活動のことです。
そして、
利益 = 収益 – コスト
となり、利益の最大化のためにはコストの最小化と収益の最大化を考える必要があります。

次に、以下の3つの観点で話が展開されていきました。

1.責任者は誰か?
誰が会社を設立し、経営しているのか?責任者の立場はどうか?で、会社の目指すべき方向性が変わります。
デザイナーがCEOの会社であれば、デザインに重きを置くことが多くなりますし、
営業マンがCEOの場合はセールスに重きを置くことが多くなります。
つまり、ビジネス上の重要事項次第で、そこで評価される仕事の内容が変わります。

2.商品を買うのは誰か?
たとえ企業の理想とユーザーのニーズが異なっていたとしても、ビジネスを続ける以上買い手のニーズに応える必要があります。
ここではtoB / toCそれぞれの、アメリカの旅行予約サービスが例に挙げられていました。

<toB旅行予約サービスの場合>
売り手は営業担当者で、買い手は導入企業の財務部長と想定されます。
買い手はコストカットが目的でサービス導入を検討しているため、いかにコスト削減に強みを持っているか?が評価ポイントになります。

<toC旅行予約サービスの場合>
売り手はサービス自体で、買い手はエンドユーザーです。
買い手は数々の旅行予約サービスの中からこのサービスを選択し、旅行を予約(購入)します。
つまり、ユーザー体験が良ければ売上につながるため、いかに旅行予約のUXが良いか?が評価ポイントになります。

3.ビジネスモデルはなにか?
ビジネスモデルはビジネスの利益を上げるための戦略です。
ここでは、BtoB SaaSサービスとFreemiumサービスを例に挙げ、それぞれで得られる機会と挑戦、UXの介在余地についてお話されていました。

<BtoB SaaSの場合>
企業が企業に対し、サブスクリプションベースでサービス提供するビジネスモデルです。
ここでは
 ・使いやすさ重視のサービス設計
 ・安定した資金力のあるチームで働けること
などが機会として与えられ、
 ・競合同質化に焦点を当てた機能改善
 ・企業向けに売れやすいサービス設計
などに挑戦できます。
ここでは競合に負けない多機能さと、安定性を目的としたUX改善となるでしょう。

<Freemiumサービスの場合>
基本機能を無料で提供し、追加/高機能に対してプレミアムをアドオンで請求するビジネスモデルです。
ここでは
 ・体験にフォーカスしたサービス設計
 ・エンドユーザーにアクセスしやすいこと
 ・消費者向けの品質基準を作れること
などが機会として与えられ、
 ・コンバージョン率の最適化
 ・競争力がとても高いこと
などに挑戦できます。
ここでは、サービス自体がサービスを売る状態になっているため、よりユーザー体験にフォーカスしたUX改善となるでしょう。

このように、関わる会社やビジネスの構造によって、UXを武器に介入できる仕事の種類が異なるため、自分がどういった力を伸ばしたいのかによって、どのようなサービスに関わるかを決めよう、ということが述べられていました。

<感想>
プロダクトマネージャーとして冷静に自分の担当サービスを俯瞰した際に、UXと一括りに言っても、ビジネスモデル次第で注力ポイントを冷静に判断する必要性を学びました。
また、私自身ビジネスを伸ばしお金を生み出す力を養いたく、エンジニアからプロダクトマネージャーにジョブチェンジした経歴があり、キャリアは自分で選択して作るものであるという思いが強いです。今回のプレゼンテーションを受け、自分が何の力を伸ばしたいのか、何のためにどういう機会のもと、どんな挑戦をしたいのかは常に整理・言語化しておく必要があると改めて感じました。

UX metrics: Measuring the user experience(UXの測定基準)

UX Director @Google Javier Andrés Bargas-Avila

UXの測定と成功指標を正しく設定し、UX観点でビジネスの意思決定に介入していこうというお話です。

ビジネスの多くの場合は成功指標(アクティブユーザー数、収益、レイテンシ等)を持っています。
ですが、この指標はビジネスとエンジニアリングの指標です。
ビジネスサイドは儲かっているかどうかを知りたいので、アクティブユーザー数や収益を測定します。
エンジニアはサービスがうまく稼働しているかを知りたいので、レイテンシを測定します。
ですがここにはUXが欠けていますよね?ではUXはどう計測したら良いのでしょうか?

ここでは、30日間のアクティブユーザー数を例に解説されていました。例えばアクティブユーザーが以下のような推移をしていたとします。
このグラフだけでは右肩上がりに成長しているように見えますが、本当でしょうか?

アクティブユーザー数を紐解くと、「新規ユーザー」と「既存ユーザー」に分類することができます。
先程のアクティブユーザー数を分解してみると以下のようになりました。

確かに新規ユーザーは増えていて成長しているようですが、同時に既存ユーザーを失っています。これでは、ユーザー獲得に対してかけたお金が無駄になってしまうため、望ましくありません。
このように、モニタリングしたい指標に対し1つの指標だけではなく、2つ以上の指標を持たなければ、数字への解像度が低くなり本質的な改善活動ができません。
UXの指標を設定するときはこの観点を持ちましょうとお話されていました。

ではどのように指標設定すれば良いのか?
手段の1つとして、HEARTフレームワークという手法が紹介されていました。

出典元:Rodden, Hutchinson & Fu (2010)(https://static.googleusercontent.com/media/research.google.com/en//pubs/archive/36299.pdf)
  • H : Happiness ユーザーがあなたのサービスを使って楽しんでいるのか?

  • E : Engagement ユーザーはあなたのサービスに愛着を持っているのか?

  • A : Adoption ユーザーはあなたのサービスを使い始めただけでなく、使いこなそうとしているか?

  • R : Retention ユーザーがあなたのサービスを使い続けたいと思うのか?

  • T : Task success ユーザーはタスクを楽に完了させられるのか?

このフレームワークを利用し、UXベースの計測指標を設定します。
プレゼンテーションでは、架空のミュージックアプリを例に紹介されていました。

指標を設定したら、測定をします。
測定には三角測量の考え方を使います。三角測量とは、1つの指標を2つ(以上)の観点で計測することです。
架空のミュージックアプリの例で計測プロセスが解説されました。
ABテストを行い、新しいバージョンBをテストしたとします。

まず、収益(Revenue)を見ます。すると、特に差異がなさそうです。
収益だけでこのABテストを評価した場合、無風という結果になってしまいます。
ここで三角測量の出番です。
次は満足度(Satisfaction)をみてみましょう。
すると、Bが負けているように見えます。負けているならば採用は見送りたいですが、なぜBの満足度が低いのかはまだわかりません。
次に受け入れ度(Adoption)を見ます。
ここに差異はありません。
最後にタスク成功率(Task success)を見てみましょう。
Bが明らかに負けています。このABテストが検索UIをテストするものであった場合、検索体験そのものが悪く、満足度の低下を引き起こしていたのかもしれません。

このように、指標の計測は2つ以上の指標で行うことが重要であり、成功指標の裏で何が起こっているのかを調査する手がかりになるとのことでしたこと。また、UX指標を設定し計測することで、一見定性的に見えるUXを定量的に計測できるようになり、ビジネスの意思決定に介入できることが紹介されていました。

<感想>
新規事業開発室のプロダクトマネージャーは、担当サービスでOKRというフレームワークを用いてユーザー価値の言語化と定量化を行っています。今回紹介されていたHEARTフレームワークでの考え方はOKRに近いものがあり、私達の取り組みにも自信がつきました。
KPIを追い続けてしまうと、なかなかUX改善に手が回らなくなることも往々にしてあるかと思います。ですがフレームワークを活用して適切に言語化、定量化することで、ビジネスの意思決定にUXを介入させることができ本質的な改善活動にも繋がるので、自分の担当サービスにも是非取り入れたいと思いました。

Zooming out: Service design beyond the interface(ズームアウト:インターフェイスを超えたサービスデザイン)

Director / Service Designer @Anglemap Simon Herzog & Kasey Politano

uxconでは、一方通行のコミュニケーションのプレゼンテーションだけでなく、相互通行のコミュニケーションのワークショップも開催されていました。
今回は、その中のサービスデザインに関するワークショップへ参加しました。
ワークショップでは、サービス全体を俯瞰し、サービス全体の業務フローの最適化を図るためのツールである「サービスブループリント」を実際に作ってみるプロセスを体験できました。

参加者の方々と数名でチームを作り、チームの中の誰か1人の担当サービスを取り上げるという進め方でしたが、私と一緒にプロダクトデザイン室から参加したメンバーの担当サービス『ホットペッパーグルメ』が取り上げられ、『ホットペッパーグルメ』のサービスブループリントを作ることに!

▼当日の様子

サービスブループリントは、カスタマーアクションを、サービス認知からサービス離脱までのコンポーネントに分けるところから始まります。

左から右にカスタマーアクションがマッピングできたら、そこにサービスが関わるタッチポイント、サービスの裏で動いている運用をマッピングします。
そして、マッピングした各項目に、
 ・解像度が低く調査をしたいもの
 ・改善の余地があるもの
をラベリングしていきます。

こうすることにより、カスタマー目線だけではなく、サービス全体を俯瞰した本質的な改善活動を行うことができます。

実際の付箋はこんな感じ

限られた時間の中でしたが、オンボーディングを整備することや、友達紹介機能などを具体施策として出していただくことができました!

<感想>
まさかリクルートのサービスが選ばれるとは思わず、とても貴重な体験ができました!
サービスブループリントは、ユーザー目線はもちろんのこと、サービスを提供する組織の目線でも課題解決できる点に魅力を感じました。
なにか革新的な機能を作ったとしてもその裏で煩雑なオペレーションが生まれ、サービス全体で見ると最適な状態でなくなってしまう事は往々にして起こりますよね。
私の担当サービスでもカスタマージャーニーマップは作っていますが、サービスブループリントは作ったことがなかったため、是非取り入れてみたいなと思いました。
また、ワークショップ中、「実際のサービスで作成をする場合、縦にも横にもかなり巨大なマップになってしまうのでは…?」と思いながら参加していたのですが、それは「あるある」とのことでした。巨大になったとしても、すべてを網羅的にマッピングすることで、本質的な課題を特定することができるそうです。

uxcon viennaに参加した感想

実践的な内容がとても多く本当に学びになったと共に、リクルートの新規事業開発室のプロダクトマネージャーが取り組んでいることが海を超え世界中でも取り組まれていることを実感し、自信にも繋がりました。

私が所属している新規事業開発室が抱えているサービスの性質上、PMFするまでがむしゃらに検証を繰り返さなければいけません。そういった環境でスピード感を持ってUXリサーチを進めていくには、今回学んだ様々なフレームワークや計測手法がとても役に立つと感じました。

また、UXやサービス開発という枠組みで見ると、国や企業が違っても、抱えている課題感や難しいと感じるポイントは同じであることがとても興味深かったです。
参加している様々な企業の方とのコミュニケーションを取ることができ、自分の視野がとても広がったと感じたため、また是非機会があれば参加したいと思いました!


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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