コードの書けないCS担当がエンジニアに混じって AWS re:Invent に現地参加してきた話
こんにちは!SaaS クライアントサクセスグループの君島です。
私たちはAir ビジネスツールズのクライアントサクセス(以下CS)担当として、「どうしたらお客様みなさまがお困りごとなくサービスを利用できるか」「万が一お困りごとが発生した時、正しく素早いご案内をするためにはどうしたらいいか」などの問題と向き合い、ヘルプデスク運用の改善や)、FAQやチャットbotなどのCL向けコンテンツ企画などをしています。
突然ですが、みなさんは AWS re:Invent というイベントをご存じですか?
昨年、機会をいただきこのイベントに参加したところ得るものが大きかったので、参加を迷っている方(特に非エンジニア職の方)に勝手に宣伝したく、振り返りのnoteを書いていこうと思います。
また、カスタマーサポートやカスタマーサクセス(特にテックタッチ)職を担当されていてキャッチアップに悩んでいる方、リクルートプロダクトデザイン室のクライアントサクセス職に興味のある方にも読んでいただけたら嬉しいです。
1.そもそもAWS re:Inventとは
AWS re:Invent は、クラウドコンタクトセンターである「Amazon Connect」、チャット/音声bot構築ができる「Contact Lex」、機械学習モデル構築の「Amazon SageMaker」などなど、
CS部門での利活用が可能なサービスも多数提供しているAWS社の最大規模の「ラーニングカンファレンス」です。
年に一度、一週間に渡って実践的なワークショップやディスカッション、セミナーなどが行われるのですが、このイベント色々とスケールが規格外です。
■規模
re:Inventには世界中からクラウドエンジニアを中心に5万人規模が一堂に会し、オンラインでも30万人以上が参加します。
大人数でのセミナーだけでなく、ワークショップやチョークトーク(黒板を前に一つの課題について議論しながら考えを深める対話型のセミナー)なども充実しており、サーバーセキュリティから機械学習、コールセンター運用やSaaSビジネスの考え方まで、AWSの提供サービスの周辺領域に関する2300以上のセッションが行われます。
■会場
re:Inventはラスベガスのカジノ街をキャンパスに見立て、6つの統合型リゾートホテルを中心とした16施設で開催されます。
東京タワーから皇居までのエリアがまるっと入るくらいの広さ、あるいは東京ディズニーランドが3つ並ぶくらいの広さと言うとキャンパスの広さが伝わるでしょうか。
2.どうしてre:Inventに参加したのか
私はエンジニアリング経験のないド文系のCS担当で(よろしければこちらでキャリア紹介しておりますのでご覧ください!)、サポートに関するシステム・コンテンツの実装はエンジニアやWebデザイナーのチームとタッグを組んで推進しています。
そんな中でいつも課題に感じているのが最新技術のキャッチアップです。
この大AI時代、CSの世界も日進月歩です。どんな技術が生まれ、どんなツールが登場したかということは日々のリサーチでも追うことができますが、
それが実際にはどのくらいの精度なのか?触ってみるとどんな体験になるのか?導入や運用はどのくらい難しいのか?の肌感を持つことにはどうしても難しさを感じます。
しかし、そこをエンジニア任せにしていたのではいい企画はできません。
どうしたものかしら...と思っていた際に、一緒に Amazon Connect の導入を担当したエンジニアリングチームがこのイベントに参加すると聞き、私も行きたいと申し出ました。
(実際には、「いいな〜〜いいな〜〜エンジニアはいいな〜〜〜」と駄々をこねていたらマネージャーから行っておいでと言っていたただきました。いい会社です。)
3.参加レポート
■受講したセッションについて
エンジニア中心のカンファレンスですが、希望のセッション全てに参加しきれないくらいCS担当者に役立つセッションがありました。
先進的なコールセンターの取り組みや、Amazon Connect の新機能を活用したサポート構築を紹介する、完全にCS担当者向けのセミナーから、問い合わせ音声の感情解析によるリテンション防止の仕組みや、ボイスbotによるCL自走コンテンツを構築するCS領域のエンジニアリングのワークショップ、「強固なコールセンターを作るには?」をディスカッションするチョークトークなど複数受講した中で、面白かったものをいくつかご紹介します。
①Improve customer retention with AI-powered contact centers(構築ワークショップ)
新規顧客獲得にはチャーン防止の5倍のコストがかかるにも関わらず、32%の消費者はたった1度でも嫌な思いをすればチャーンする可能性があります。
とはいえ、コールセンターの現場オペレーターに、「絶対に誰にも嫌な思いをさせないでね!その場で全員に満足のいく回答をしてね!」と要求することはとても難しい...。(そもそもオペレーター権限ではどうにもできないご要望であった場合など)
そこで、「コールセンターでの対話中、嫌な思いをしているお客様がいたらリアルタイムに検知し、離脱防止のための専門担当から即座にフォローできる仕組みを作ってしまおう!2時間で。」というワークショップです。
機械学習モデルを構築するAmazon SageMaker を初めて使うこともあり、冒頭の説明を聞いている間は「手も足も出ずに途中退室にならないかしら、、、」という不安もあったのですが、コンソール操作ではなく自力でコードを書かなければならない部分などは「ここにもう書いたコードがあるから貼り付けていいよ!」と渡していただけたこともあり、なんとか完走できました。
解析データ上の個人情報の扱いや離脱防止担当のアクション定義など検討すべきことが複数あるため、「今すぐうちでも同じことを...!」とはなりませんが、このようなモニタリングの仕組みはお客様の体験向上のみならず、現場のオペレーターの感情負荷の軽減にもつながるので、将来的な選択肢になるなぁと感じています。
②WaFd bank delivers enhanced self-service with AWS conversational AI(活用事例セミナー)
CS担当者にとって、コールセンターの通話時間短縮は常に悩みの種です。お客様のお話をしっかり聞いて不足のない対応をしたいものの、通話時間が伸びれば伸びるほど対応コストは嵩みますし、次のお客様をお待たせしてしまいます。
そんな中で、通話時間を90%短縮したというWaFd bank(ワシントン フェデラル銀行)のコールセンター改善事例を紹介するセミナーでした。
語られたことを端的にまとめると以下の3点です。
チャット/音声のbot磨き込みによるCL自己解決率の改善
機械学習やモニタリングによる問題特定の迅速化
有人オペレーターへの対応方法のサジェスト
どれもCS担当者ならば検討したことがあるテーマだと思うのですが、一つ一つの作り込みの熱量が素晴らしいことに加え、基本的に問題解答はAIに任せ、そこで解決せず有人対応になる場合のオペレーターの価値を「感情の処理」と定義している設計思想が効果を生んでいるなと感じました。(botと人間の併用、線引きをどこに置くかでフワッとしがちなので)
③Resolve customer issues faster with Amazon Connect agent workspace(新機能紹介のセミナー)
AWS re:Invent ではたくさんの新リリース情報が初解禁され盛り上がりました。
新規リリースに関するセミナーは元々はセッションスケジュールに記載がなく、発表とともに朝や夜に突然ねじ込まれるので、うれしい悲鳴とともにディナーをキャンセルすることになります。
そんな中で、私にとって一番「これ!これを待ってたのよ!」となったのが Amazon Connect agent workspace のリリースでした。
詳細はぜひこちらの公式記事をご覧いただきたいのですが、この機能によってAmazon Connectで顧客の問い合わせフローを構築するのと同様の操作感でオペレーター補助のためのstep by stepのガイドを盛り込むことができるようになります。
例えば、お客様がお電話の冒頭のアナウンスに対して「導入の相談」をプッシュしてお問い合わせしてくださったとします。
この機能を使うと、オペレーターに対して「導入相談のお客様全員にお伺いすること」のヒアリングスクリプトを表示したり、そのヒアリング結果をボタンで選んだら追加のヒアリング項目を出したり、結果に合わせて資料送信のためのメーラーを立ち上げたり、営業担当への転送を実施したり、、、といったことをノンコードで設定できるので、新人教育の工数をぐっと下げたり、オペレーターの知識面での負担を軽減してよりお客様とのコミュニケーションに専念してもらうことができそうです。
■セッションの難易度について(非エンジニアでもついていける?)
re:Inventの全てのセッションは100〜400の4段階にレベル分けされており、参加に必要な周辺知識についても事前にアナウンスがあります。
私は、①Amazon Connectの構築経験だけが必要とされるセッションはレベル400まで、②エンジニアリング経験や、触ったことのないサービスの経験が求められるセッションはレベル300まで受講しました。
②については、レベル200まではその場でしっかり話を聞いていればついていくことができ、レベル300になると(かなり疲弊しつつも)全体像は掴めるが、時間内に構築が完了しない...といった状態でした。
完成形を見た上で自分で手を動かして構築していくことで、実装にかかる人的コストや難易度が体感できるので、時間内に構築完了できない高度なセッションでも参加の意義はあると感じました。
■CS担当者の参加について
私はそもそもCS関連のセッションばかり受けていたので、セミナー開始前の待機時間などにお話を聞く限り、企業のサポート企画担当やコールセンターベンダーの管理者など、非エンジニアのCS担当職の方もそれなりにいらっしゃいました。
ただ、日本の方は少なかった印象です。
展示会場やランチ会場よりもCS関連セミナーは日本人比率が下がっていて、CSとエンジニアのキャリア分断の程度が国によって異なるのかしら、と感じました。
■参加してよかったこと
参加時に期待していた、肌感を伴う最新技術のキャッチアップができたのはもちろん収穫なのですが、それ以上にCSというキャリアに自信が持てたのが大きかったです。
CS担当職は、(現場のオペレーターを除くと)おそらくそこまで大きくない組織で、日常的にはあまり同業者と接することなく業務に当たっているのではと思います。
また、資格があるわけでも、それこそエンジニアのように「この言語が得意です」といった専門性が磨きやすいわけでもなく、「自分のスキル/ナレッジはこれで大丈夫なのだろうか」と不安になることも多いのではないでしょうか。
その点、今回セミナーやワークショップの中で、全く違う国/業界/立場のCS関連職の方のお話を聞くことにより、彼らがぶつかってきた業務上の課題やそれに対してとってきたアプローチが自分と大きくずれていないことが実感でき、CSを企業や国に左右されない専門職として信じられるようになりました。