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リクルートのプロダクトグロースを支える「ナレッジシェア」の仕組みとは?【オンラインイベント開催レポート】(前編)

現在、リクルートには200以上のサービスがある。それら全てのプロダクトマネジメントとデザインマネジメントを担っているのがプロダクトデザイン室(以下、プロデザ室)だ。
 プロデザ室には500人を超えるプロダクトマネージャーやデザイナーが所属し、それぞれが担当するプロダクトづくりで得た知見や情報などは、部署全体のナレッジとして共有されている。
では、日々積み上がっていく膨大なナレッジをプロデザ室ではどのようにシェアし、一つひとつのプロダクト開発に役立てているのか。7月28日に開催したオンラインイベント「プロデザ BY RECRUIT 〜大公開! プロダクトグロースを支えるナレッジシェアの仕組みと文化〜」から内容の一部を抜粋・編集し、ナレッジシェアの仕組みを作るためにやってきたこと、具体的な共有の方法を紹介。
前編と後編に分けて紹介する。(後編はこちら)

 

リクルートのプロダクトづくりの知見を公開

 

「プロデザ BY RECRUIT」は、これまでプロデザ室が培ってきたプロダクトづくりのノウハウ、デザイン組織運営において大切にしてきたことなどを発信するオンライン形式のイベント。リクルートについて正しく知ってもらうと同時に、日本のプロダクトデザインのレベルを底上げしていくことを目的としている。

7月28日に開催された第一回目のタイトルは「大公開! プロダクトグロースを支えるナレッジシェアの仕組みと文化〜」。登壇者は、プロダクトマネージャーの反中望と、デザインディレクターの磯貝直紀。ともに数年前から領域を超えた横断的なナレッジシェアを推進し、壁にぶつかりながらも試行錯誤を繰り返してきた両者。単にルールを整えるだけでなく、そもそもナレッジシェアを文化として根付かせ、仕組み化するために取り組んできたことを振り返った。


領域を横断し、日々の業務に活かせるナレッジをシェア


まず、反中から語られたのは、プロダクトデザイン室全体のナレッジシェアについて。システムエンジニアやUXコンサルタントを経て2015年にリクルートに転職した反中は、入社3年目の2018年頃から領域間をまたぐナレッジシェアの推進に力を入れ始めた。事務局を立ち上げ、さまざまな領域からメンバーを募り、自ら旗振り役として仕組みづくりに奔走してきたという。

反中はそのきっかけについて、次のように振り返る。

反中「リクルートは2012年に分社化し、7つの中核事業会社・機能会社が誕生しました。当時は『HR』『住まい』『日常消費領域』などの領域ごとに会社が分かれ、プロダクトマネージャーやデザイナーもそれぞれの会社に所属している状況でした。そのため、各々がプロダクトづくりで知見を得ても、それが領域を横断してシェアされることはなかったんです」

 

反中 望(たんなか のぞむ)。株式会社リクルート プロダクトデザイン室 自動車プロダクトデザイングループ グループマネージャー。担当サービスは『カーセンサー』などの中古車メディア。システムエンジニア、UXコンサルタントを経て、2015年にリクルート入社。『カーセンサー』や『ゼクシィ』『SUUMO』などのサービスでプロダクトマネージャーやUXデザイナーを歴任しつつ、領域を横断するナレッジシェアの仕組みづくりに奔走。

反中「しかしその後、再び会社を統合し、全てのサービスが株式会社リクルートに一元化されることになりました。200以上のサービスを手掛ける“プロダクトデザイン室”が組織され、全てのプロダクトマネージャーやデザイナーが所属することになった。そこで、改めてお互いが持つナレッジを共有していこうという流れになりました」

もともとリクルートの事業は複数社に分社化するほど多様性があり、プロダクトの数は年々増え続けている。大量の案件が同時並行で進んでいて、その数だけ成功・失敗のナレッジも生まれている。それらを部内全体でうまく活用していくことができれば、プロダクトデザイン室という組織の強みが最大化されると反中は考えた。

 

データベースやイベントなど、4つの施策でナレッジシェア


では、具体的にどんな方法でナレッジを部署全体に共有しているのか。主に、4つの施策があるという。

・案件データベース(UXDB!)

・シェアイベント(UXshare!/UXnight!)

・オンライン動画研修(UXBC Plus!)

・組織横断チャット(UXchannel!)

反中「一つ目は、社内で『UXDB』と呼んでいる、プロダクトのグロース案件のデータベースです。案件ごとに『どんな施策を、どういう背景でやっているのか?』『実施したABテストの内容』『ビフォー・アフター画面などの改善内容』『その施策により、コンバージョンレートが何%アップしたか』など、施策の背景から振り返りまでを一つのデータベースにまとめています。全ての案件がリスト化され、社内の人間であれば自由に検索・閲覧ができるようになっているので、例えば『(手掛けるプロダクトの)入力フォームを改善したい』という時に関連する過去の案件を検索し、参考にすることができるんです」

反中「二つ目は、イベントでのシェアです。『UXshare!』や『UXnight!』というイベントを四半期に1〜2回くらい実施し、プロデザ室から100〜200名程度に参加してもらってナレッジをシェアしています。ここでシェアするのは日々の細かい事例というよりは、もっと大がかりな取り組みにおけるナレッジ。例えば、半年や1年がかりでプロダクトを大幅にリニューアルするとか、新しいサービスを開発するといったプロジェクトから得られた知見ですね。

リクルートに限らず、こうした社内向けイベントを実施している会社は多いと思いますが、我々が大切にしているのは“生々しいプロセス”を共有すること。聞く側が『なるほど、ここが落とし穴なんだな』『ここは、うちでもすぐに使えるな』といった具合に、すぐに業務に生かしてもらえるような“持ち帰りポイント”を作ることを意識しています」

反中「三つ目は、オンライン動画研修でのナレッジシェアです。リクルートには『スタディサプリ』というサービスがありますが、その社内版のようなイメージですね。『UXBC Plus!』と題して十数本の研修動画を用意し、各々が見たい時に見られるようにしています。内容はどんな案件にも汎用的に使える、型化されたノウハウ。例えば、最初のビジネス検討のフェーズで気をつけるポイントや、要件定義やプロダクトの画面設計をしていく上での基本的な考え方などを、型化したフレームワークとしてまとめています」

反中「四つ目は、組織横断チャット『UXchannel!』です。これはナレッジシェアというよりも、もう少し気軽に意見交換をしたり、質問し合ったりとを目的としたオープンなコミュニティという位置付けですね。チャット形式で、領域を超えていつでも質問や回答のやりとりができるよう、テーマ別にチャンネルを区切っています。例えば、アプリ担当者、グロース担当者、商品企画の担当者など、さまざまな担当者が集まるコミュニティをチャット内に作り、そこに質問を投げると『うちではこうやっています』といった回答を得ることができます」

本当に役立つ仕組みを作ろう


これらの仕組みを構築するまでには、さまざまな試行錯誤があったと反中は語る。ナレッジシェアの失敗例としてありがちな、本業に忙殺されて仕組み化への取り組みが頓挫してしまうなど、仕組みを作っても十分に活用されないといった状況を避けるため、とにかく知恵を絞ったという。

反中「じつは、過去にも何度かこうしたナレッジシェアの仕組みづくりを試みてきましたが、そのほとんどは途中で立ち消えになってしまいました。ですから、今回は『とにかく徹底的にやってみよう』と、強い決意を持ってスタートしたんです。
とはいえ、現場の有志だけで草の根的に進めるのは限界がある。そこで、この取り組みの価値を意思決定者にアピールし、会社としてリソースを割いてもらえるように働きかけました 

その訴えは届き、ナレッジシェアを仕組み化するための事務局が立ち上がることに。各グループから1名ずつ「横断ナレッジシェアの担当者」を選抜し、それぞれの本業に従事しつつも5%程度の力を事務局の取り組みに注ぐことが認められた。

 

 

反中「実際に仕組みを作るにあたって大事にしたのは、現場が『すぐに役立つ』と実感できるものにすること。こういうものは往々にして、まずは簡単に集められたり、まとめやすかったりする情報から手をつけようとしてしまいがちです。その結果、あまり使われないものになっては意味がありません。そこで、どんなに集めるのが大変でもシェアされたら絶対に役立つ情報、業務にすぐ活用できるものを対象にしていきました。

 

その上で、シェアにあたってのターゲット設定とシナリオ作りにも力を入れました。普段のプロダクトづくりでやっているのと同じように、『どういう人たちが、どういうシーンで、どういうナレッジに触れたら、どんなふうに活用でき、どんなリターンがあるのか』といった具合にターゲットユーザーの活用シナリオを想定して、シェアの方法と情報の内容を考えていきました」

 

ここまで力を尽くした上で様々な仕組みを作っても、現場で積極的に活用されるまでには時間がかかるという。例えば、せっかくのデータベースも、ナレッジを投稿してくれる人がいなければ意味をなさない。そこで事務局ではいきなり結果を求めようとせず、軌道に乗るまで粘り強く利用者をサポートするなど、全力で伴走していった。

 

反中「例えば、データベースにナレッジを投稿してもらうよう呼びかけたり、ひたすらリマインドをしたり、投稿の仕方を丁寧に説明したり。また、投稿されたナレッジを実際に活用し、その価値を理解してもらった上で、『今度はご自身でもシェアしてみてください』とお願いしてみたことも。チャットコミュニティも、最初は誰かが質問しても回答者がなかなか現れない状況があったので、事務局側で答えられそうな人を探したりしていました」

 

そうした粘り強い取り組みによって、徐々にナレッジシェアの価値が現場に浸透。現在では事務局が介入しなくても、シェアのサイクルが回るようになったという。

 

反中「ポイントは現場の人と連携しながら、ちゃんと役立つものになるようにしていくこと。また、いきなり全員に参加してもらうことは難しいので。最初はハブになるような人を見つけ、巻き込んでいくことも大事だと思います」

 

 後編では、デザインディレクターの磯貝直紀が登壇。総合デザイン会社を経て2015年にリクルートへ入社した磯貝は、さまざまな領域の部署を経験したのち、現在のデザインマネジメント組織を立ち上げ、デザインチーム全体のガバナンス強化やクオリティアップ、デザインで事業に貢献するための仕組みづくりなどを推進してきた。そんな磯貝が語るのは、デザイン職種に特化したナレッジシェアの考え方だ。(後編はこちら)


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