【PdM Days】DAY4⑥「兆しを見つけ、未来を描く」
多彩な領域のプロダクトマネージャー(PdM)が集結し、プロダクトづくりに関する様々なセッションを発信するカンファレンス「PdM Days」。全体を通してのテーマは「枠を超えて、未来のまんなかへ」。セッションを通じて第一線で活躍するPdMの視点を獲得し、これまでの自分の枠を超えて未来に挑戦する。そのきっかけを提供し、日本のプロダクトづくりに貢献していきたいという思いが込められています。
今回は、2月17日に行われたセッション「兆しを見つけ、未来を描く」の模様をお届け。未来を創るプロダクト、国境を超えてメディアで多く参照されるようなサービス・プロダクトはどのように生み出されるのでしょうか。それを生み出すには、小さな兆しに耳を傾けながら、社会の価値観やカルチャーの変化の潮流を掴むこと。その上で、未来に望ましい変化を与えるためにスタンスをとることが重要なのではないでしょうか。
カンファレンスの締めくくりとして、TakramのFutures Researcherとして活躍し、Lobsterr PublishingでAnother Editor in Chiefとして未来の兆しを捉える活動をされている佐々木康裕氏にご講演いただきます。
※2024年2月17日開催の「PdM Days Day4〜兆しを見つけ、未来を描く〜」から、内容の一部を抜粋・編集しています。
プロダクトという領域を超え、社会や未来に変化を及ぼすものを作る
佐々木康裕です。Takramという会社で新規事業や新規サービスのサポートなどを行っています。個人としては「世の中がどう変化をしていて、これからのビジネスにどう影響を与えるのか」ということを考えて、パッケージ化し書籍化するという活動をしてきました。また、5年前からは「Lobsterr」という、世の中の変化に耳を傾け、観察し、それをお裾分けするニュースレター形式のメディアをやっていたり、Podcastでも未来のトレンドのタネや仮説を発信したりしています。
PdM Days最後のセッション「兆しを見つけ、未来を描く」ということで、私からは未来についてどう考えるかについて、お話できればと思います。
私は日頃から未来のトレンドのタネについて考えていたり、本やニュースレターを書いていることもあり、色々な企業の方々と「次のトレンドは何か」「自分たちが何をするべきか」というディスカッションをすることが多いです。ただ、そうした場で「社会や世界の変化を捉えられているだろうか? 社会への視座をベースに、あるべき未来を構想できているだろうか?」と問うと、ほとんどの人が「No」と答えるんですね。
私はそうした場合、たとえば「AppleやNikeがこういうことをやっていますよ」といった事例をたくさんご紹介して、相手の変化を期待するような活動を行っています。その変化とは、他の企業や国が「真似したくなるようなサービスや取り組み」を生み出せる人になること。そして、自分が作るプロダクトがユーザーだけでなく、ユーザーの周りの人々にも変化を与え、また、プロダクトという領域を超えて社会や未来に変化を及ぼす。そうしたものを作ることを、私が未来についての視座をインプットすることでサポートできたらと思っています。
「兆し」を見つけるための、文脈把握力
では、「思わず真似をしたくなるような取り組み」はどうやって生まれるのか?
私は「文脈形成力」と「文脈把握力」がとても重要だと考えています。
文脈形成力は、たとえば「これからは昔の音楽がトレンドになるから、そのための専用アプリを作ろう」といった、どんなふうに文脈を作るかという観点です。
一方の「文脈把握力」は、どう文脈を把握していくのか、どう社会やトレンドの変化をつかんでいくのかという観点。素晴らしいプロダクトを作っている企業は、この文脈把握力に長けていると感じます。
企業が新たな取り組みを行う際に、この文脈把握力はどんなふうに働くのでしょうか。以下の図をご覧ください。
まず、左は「競争力のない企業の新たな取り組み」を表しています。たとえば、新しい機能を追加したり、広告やキャンペーンを打ったりと、色々なことをやってみるものの、一瞬盛り上がっただけですぐに忘れられてしまう。そんなケースが多いのではないかと思います。
一方、右の「未来を牽引する先進的企業の取り組み」を見てください。紫色のボックスの部分は、ロケットの発射台のようなものをイメージしてください。ここからすごいパワーで発射され、ブースターが切り離されたロケットは大気圏を超え、良い感じで宇宙を漂う。先進的企業には、そんな取り組みが数多く見られます。
では、このボックスには何が入るのか、つまり、何が発射台になっているのか。それはたとえば、「独自の視座」や「インサイト」「社会の風を読む力」「未来の見立て」「トレンドを掴むスピード」などが挙げられます。
私が留学していたアメリカの大学の同級生で、現在、スターバックスやNikeなどで働く人たちの多くは、先ほど挙げたことに関連する仕事をしていて、彼らが作るプロダクトや取り組み、キャンペーンが国境を越えて日本や世界の国々に伝わっている。それが面白いなと思いますし、この力をどう掴んでいくかが、今後はますます大事になってくるのではないでしょうか。
未来を描くためのTips
次に、「未来を描くTips」について共有します。
私は未来を構想するとき、基本的に以下のようなプロセスで考えています。
この中で、特に大事なポイントの一つが「感度のいい情報を集める」です。
そして、私が「感動のいい情報かどうか」を判断するチェックポイントにしているのが、以下の8項目になります。
<「感度のいい情報」のチェックリスト>
一部でタブー視されているか。
一般的な考えや慣習とは反しているか。
“大人”が眉をひそめそうか。
人々の価値観の変化を表しているか。
(少数でもOK)熱狂的な支持者がいるか。
新しい技術にドライブされているか。
隣接領域に似たような事例があるか。
過去から続く文脈・ストーリーがあるか。
少し話はそれますが、かなり昔に、雑誌「WIRED」の創刊編集長であるケヴィン・ケリーさんと対談する機会があり、すごく面白いことを聞きました。彼が教えてくれたのは、「テクノロジーが若者や犯罪者によって、どう乱用されているか?」を見ると面白いよ、ということです。たとえば、ビットコインが出始めた頃は、麻薬の密売などにも利用されていて、ビットコインを使う人自体が怪しく思われていた時期がありました。それが今や、アメリカでETFが上場するなど、かなり大きな金融商品になっています。そうした、その時点では多くの人から懐疑的に見られているものに対して「もしかしたら大きな可能性があるかもしれない」という目線を持つ。それは、未来のプロダクトを考える人たちが持っておくべきマインドセットなのではないかと思います。
「半未来」を考える
では、具体的にどんなふうに未来を描いていくのか。
私が意識しているのは、以下の4つです。
バラ色の未来ではなく、負の側面や副作用も含めて考える。
未来のみならず「半未来」を考える。
タブー化・スティグマ化とその反対を考える。
未来とは常に「過去2.0」
たとえば、1の「バラ色の未来ではなく、負の側面や副作用も含めて考える」ですが、これは未来にはいろんな捉え方があるということです。たとえば「日本が人口減になる」というのは確実に訪れそうな未来ですが、一方で「ありそう」「あるっちゃある」みたいな未来もあるわけです。
そのスペクトラムを、負の側面も含めて幅広く考える。これがとても大事だと思っています。
また、2の「未来のみならず『半未来』を考える」も重要なポイントです。最近は特に未来予測がどんどん難しくなってきているため、私はもう「半未来」を考えることに徹しようかなと思っています。「半未来」とは、すでに発生している未来のことで、「今はユニークに見えるけれども、未来のスタンダードになるポテンシャルを決めているもの」あるいは、「一部の先進層はすでに取り入れ始めて、それがない生活には戻れない状態になっているもの」を指します。
私が崇拝するSF作家のウィリアム・ギブスンの言葉に「未来はすでにここにある。ただ均等に行きわたっていないだけだ」というものがありますが、つぶさに見れば未来は隣にあるかもしれません。あるいは国境の向こうで、すでに起きているかもしれない。そんな考え方を持ち、その半未来をどう使っていくか考えることがとても大事ではないかと思っています。
未来を「名付ける」
最後に、「未来を名付ける」ということを皆さんに提案したいと思います。
これは自分が構想している未来を一つの単語で表現することです。長い文章やビジュアルなどではなく、短い言葉で名前をつけることで、世の中に伝播していきやすくなります。
上記は「未来フレーズ」の作り方の一例です。こうしたテクニックも使いつつ、仮説の段階でもいいので、ぜひ自分が作りたい未来に名前をつけてみてください。
まとめです。みなさんがプロダクトをつくるときには、そのプロダクトの向こうにいる「ユーザー」、「その回りにいる人たち」、さらには「その先にある経済や社会」を変えるものであるかを、ぜひ考えてほしいと思います。つまり、自分は「×××経済の一部」あるいは「○○型社会の一員」として社会を変えていく。そんな思いを持って未来を見据え、何をすべきか考える。そして、その作りたい未来に名前をつける。そうすればきっと、面白い未来が描けるのではないでしょうか。
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