デザインの力でプロダクトの価値を最大化。大型デザインカンファレンス「UI UX Camp!」開催レポート(後編)
2022年3月26日、オンラインで開催された大型デザインカンファレンス「UI UX Camp!-presented by Business & Creative」。主催は 、リクルートのグループ会社でありUI UX開発でパートナー企業のビジネスを成長させるデザインファーム、ニジボックスだ。同社は2019年から知見共有を目的としたビジネスイベント「Business & Creative」を定期開催しており、今回は“UI UXデザイン”や“デザインマネジメント”にフォーカスする回となった。
本noteでは、イベント共催者の立場としてリクルートがイベントをレポート。前編と後編に分けて、イベント内で語られた内容をご紹介する。(前編はこちら)
UI UX、デザインのトップランナーが登壇
近年、ビジネス創出やグロースの段階で重要視されるUI UX。ことDX時代においては、最先端のテクノロジーとユーザーをつなぐ“UI UXデザイン”が鍵となる。また、企業経営の中心にデザインを据え、その力を存分に活用する“デザインマネジメント”という考え方も、徐々に浸透しつつある。もはやデザインは経営やイノベーションに欠かせないものであり、クリエイターのみならず、多くのビジネスパーソンが身につけるべき素養といえるだろう。
そこで、今回の「UI UX Camp!」では「デザインでDX時代を切り拓け!」と題し、UXディレクターやデザイナー、デザインマネジメントのエキスパートまで、さまざまな分野のトップランナーが集結。それぞれのトークセッションで、最新の取り組みがシェアされた。
そのなかから今回は、リクルートプロダクトデザイン室の磯貝直紀のトークセッションを抜粋する。(※当日のトークセッションをもとに、一部編集を加えています)
リクルート 磯貝直紀トークセッション「デザイン経営の先にあるもの 〜デザイナーの役割を更新するデザインマネジメント〜」
ファイナルセッションには、リクルート プロダクトデザイン室の磯貝直紀が登壇。磯貝はデザインマネジメント部の部長として、リクルート全体のデザイン向上に寄与する業務を行なっている。
トークセッションのテーマは「デザイン経営の先にあるもの 〜デザイナーの役割を更新するデザインマネジメント〜」。リクルートにおけるデザインマネジメントの事例を紹介しつつ、組織のなかでデザインを活用していくための方法論が示された。
<磯貝直紀PROFILE>磯貝直紀(株式会社リクルート プロダクトデザイン室 デザインマネジメントユニット デザインマネジメント部 部長)。京都工芸繊維大学大学院を終了後、総合デザインファームにて通信キャリアのデザインマネジメントや自治体の公共デザインなど、領域を横断したデザイン業務に携わる。2015年に株式会社リクルート入社。HR、日常消費、学び領域におけるプロダクトデザイン業務、横断デザイン組織立ち上げなどに従事。現在はデザインマネジメントユニットの部長と、株式会社ニジボックス クリエイティブ室を兼務。
磯貝「私が部長を務めるデザインマネジメントユニットは、リクルートのプロダクトを横断的にデザインしている組織です。リクルートのビジネスは多岐に渡り、領域も規模も、ビジネスモデルも異なります。さらに、事業のフェーズも立ち上げ初期、成長期、成熟期とバラバラです。当然、プロダクトごとにさまざまな状況が発生するため、私たちのような全体を横断してデザインマネジメントを行うチームが必要になる。デザインディレクターには、多様なケースに対応しデザインの力でプロダクトの価値を最大化させていくこと、また、デザインを活用して企業に貢献していくことが求められます」
一つひとつ課題も状況も異なる事業に対し、アプローチを変えながらデザインマネジメントを行ってきた磯貝。その手法は多岐にわたるが、大きく分ければ以下の3つのパターンに収斂されるという。
パターン①「デザインドリブンで変革を牽引」(事例:ゼクシィ)
磯貝「一つ目のパターンは“デザインドリブンで変革を牽引”です。このパターンの肝は、『未来の理想像を具現化する』こと。検討の初期段階でデザイナーが理想を具現化し、それを組織全体に共有することで議論を前に進めるという方法です。『ゼクシィ』の事例をもとにご説明しましょう。
『ゼクシィ』は、アプリでの集客が伸び悩んでいる時期がありました。そこで、抜本的なUXの改変をしようと議論を進めていたのですが、関わるメンバーの戦略イメージがバラバラだったため議論がなかなかまとまらず、可能性が萎んでいく事象が発生していたんです。
しかし、開発の場にデザイナーが入ることで状況が一変します。机上で議論するだけでなく、デザイナーがそこで出たアイデアを精査しつつ戦略実現の核となるコンセプトを策定し、プロトタイプまで作ってしまったんです。つまり、みんなの意見を盛り込んだ“未来の理想像”を、先にビジュアルで具現化してしまったわけです。もちろん、理想ですからすぐには反映できないこともあるでしょう。それでも、その理想像から逆算するような形で、プロダクトの進化をナビゲートしていける。『ゼクシィ』はこの流れで、アプリのリニューアルを実現させました。デザインがビジネスを前進させていくドライバーになった事例といえるのではないでしょうか」
パターン②「ユーザーへの提供価値を最大化」(事例:Airレジ オーダー)
磯貝「二つ目のパターンは“ユーザーへの提供価値を最大化”です。こちらのパターンの肝は『ユーザーインサイトとプロダクトを結びつける』こと。紹介する事例は、『Airレジ オーダー』です。
『Airレジ オーダー』は、飲食店などでお客さんからとった注文を、レジやキッチンへ即座に連携するプロダクト。その戦略変更に伴い対象店舗を広げることになったのですが、現在のプロダクトで対応できるのか、それとも大幅な改変が必要なのかどうか分かりませんでした。
そこで、ターゲットになる店舗へデザイナーが直接伺い、ユーザーリサーチをすることにしました。実店舗で仮説の検証や課題の抽出を行い、ユーザーインサイトを捉えてチームにフィードバックした上で、最適な形にプロダクトを修正する。このサイクルを回すことで、対象店舗の実態をふまえた上で使い勝手を追求した、精度の高いプロダクトを作ることができました。つまり、ユーザーインサイトとプロダクトを直接つなげることで、提供価値を最大化できた事例です。 やはり、実際にプロダクトをつくるのはデザイナーですから、その本人がユーザーの視点を得ることはとても重要です。そうすることで初めて、本質的な価値をプロダクトに落とし込めるのではないかと思います」
パターン③「最適なデザインコンサルティング」(事例:ホットペッパービューティー)
磯貝「三つ目のパターンは“最適なデザインコンサルティング”です。こちらのパターンの肝は、『デザインの価値を翻訳して提示する』こと。デザインコンサルティングとは、事業の状況を正確に見定め、最適な形でデザイン活用のあり方を提示することですが、その際に大切なのは、“デザイナーではない人に対して、いかにデザインの価値を分かってもらうか”です。特に、決裁者やステークホルダーに対して、ちゃんと翻訳して伝えること。それができればビジネスサイドの理解が得られ、プロジェクトをより前進させやすくなります。
このパターンがハマったのが、『ホットペッパービューティー』のデザインリニューアルでした。以前のプロダクトはデザインに課題がありましたが、そのことを経営層決裁者にうまく伝えられず、説得できないまま改善が進まない状況があったんです。
そこで、開発チームに私たちデザインディレクターが入りました。まずは、事業の現状をヒヤリングするところからスタートし、ステークホルダーの状況を理解した上で、デザイン活用による価値をしっかり翻訳する作業にかかりました。デザインが良くないとで、何が起きているのか。そして、それを改善することで、どんな良い効果が見込めるのか。さらには、それが絵に描いた餅にならないよう、開発の実現性を考慮したデザインシステムを構築し、提示したんです。結果、決裁者の合意を得られ、『ホットペッパービューティー』のデザインを改善することができました」
今回はリクルートの事例をもとに3つのパターンが紹介されたが、磯貝は最後に「デザインマネジメントのあり方は無数に存在する」とも付け加えた。
「どんな状況にも、それに合ったデザイン活用の仕方があるはずです。それぞれに最適化した形でデザインの力を最大化し、一つひとつ価値を生んでいく。その積み重ねがとても大切です。積み重ねていくことで、会社や社会全体にデザインマネジメントの必要性が認識され、より活用範囲が広がっていくはずですから」
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今回の「UI UX Camp!」ではこの他にも、「Fortnite(フォートナイト)」のUXディレクターを務めたCelia Hodent氏による基調講演「メタバースでひろがる体験価値」や、デジタル庁CDOに就任した浅沼尚氏の「行政にデザインを浸透させる意味とその可能性」、さらには国内における“デザインマネジメント”の第一人者・田子學氏のトークセッションなどが行われた。アーカイブ含め1500人以上がオンラインで視聴。8時間におよんだカンファレンスは、UI UXについて、そしてデザインについて多角的な視点でとらえる貴重な機会となった。
ニジボックスの丸山潤氏 トークセッション「デジタル体験の新潮流 デザインが担う領域の変化と可能性」はこちらから(前編)