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ユーザー理解は、自組織理解から!インナーリサーチのススメ

SaaS業界で働くデザイナーの輪郭線を描き、BtoBビジネスとデザイナーをつなぐ 「SaaS Design Conference」。リクルートから、UXリサーチャーとして活躍中の大草真紀が登壇。自身やチームが取り組むリサーチ案件の紹介から、具体的な手法などを紹介。そしてプロダクト改善のため、実は「自組織の人に目を向けたインナーリサーチが効果的」など、数多くの役立つナレッジについて語った。

※イベント内容の一部を抜粋・編集しています。

(1)自己紹介

■プロフィール
大草真紀
株式会社リクルート
SaaS領域 プロダクトデザインユニット/UXリサーチャー

まず自己紹介です。私は社外でのイベント登壇やリサーチに特化したRESEARCH Conferenceでの司会を担当したり、副業でUXリサーチアドバイザーもしています。趣味はサウナで認定熱波師の資格を持っており、銀座で”social bar”を運営したりもしています。

私自身のUXリサーチに関する取り組みをご紹介します。
まず一つ目は、リサーチ案件の実施です。これは課題整理、調査設計、実査、分析、そして分析した内容を現場のデザイナーやPMに浸透させ理解してもらうための活動です。
二つ目は、リサーチ自走のサポートです。私が全て行うのではなく、他のメンバーがリサーチをする時のアドバイスや、リサーチ結果のデータベースを整備することで誰でもリサーチしやすくなる環境づくりなども行っています。
そして三つ目は、組織全体のリサーチスキルの向上です。リサーチスキルの育成やナレッジの共有、そして自社内ではどれくらいのリサーチが行われていて、リサーチできる人はどの程度いるのかなど、現状の調査にも関わっています。

リクルートの事業内容と我々が関わるSaaS事業の関係についてご説明します。「リクルートはSaaSをやっているのか?」とよく聞かれるのですが、リクルートグループのマッチング&ソリューション事業の中に、『SUUMO』や『ゼクシィ』、『リクナビ』、『タウンワーク』などのオンラインマッチング事業とともに、『Airレジ』『Airペイ』などの「Air ビジネスツールズ」を中心としたSaaS事業があります。


(2)リクルートのSaaS事業での顧客理解の取り組み

リクルートでは上記のように様々な顧客理解の取り組みが行われています。これらがトップダウンやリサーチャー発信ではなく、各サービスで自然発生的に行われていることが、素晴らしい文化であり環境だと思います。

取り組みが活発な理由はいくつか考えられますが、SaaSは業務・経営支援サービスツールなので、アルバイト探しなどとは違い、我々が当事者として利用した経験を持っていない場合が多く、サービスのユーザー像や活用のされ方のイメージがしづらいため、それらを「理解しなければいけない」という気持ちが強いこと。そして、セールス組織を通じてお客様(サービスのユーザー)に話を聞きやすいことなどが挙げられます。

そして「何のために各チームが顧客理解をしているのか」が異なる点も、取り組みが多種多様な理由だと思います。この点については、実際の事例をもとにお話しできればと思います。

サービスごとに異なるリサーチの実例

下記はサービスAとサービスBのマネージャーからそれぞれ相談を受けた際の内容です。
両マネージャーから「サービスを検討する上で、グループの皆がユーザーを理解する必要がある。インタビューを検討してくれない?」と同じ相談を持ち掛けられました。両者とも、メンバーのユーザー理解という目的ややりたいこと(インタビュー)も同じでした。
しかし話が進むにつれ、リサーチ方針がサービスAとBでは異なる内容になりました。

このように、同じ依頼でも全くリサーチ方針が違う、という事象が起きましたが、理由は「何のための顧客理解の取り組みなのか」という目的が違ったからです。

上述の通り、サービスAは顧客理解へのモチベーションは十分だが、うまくインサイトを発見できていない。サービスBはリサーチの文化はまだ発展途上で、自身の業務にリサーチが貢献するイメージが薄く、一次情報が少ないため自信がない。つまり、モチベーションや自信など、リサーチの活用先だけでなくそれを活用する組織や人の状態の違いで、リサーチ方針も違ったのです。

チームの状況にあわせて顧客理解の仕方やリサーチ手法を変える

具体的には下記の例のように、活用する「人」の状況にあわせて顧客理解の仕方やリサーチの手法を変えました。

(3)インナーリサーチとして何をしたか

「チームの状況の違いにどうしたら気づけるのか」を考える時に重要なのが、インナーリサーチです。実際に行ったことは、「色々なチームの会議体に参加しどのような会話がされているのかを知る」「サービス改善時の企画資料を読んで、何を根拠に機能が作られるのかを理解する」「マネージャーだけではなく色々な立場の人から困っていることや要望をキャッチアップする」など、広い視点でコミュニケーションを取りました。

さらに、話を聞いて整理し、全体の課題を仮定。その後は、それが起きている原因とメンバーの業務にどんな影響があるのかを整理し、現状を把握しつつ本来の「あるべき」状態を設定しました。

「あるべき」状態の設定後、顧客理解の手法を考えます。顧客理解の手法を考える際は、リサーチの実施だけに絞らず、リサーチの勉強会を実施などにも範囲を広げて考えます。

インナーリサーチでやったことは、ユーザーリサーチと同じ

結果、「インナーリサーチでやったことは、ユーザーリサーチと同じ」いうことが分かりました。

「やっていることは普通」と感じる方も多いかと思いますが、振り返ってみるとユーザーの状況把握やリサーチを丁寧に実施しても、チームや組織の人の状況把握は行っていなかったり、一人だけに聞いて終わるなど大雑把になりがちだったりと思い当たるところがある方も多いのではないでしょうか。

(4)まとめ

本日の話をまとめると、重要なポイントは下記2点です。

  1. SaaSでユーザーリサーチを行う場合、プロダクトの状態だけでなく、プロダクトチームの組織や人を知り、適切なリサーチ手法を考えることが重要。

  2. そのためには、ユーザーリサーチと同じ手法で組織や人を知りに行く「インナーリサーチ」が有効。

サービスを届ける先はユーザーで、リサーチを届ける先は人や組織ということ。そして、届ける先の人のことを理解できないと、適切なリサーチの方法も考えられないということも実感しました。
またサービスやプロダクトを作るのは結局「人や組織」なので、組織自体を良くすればサービスも良くなる。組織を良くすることがリサーチを通じてできるということもこの取り組みから感じました。
今後は実調査の推進や実行以外にも、リサーチャーのスキルを生かしながら「人や組織」を良くすることにチャレンジしていきたいです。


本日お話したことを通じて、皆さまもインナーリサーチを始めてみていただけたら嬉しいです。

リサーチに関しては今回の内容以外も、リクルートプロダクトデザイン室の公式noteに記事がありますので是非ご覧ください。

最後にリクルートでは、リサーチ経験が豊富な、またはリサーチスキルを上げたいプロダクトマネージャー、デザイナーの方を絶賛募集中です。「興味がある」「ちょっと話を聞いてみたい」と思った方は、ぜひ下記のQRコードからお申込みください。私たちの仲間になっていただけたらとても嬉しいです。


終了後の質疑応答では、多くの質問が寄せられた。

Q:顧客の解像度というとカスタマーサクセスも高そうだが、連携や棲み分けしているところはあるか。

大草:カスタマーサクセスの部署との連携で決まったスキームはないですが、今月はカスタマーサクセスからこんな声が上がってきていて、こんな内容が多いなどの情報を共有するSlackチャンネルがあり、それを踏まえてサービスの改善やプロモーションの仕方を考えています。

Q:インナーリサーチで最も大切にするポイントを一つ上げるとしたら何か。

大草:リサーチの結果を本当に活用してもらえるかという点に気を付けています。序盤のストロークで聞けた要望をもう一段深掘ってみて、過去にも同じような情報があったのになぜまた欲しいのかを聞くこともありました。その情報で行動がどう変わるかなどを深堀ってみると、過去にうまくいかなかった際のトラウマなど、重要な話が出てきたことがあったので、本当にその人の役に立つリサーチのためには何が必要なのかを考えることが大切だと思います。

Q:インナーリサーチの工数を認めてくれる組織も寛大だと思うがどう考えているか?

大草:私は工数とは思っていません。部署異動してきたタイミングということもあり、仲間の仕事理解と効果的なリサーチのために上司とコミュニケーションを取って、メンバーに意見を聞く機会を作りやすかったという側面もあります。インナーリサーチだけにわざわざ工数をかけたというよりも、リサーチの中の課題設定の一つのアクションとして行ったという感覚です。

Q:今まで色々なリサーチを経験されてきたかと思いますが、リサーチにあたって大変だったことがあれば教えてください。

大草:基本的にリサーチが好きでリサーチャーになったので、これが大変だったということはありませんが、コアなユーザーに話を聞きたい時につながりがないので、どこから探そうか迷うことはあります。あと、私は人の話に共感してしまうタイプで、辛いエピソードなどを聞くと、自分も辛い気持ちになってしまうこともありますね(笑)

本稿では、リサーチの目的や状況に応じて手法を変えることはもちろん、プロダクトの改善には自組織の「人」に目を向けたインナーリサーチも重要であることをお伝えしてきた。サービスの向上にはプロダクトの改善が欠かせないが、それを手掛ける「人」が困っていること、求めているものを深堀って、理解することの大切さを分かっていただけたのではないだろうか。



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