プロデザ読書会レポート~「リサーチ・ドリブン・イノベーション」から学んだ、不確実性の高いリサーチを推進するコツ~
こんにちは、リクルートのSaaS領域でプロダクトマネジメントを担当する飯野です。プロダクトデザイン室SaaS領域プロダクトデザインユニットでは、毎月「プロダクトマネジメント読書会」を行っています。今回は「リサーチ・ドリブン・イノベーション」を題材にした読書会・質問会の様子をレポートします。
プロダクトマネジメント読書会について
プロダクトマネジメント読書会とは、毎月1つの題材とする本を決めて、学びの共有・ディスカッションをする勉強会です。
参加希望のメンバーをSlackで募集し、アンケートで読む本を決めて実施しています。
ちなみに、過去には以下のような本を読んでいます。
部署横断で参加者を募集しているため、普段の業務で関わる人とは異なる視点の気づきを得られることもあり 、非常に勉強になります。
元々は有志だけで行っていた取り組みですが、組織に浸透し、毎月実施されるようになりました。ボトムアップで始まったものが仕組み化された、リクルートらしい取り組みだと思います。
※なお、リクルートでは、誰かの指示ではなく、「必要だ」と思ったメンバーが自主的にはじめて、後に制度化/仕組み化される事例が多くあります。
例えば僕の所属するグループでは、
・Slackで事業に関連するニュースを自由にシェアする
・担当プロダクトに関するSNS上のコメントの収集・共有を自動化する
・プロダクトのアクセスログを可視化して利用動向レポートの作成・共有を自動化する
などの取り組みがあります。
今回題材にした本について
今回題材とした本は「リサーチ・ドリブン・イノベーション」です。「リサーチをやってみたいけど、どう進めたら良いか分からない方」、「アイディア作りの新しいアプローチを探している方」にオススメの書籍だと思います!
詳細は割愛しますが、「問い」と「リサーチ」を軸にしたイノベーション手法について提言している本です。 概要をまとめると、以下になります。
「実験と学習により新しい価値を探索する『探索的衝動』の抑圧」と「きっと何かを生み出せるという『創造的自信」の喪失」が、組織におけるイノベーション創出を阻害している現状がある
その解消のため、「ソリューション」から考えるのではなく、「私たちが考えたくなる分からないこと(問い)」を起点にリサーチを行い、方向性を探究する方法を提案している
「問いの生成→データの収集→データの解釈→合意形成」というサーチのサイクルを繰り返す(=リサーチ)というプロセスを紹介している
この本を題材にした理由は、SaaS領域プロダクトデザインユニットでリサーチを組織で習慣化する取り組みを行なっているからです。プロダクトを企画し、グロースさせる際、ログなどの定量的データから示唆を得ることはもちろん、直接ユーザーから意見を聞く定性リサーチも重要だと考えています。担当者が予想していなかった新しい発見を得ることが、プロダクトの進化、そしてその先の新しい価値提供に繋がるためです。
そのため、誰もが業務の中で当然のようにリサーチができる状態を作ろうとしています。
※リサーチに関しては以下の記事でもご説明しているので合わせてご覧ください
読書会での気づき、疑問
まずは「リサーチ・ドリブン・イノベーション」の読書会を行いました。 各自で本を読んだ後、グループに分かれ意見交換を行い、最後に全体で学びを共有しました。 主に共有した内容は以下です。
「問い」を起点にしたリサーチの重要性について
「問い」を設定し考え始めることで、自分の思考をより刺激し、組織内の対話が発生するメリットがありそう
ソリューションありきで考えないことが、自由な発想に繋がり、新しいアイディアの近道になる
提案されている方法論について
丁寧に手順化されており「意識すれば誰でもできる」という納得感があった
リサーチをする上で、ネガティブケイパビリティ(事実や理由を性急に求めず、不確実な状況下で探求を続けられる能力)を持ち続けることが重要。中長期にわたって答えが出せない状況や、方向性が変わる状況が続くため
一方、メンバー間の議論では「ネガティブケイパビリティを、どのように身につければ良いか」と「現行業務に組み込む余地があるのか」という点について、結論を出すことができませんでした。
すると読書会実施と同時期に、リサーチを推進している読書会メンバーの大草が著者の小田さんとお話する機会があり、読書会の話をしたところ「ぜひ質問会で直接いろいろ聞いてください」とお声掛けいただくことに。それをきっかけに、著者の小田さんをお呼びした質問会を開催するに至りました!
質問会の様子
質問会は、著者の小田裕和さん(株式会社MIMIGURI)とリモートで行いました。
質問会では大きく3つの内容について議論しました。
ネガティブケイパビリティを身につけるためには?
最初に「ネガティブケイパビリティを、どのように身につければ良いか」について議論しました。小田さんからは、
今の時代、最短距離では正解に辿り着きづらい。そのために「立ち止まってみる」「寄り道をする」行為が必要
寄り道を楽しむ感覚こそが「ネガティブケイパビリティ」
お子さんと過ごすようなプライベートな状況では、豊かな思考には寄り道が重要というのは自然に持っている価値観だと思う。それは仕事でも同様に重要になる
と回答をもらいました。
また、「その考え方は一般企業で受け入れづらいのでは」という追加質問に対し、
リサーチの実施前に「寄り道をする時間を取る」ことが重要だという「前提」を擦り合わせることが重要
いきなり会議体で合意するのではなく、意思決定者個人とまずこうした前提の目線を合わせることから始めることで、解消できるのでは
という指摘をいただきました。
出口を明確にできないリサーチが組織で評価される方法とは?
次は「リサーチ内容の評価に関して」です。計画段階で明確に成果を定められないリサーチについて、「リサーチ活動が組織の中で評価されることは難しいのでは?」という質問をしました。
それに対し、小田さんからは「誰に評価され得るかを自分でイメージすること」が1つのヒントになると回答いただきました。
例えば、リサーチした内容が、現在所属している部署では重要でなくても、別の部署だと事業に直結する可能性もあるとし、社内クロスマネジメントの重要性や、自ら新しい評価の場を形成していくことの大切さを示唆いただきました。
リサーチ対話の時間を共有していない人と合意形成するコツは?
最後に、リサーチ結果を元に意思決定・合意形成をする難しさについて議論しました。
中⻑期のリサーチでは、次々に新しい疑問が生まれ、当初設定していた方向性からずれることも多くなります。
結果、リサーチのプロセスを把握していない意思決定者と合意形成することが難しくなりがちです。
これに対し小田さんからは「議論(何かを決める目的)と対話(無目的の会話)の場を明確に分けて、前提を共有する時間を作る」ことが重要だという回答をいただきました。
「決める」前提で議論を始めると、リサーチ結果だけをレビューをする場となってしまい、批判的な議論が主になってしまう
決めることを目的とせず、リサーチ前の前提や、リサーチを通じて見えてきた新しい前提に関する目線合わせの時間を取る。事前に課題感や実情を共有でき、意思決定の場で認識齟齬が生まれにくくなる
合意形成も、結論で合意するのではなく、新しい前提を合意しようとするべき
リサーチメンバーで対話している場に意思決定者も参加してもらうなどの打ち手も有効
また、メンバーからの「そもそも意思決定者と目線を共有すること自体が難しい」という意見に対し、
意思決定者にただ私たちのモヤモヤを聞いてもらおうとするのではなく、お互いのモヤモヤを開示できる(経営層の抱えているモヤモヤにも目を向ける)ことを意識する
意思決定者の認識と異なることは当たり前で、むしろ認識の差を面白がるスタンスに立つことで、次第に一緒に新しい目線を作っていくというスタンスができるのでは?
という示唆をいただきました。
この質問会を通じメンバーは、認識合わせの対話を重視することで、業務内で もリサーチ・ドリブン・イノベーションの方法論を実践できそうだと認識を改めることができました。
まとめ
今回の読書会・質問会を通じ、
「問い」を起点とすることで、ソリューションに縛られない新しいアイディア創出の可能性がある
不確実性が伴うことを許容するために、目線合わせの時間を十分取ることが重要である
ことを感じました。
プロダクトデザイン室では、新機能検討など0から企画を作り上位層と合意形成する機会も多いため、学んだ考えはすぐにでも活かすことができるだろうと思います。
最後に質問会の参加をご快諾いただいた小田さんに、この場をお借りして感謝申し上げます。
最後に補足
本記事で触れた意思決定における「対話」の重要性について、小田さんが解説された記事があります。
理解を深めたい方は、こちらも併せてご覧ください!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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