翻訳のすゝめ〜UX書籍翻訳奮闘記
この記事は リクルート プロダクトデザイン室 アドベントカレンダー 2022 12日目です。
こんにちは! リクルート プロダクトデザイン室の反中(たんなか)です。
突然ですが、年の瀬にこの記事を読んでいるような情報感度の高い皆さんであれば、プロダクトマネジメント、デザイン、UXなどについて日々情報収集されているかと思います。
そうした中で、やはり海外の事例やノウハウをもっと知りたい…もっと英語の文献にあたりたい…でも英語が苦手で難しい…という悩みを持っている人も多いのではないでしょうか。
そんな人にオススメなのが、本を読むだけでなく「翻訳」してしまうこと。海外のUXやデザインに関する専門書を翻訳することを通じて、グローバルな知見を深く自分のものにしてしまおう、ということです。
私も本業では『SUUMO(スーモ)』や『カーセンサー』といったサービスのプロダクトマネージャーをやりつつ、個人活動として海外のUX関連書籍の翻訳を2冊ほど手掛けています。
今回は、一介のプロダクトマネージャーである私がなぜ翻訳をやろうと思ったか、翻訳をしてみて何を得られたか、をお伝えできればと思います。
きっかけは身近に転がっている
私が翻訳を始めたのは本当に偶然。PdM組織のマネージャーになって間もない頃に、仲良くしていた同僚から誘われたのがきっかけです。なんとなく興味があったのと、タイミングとしても新しいチャレンジに前向きだったこともあり、二つ返事でOKし、さらに仲の良いもうひとりの同僚を誘って3人の翻訳チームが始まった、という経緯になります。
きっかけはいろいろなところに転がっているものです。「英語苦手だけど本当にできるかな」とか「忙しくて時間が取れないかな」という不安は当然ありつつも、チャンスがあれば「いったん断らずにトライしてみる」という姿勢が大事だと個人的には考えています。
翻訳はつらいよ〜進めるための4つの極意
そんなわけで気軽な気持ちで始めた翻訳ですが、それはそれは大変でした。
3人で章ごとに担当をわけ、1ヶ月毎に定例ミーティングを設けて進捗確認の場を持ち、次の定例までにどこまで進めるかを決めるわけですが、まぁ進まない進まない。
3人とも本業だけで十分すぎるほど多忙な中なので、作業できるのはどうしても夜中や週末、「いったい、いつになったら終わるのか…」と絶望に駆られたことも一度や二度ではありませんでした。
そんな中でも(当初の楽観的な計画よりはだいぶ遅延してしまったのですが)なんとか翻訳をやり遂げ、出版までこぎつけることができたのは、大きく4つのポイントがあったと考えています。
ポイント1:一人でやらない
ポイント2:ペースメーカーを作る
ポイント3:ルーティンを作る
ポイント4:最初から完璧を目指さない
ポイント1:一人でやらない
一人でモチベーションを維持し続けるのは難しいもの。実は私を誘ってくれた同僚は、最初自分一人で翻訳を進めていたのですが、途中で少し行き詰まってしまい、それもあって私に誘いの手が伸びた、という経緯でした。
どんなプロジェクトでもそうかもしれませんが、やはり一人で進めていくのは孤独だし、なかなかモチベーションの維持が難しいもの。特に翻訳プロジェクトはどうしても長丁場になるので、一緒に乗り越えていける仲間がいるのはとても大事です。
3人という人数もよかった気がします。2人の場合、お互いが忙しくなってしまってそのまま放置、ということにもなりがち。逆に人数が多すぎると責任感の分散が起きてしまい、「まぁ自分がやらなくても他の人が進めてくれるかな…」といった気持ちが生まれてしまいます。「三人寄れば文殊の知恵」という古いことわざはやはり正しかった、といったところでしょうか。
ポイント2:ペースメーカーを作る
我々のペースメーカーは、月イチの定例ミーティング(「翻訳の会」と読んでいました)。定例ミーティングをマイルストーンとして、「次の定例までにどこまで進めるか」を決め、それをさらに週次のスケジュールに落とし込む。週次の進捗は3人のチャットで適宜確認。
先程も書いたように、現実的には徐々に遅延していくわけですが、それでも月イチできちんとスケジュールを組み直すことで、無限の遅延地獄に陥る、といったことは避けることができました。
本業のように明確な締切や、強制力が働きにくい個人活動のプロジェクトは、「いつの間にか立ち消えになる」ということもしばしばあるため、このようなペースメーカーを作ることがとても大切です。
ポイント3:ルーティンを作る
仕事が終わった夜遅くや週末に「さあこれから翻訳タイムだ」と思っても、疲れているし、着手までの腰が重くなるのが人情です。
そこで工夫したのが、「頭を使わなくていいルーティンワークから始める」こと。
具体的には、その日取り組みたい部分の原文を翻訳ソフトに突っ込み、とりあえず下訳を作る、といった作業です。
この作業自体は全く頭を使わずにできるので、着手のハードルが低いのがポイント。しかもやった成果(翻訳された日本語のかたまり)が着実に積み上がるので、モチベーションにもつながります。
(そういえば、『行動を変えるデザイン』にも、「キュー→ルーティン→リワード」というサイクルの話が出ており、行動に対するフィードバックの重要性が語られていましたね!)
ポイント4:最初から完璧を目指さない
翻訳は単純に言えば「英語を読んで正しく理解する→日本語に直す」というだけなのですが、きちんとした読みやすい日本語に直すのは意外と大変。また、訳語やトンマナを揃えたり、細かいところにこだわり始めると、なかなか進まなくなります。
なので、最初から完璧を目指そうとせず、40点版でも60点版でもいいのでとにかくある程度のかたまりを一通り訳しきること。
「ポイント3:ルーティンを作る」ともつながるのですが、とりあえず前に進んでいる、という実感が得られることが、この果てしない翻訳の旅を挫折せずに続けるためにはとても大事なことでした。
翻訳すれば薔薇色の人生が待っている
そんなこんなで2020年6月、晴れて『行動を変えるデザイン』という書籍を出版することができました。
その後、おかげさまで版を重ね、2022年12月時点で5刷まで出すことができています。
ここからは翻訳してよかった点を紹介します。
メリット1:深い学びにつながる
メリット2:共同作業で絆が深まる
メリット3:翻訳をきっかけに世界が広がる
メリット1:深い学びにつながる
まず第一によかったことは、関心があった分野に関する英語の本をただ読むだけよりも圧倒的に深く、しっかりと理解して自分のものにすることができた点です。
これまでもUXに関わる英語の本を買ってみたり、英語のブログを読んでみたりといったことはたまにしていましたが、ざっと読んだだけだと理解もなかなか深まらないし、知識としても定着しない、という印象です。
翻訳する、という作業を通じて、一文一文をしっかりと読み込み、さらに共訳者の仲間と中身について議論することで、ものすごく理解が深まりました。
メリット2:共同作業で絆が深まる
「ポイント1:一人でやらない」ことのもう一つのメリットですが、複数人で翻訳プロジェクトを進める中で、仲間としての絆が深まった実感があります。本の内容や解釈について議論することでお互いの考え方を知ることができるし、また、何よりも目標に向けて一緒に頑張った経験は何物にも代えがたいものです。
メリット3:出版をきっかけに世界が広がる
翻訳に限らず、「本を出す」ということのインパクトは実はとても大きいものです。
私達も、出版をきっかけにいろいろなイベントにお声がけいただいて(あるいは自分で持ち込んで)、本の内容をベースにしたセミナーを実施したり、勉強会に参加させていただいたりなど、新しい出会いや機会を多く得ることができています。(例えばこんなイベントなど)
翻訳の過程は今思い出してもとても大変でしたが、こうしたメリットを考えると、苦労した甲斐があったな、と感じています。
味をしめて、最初の翻訳本を出した翌年の2021年6月には2冊めの翻訳本(『UXデザインの法則』)を出版しました。
今現在は翻訳プロジェクトは少しお休み中ですが、機会を見つけてまた新しい翻訳プロジェクトを立ち上げる機会を虎視眈々と狙っています。
結論:翻訳は大変。だけど取り組む価値がある
長々と書いてきてしまいましたが、要するに言いたいことは
関心のある分野の本を翻訳することは、深い学びにもなるし、機会も広がり、自分のキャリアアップにもつながり、何より仲間との絆も深まり、とにかく楽しい!
ということです。
もうすぐ2023年。新しい年のチャレンジとして「翻訳」を考えてみてはいかがですか?
そして、面白そうな本であれば私も一緒にやりたいので、ぜひお声がけください!(Twitter: @tantot)