【 プロデザ! BY リクルート第18回】UXリサーチに本気で取り組む! リクルートのリサーチ実践組織「Research Boost Community」の取り組み紹介
リクルートのリサーチ実践組織「RBC」とは?
大草(以下、べぢまき):リクルート プロダクトデザイン室の大草真紀と申します。本日は「UXリサーチに本気で取り組む!リクルートのリサーチ実践組織『Research Boost Community』の取り組み紹介」と題し、プロダクトデザイン室の横断組織であるRBC(※)のメンバー3名に、UXリサーチにまつわる各々の取り組みをシェアしてもらいます。
ちなみに、私は社内で「べぢまき」と呼ばれていますので、本日もそちらの名前で進行いたします。リクルートのSaaS領域プロダクトデザインユニットでUXリサーチャーをしていて、役割としては組織全体の「リサーチスキルの向上」と「リサーチの文化醸成」。もちろん、自分自身で実際のリサーチ案件も担当しています。
べぢまき:本題に入る前に、そもそも「RBC」とはどんな組織なのか。私から簡単に説明いたします。RBCはプロダクトデザイン室にあるリサーチチームと、各プロダクトのメンバーで構成される横断組織です。大きな目的の一つは、実際の調査案件を通じてリサーチの一連の流れと知識をインプットし、RBCに参加したメンバーのリサーチスキルを向上させること。そして、リサーチスキルを獲得したメンバーがハブとなり、各プロダクトの現場で様々なリサーチ活動が活発に行われるようになり、組織全体にリサーチ文化が浸透していくことを目指しています。
べぢまき:RBCができた背景ですが、もともと私たちが手掛けるSaaS領域では、ユーザー理解のためのヒアリングやクライアントを訪問してのリサーチ活動を数多く実施していました。ただ、当時はリサーチスキルや知識に長けた人間が、それほど多くはありませんでした。リサーチ手法を体系的に理解し、適切に調査設計・実査・分析・活用までできる人材が一部に限定されていたんです。
そうした課題をふまえ、組織全体でのリサーチスキル向上とリサーチ文化醸成活動を行うために、現場メンバーを巻き込んだ組織横断のRBCを企画・提案し、立ち上げました。
参考までにRBC設立までに実施したこと、設立後に取り組んだことを簡単にまとめましたので、ご覧ください。
現在はこうした取り組みに加え、「リサーチ業務の効率化」や「ナレッジ集約に向けた活動」などResearchOpsの活動も行なっています。(※ResearchOps…UXリサーチをサポートするための人材、プロセス、ツール、戦略などを指す)
ここからは実際にResearchOps活動を推進している3人にバトンを渡し、それぞれの取り組みをシェアしてもらいます。
では、はじめに栗原さん、お願いします。
ResearchOpsの取り組み① 超実践リサーチナレッジの作成(ユーザビリティテスト/定量アンケート調査)
栗原:栗原大河と申します。2022年に新卒でリクルートへ入社し、現在は『Airレジ』の新機能開発に従事しながら、RBCのメンバーとしても活動しています。
栗原:私が行なったResearchOPSの取り組みは「超実践リサーチナレッジの作成」です。
はじめに、これを作成した背景について。私たちがRBCのメンバーに対して「リサーチスキルの理解度」に関するアンケートを実施したところ、UXリサーチの代表的な手法である「ユーザビリティテスト」と「定量アンケート」への理解度が不足していることが分かりました。また、プロダクトマネージャー(以下PdM)がユーザビリティテストや定量アンケートを推進しようとしても、体系化されたナレッジがないため、調査検討工数が膨らんでしまうという課題も浮かび上がってきました。
栗原:こうした課題をふまえ、まず私のほうで以下のように要求/要件定義を行いました。
栗原:これらの課題を解決するために、私が挙げた要素は主に4つ。「How toの概要を伝えること」「よくあるつまづきポイントや他プロダクトの事例を伝えること」「手間がかかるリサーチ手法を型化(フォーマット化)すること」「社内の推進ルールを型化(フォーマット化)すること」です。この要求・要件定義をもとに、リサーチナレッジをまとめていきました。
なお、作成にあたっては、リクルートのメンバーが自由に閲覧できるナレッジ共有データベース「UXDB」を参考にしています。UXDB内にある過去案件のHow toも事例として挙げつつ、ユーザビリティテストと定量アンケートの際に「何をすればいいのか」という疑問を具体的に解決できるよう「数多くのテンプレ」「具体例」「あるあるの悩み」を反映しました。そうやって、チームのメンバーとともに半年がかりで作り上げたのが「超実践リサーチナレッジ」です。
栗原:ユーザビリティテストのナレッジは全39スライド、定量アンケートのナレッジは45スライドにおよびました。
社内資料ですので詳細は明かせませんが、定量アンケートナレッジの資料を一部だけ紹介します。
たとえば、定量アンケートの進め方について、フォーマットを用意したり、Q&Aで設問設計の基本やよくある間違いをサポートしたりしています。
栗原:また、具体的なHow toについて図解や実際の事例を用いて、推進をサポートしています。具体的には、「対象サンプル数の選定方法」について図解で説明したり、「ウェイトバック手法」について具体例で説明したり、「分析視点と最適なアプローチ方法」について、目的別で整理したりといった形ですね。
栗原:この「超実践リサーチナレッジ」の効果ですが、RBCメンバーへ再度アンケートを実施したところ、「ユーザビリティテスト理解度」は27.5%UP、「定量アンケート調査理解度」は21.75%UPと、一定の改善が見られました。
また、SaaSの領域のプロダクトデザイン組織に対してもこのナレッジの周知を行った結果、「理解できた&使ってみたい」or「使っている」が90%を超えるなど、高い認知と利用意欲を確認することができました。
栗原:最後に改めて、今回のナレッジ制作でこだわった点をお伝えして終わりたいと思います。
最も重要視したのは「多くのインタビューを通して、リサーチ実施者に『使われる』にこだわる資料にする」ことでした。そのために、多くの「テンプレ」「具体例」「あるあるの悩み」を用意したり、リクルート内部の推進ルールを反映しています。また、過去にリサーチを実施した数十名の方々にもヒアリングを実施し、資料の精度を磨いていったことで、実際に「使われる」資料を作成できたのではないかと思います。僕からは以上です。
ResearchOPSの取り組み② リサーチ結果のDB
富田:次にご紹介する取り組みは「リサーチ結果のデータベース(以下、リサーチDB)」です。私は『Airメイト』というサービスのPdMをしている富田千智と申します。通信事業会社の研究所でデータサイエンスの研究やサービス開発に従事したのち、2022年にリクルートに入社しました。
富田:はじめに、私たちがリサーチDBの構築を推進した背景からお伝えします。
我々、SaaS領域プロダクトデザインユニットが手掛ける『Air ビジネスツールズ』は16のプロダクトから構成されています。CMでもよく見る『Airワーク 採用管理』や『Airペイ』のほか、私が担当する『Airメイト』もそこに含まれます。
16個もプロダクトがあると、それぞれのプロダクトが独自にリサーチを進めることが多くなり、どうしてもリサーチ結果が「点在」した状態になってしまうという課題がありました。特に、初めてリサーチをやってみたいという人が他のプロダクトの事例を参考にしたくても、なかなか実例が見つけられずどのように進めればいいか分からないという状態に陥ってしまっていたんです。
富田:そこで、「プロダクト横断でリサーチ結果を参照可能とし、組織内のリサーチを加速させる」ことを目的に、「過去調査を組織全体の資産として蓄積し、メンバーが調査結果に容易にアクセスできる」ようなデータベースをつくることを目指しました。
なお、具体的に想定される利用ユースケースは以下の3つです。
1 類似手法の確認(リサーチを実践したいが具体的な事例が分からない場合)
2 過去事例の確認(過去、同じような内容の調査を実施しているか確認したい場合)
3 一次情報の確認(自分の担当プログラムを利用しているユーザーの事例を見たい場合)
富田:このデータベースを使うことによって生まれる理想のサイクルは、①「リサーチの事例を蓄積する」、②「蓄積したDBを参照する」、③「それを活用してリサーチを行う」。この①〜③のサイクルがぐるぐると回っていくことを目指しました。
ただ、過去に組織内で同じようなデータベースを作ったことがある人にヒアリングを重ねていくと、こんな課題があることが分かってきました。
富田:たとえば、一つ目の「事例の蓄積」でいうと、データベースにデータを投入すること自体に工数がかかってしまい、事例がなかなか貯まっていかないという課題が見えてきました。二つ目の「DB参照」では、データベースを作ったはいいものの、文化の醸成がうまくいかず、誰も参照してくれないという課題が、三つ目の「リサーチの活用」では、参照してみたものの、そこに思うような事例がなく活用できないという課題があるようでした。
そこで、今回はそれぞれの課題に対して対策を練って検討を進めました。
まず「事例の蓄積」の「データ投入コストが高い」という課題ですが、原因としては事例によって資料形式も粒度もばらばらで、調査内容を整形してデータベース上に格納しなければならないケースが多いようでした。そこで、今回は社内のAI活用推進チームと連携し、人力に頼らないデータ投入を行うことにしました。まずはリサーチ内容のサマリをGPTで作成するところからはじめ、今後はメタデータの付与といったところも自動化していきたいと考えています。
※リクルートは生成AIの活用に当たっては、以下のポリシーを遵守しております。https://www.recruit.co.jp/privacy/ai_policy/
2つ目の課題である「DBの文化醸成」というところですが、そもそも誰もリサーチDBを利用してくれなかったり、使うタイミングが分からないという課題がありました。
解決策としては、まずは私たちRBCのメンバーが中心になってどんどんリサーチDBを活用し、そこから組織全体に少しずつ展開していくことを考えました。たとえば、組織内で「これ、どうやってリサーチすればいいんだっけ?」という疑問が出たら、まずはRBCのメンバーに問い合わせてもらいます。そして、メンバーがリサーチDBから実際の設計資料やヒアリングのログなどを引っ張り出して、質問者に返す。まずはそういった形で「社内にこういうものがあるんだ」「こう使えばいいんだ」という認知を広げていこうとしています。
最後、3つ目の「リサーチの活用」についての課題です。「思った事例がなく活用できない」という人からは、「社外委託しているアンケート調査や市場調査のデータは結構まとまっているけれど、社内で実施したインタビューやユーザビリティテストの結果が見つからない」という声が多く聞かれたため、「事例タイプを絞り、社内実施例を優先して事前収集」することに力を入れていました。
まとめです。今回、リサーチDBを構築するにあたって気をつけたポイントは以下の3つです。
・データ投入の手間を削減する
・利用者を先に想定する
・目的に応じて事例タイプを絞る
今後も上記のポイントを意識しつつリサーチ結果を組織全体の資産として蓄積していって、リサーチを加速させる基盤をつくっていきたいと思っています。私からは以上です。
ResearchOPSの取り組み③ CL/CSリクルーティング
大澤:大澤香織と申します。最後に私から、「クライアントとカスタマーのリクルーティング(協力者の獲得)」について説明します。私は電機メーカーで工業デザイナーとしてリアルプロダクトのデザインに従事したあと、2023年4月にリクルートに入社しました。現在は『Airウェイト』『Airリザーブ』というサービスのデザインディレクターをしています。
大澤:リクルーティング(recrulting)とは、日本語で「募集」や「集める」を意味し、ビジネス業界では主に採用活動で使われます。一方、リサーチにおけるリクルーティングとは「調査対象者のリクルート(募集)」のことを指します。調査対象者とは「定量アンケート・定性インタビューの回答者」のことで、大きく分けて「クライアント(法人のお客様、以下CL)」と「カスタマー(個人のお客様、以下CS)」がいます。対CLには電話やメールで協力いただける方を募集し、対CSには外部の調査会社やツールを利用して調査を行うケースが多いです。
ただ、私自身がCLにヒアリングを実施したいと思ったとき、この「電話でアポを取る」というプロセスに対して、心理的なハードルを感じていました。当事者としてこれを解消したいと思い、同じ課題を持っていた営業担当者と一緒に「リクルーティングT(チーム)」を立ち上げたのが本プロジェクトのきっかけです。
大澤:はじめに、社内でリクルーティングに関するヒアリングを行いました。すると、私たち以外にもリクルーティングに関して様々な課題を抱えている人たちがいることが分かったんです。たとえば、「CS向け調査を実施したいが、調査会社に依頼する以外の選択肢が体系化されておらず知見がない」「CL向け調査を実施したいが、アポ獲得を毎回営業担当者に依頼するのが申し訳ない&リードタイムが発生している」などの声が挙がってきました。
大澤:そこでリクルーティングTでは、「1.現状把握」「2.課題特定」「3.活動計画策定」という3つのプロセスで、具体的な取り組みを決定していきました。とりいそぎ2024年1月から3月にかけては、「リクルーティングフローの整備」「架電方法のナレッジ化」に取り組み、次のフェーズで何をするかの検討も行なっています。
大澤:そして、取り組みのアウトプットとして、CL・CS向け調査におけるリクルーティング方法とTIPSをまとめた「ナレッジBOOK」を作成し、組織のメンバーに共有しました。
大澤:少しだけ中身を紹介します。目次はこちらです。
大澤:たとえば、架電の際の「トークスクリプト」を作成しました。
まずは「自分の肩書き」を伝えます。これにより、自分がサービスの改善を担う役割であることが伝わり、相手の心理的ハードルが下がって話を聞いてもらいやすくなります。次に「インタビューの目的」を伝える。お客様の声を反映し、より良いサービスを作っていきたいという想いと目的を伝えることで、インタビューを受けてもらいやすくなります。
また、意外と重要なのが「所要時間はできるだけ早めに伝える」ことです。お客様はどれくらい時間がかかるのか不安になっているため、できるだけ早い段階で所用時間を伝えます。「3分くらい」と短い時間で伝えておき、時間内に実施できるといいと思います。
大澤:次に、このナレッジBOOKを作成する際に工夫したことを紹介します。
たとえば、CL向け調査のナレッジをまとめるにあたっては、各事業領域の営業の知見をもとに、業種別の架電ナレッジを整理していきました。対象業界と業種は「美容(美容院・ネイル)」「飲食(カフェ・居酒屋)」「医療(病院・薬局)」「教育(塾・大学)」。ナレッジ化した項目は「業界の特性」「コミュニケーションのコツ」「推奨される架電時間帯」「推奨される連絡手段」となっています。
大澤:最後に、ナレッジBOOKの効果ですが、これをインプットした前後のアンケートを比較すると、インプット後はリクルーティングにまつわる全ての項目において理解度の向上が見られました。
大澤:また、効果測定のアンケートでは「資料を見れば(協力者を)集められる気がした。小さいTipsがたくさんあって有益だと思った」「いざ架電しようとなった時、Tips業種別架電推奨時間を使っているイメージが湧いた」「生々しいリアルな情報をベースに記載されていて非常に勉強になった」といった声が挙がっています。
今後は、より架電の心理的ハードルを軽減できる仕組みを作成する予定で、今期の振り返りをもとに詳細を検定しているところです。私からの発表は以上です。
べぢまき:みなさん、ありがとうございました。RBCでは今回3人に話してもらったResearchOPSにまつわる活動だけでなく、今後も様々な取り組みを通じて社内のリサーチ活動を活発化させていきたいと考えています。そして、ユーザーの声を取り入れるためのリサーチ文化が今以上に当たり前のものになっていく。そんな状態を目指していきたいと思っていますので、リサーチの知見がある人や、リサーチに関わりつつプロダクトを開発したいという人はぜひ応募していただけると嬉しいです。
質疑応答
Q.調査目的に応じてリクルーティング対象(顧客の大きさ・顧客が抱える課題感などのセグメント)も変わると思いますが、そのあたりの整理や社内共有されているのであれば、整理・共有にあたって気をつけたポイントを教えてください。
べぢまき:リクリーティング対象をどう定めるかについては、調査計画のフォーマットや対象者を整理するにあたってのポイントをまとめたナレッジ資料を作っていて、RBCのメンバーに共有しています。RBCのメンバーだけでなく、業務に関わる人なら誰でもアクセスできる場所に置いてあるので、そういったツールを使いながら考えてもらうようにしていますね。レビューをする側としても、それを使って考えてくれると項目が揃って出てくるため、レビューがしやすいというメリットもあります。
Q.ステークホルダーの強力な意思決定とリサーチした結果が相反していた場合、どのような交渉・説得を試みていますか?
べぢまき:私の経験でいうと、そもそもこうした状況になることが少ないです。というのも、リサーチ前に「こんなリサーチ結果が出たら、こういうことをします」という具合に、結果ごとにその後の方針を整理したものをステークホルダーに共有しているので、大きく乖離することはありません。リサーチ結果が出てから交渉・説得をするのではなく、事前に認識のすり合わせをしておくことが大事なのだと思います。
Q.Webサービスの新規立ち上げでUXリサーチを学び始めた初学者です。ユーザーインタビューに関して、自分なりのコツがあれば教えてください。
大澤:たとえばCLへのインタビューであれば、最も大事なことは相手にストレスを与えないこと。そのためには事前にしっかり準備をして、相手方がストレスなく回答できるようにする必要があると思います。また、電話ではなく実際に店舗まで足を運んでヒアリングができる場合は、「より良いサービスをつくっていきたいんです」という思いやリサーチの目的をいかに分かりやすく伝えるか。そこが伝わると共感してもらえて、協力を得やすくなるので、そこもやっぱり事前準備ですね。
栗原:準備でいうと、調査の「入口(目的)」と「出口(調査結果の活用)」をいかにシャープにするかというところも大事だと思います。僕も最初の頃はHowが先行しがちでしたし、ふわっと始めてしまっていたところもあったのですが、一通りやってみた結果それではダメだなと。「このリサーチは何が目的で、どんな結果を得て、それをどう活用するか」を事前にしっかりと詰めておくことで、より良いリサーチができるのではないかと思います。
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